追加の閑話
閑話 執事長の裏取引
これはトーアが執事長グシスとフードを被った男性であるレセンダル家当主との密会に遭遇した時の話、その内容
―――――
「グシス。例の件は進んでいるのか?」
近くに大き目の屋敷がある一角。周囲から影となり人目に付き辛い場所で人が2人、怪し気に話をしていた。さらに1人がフードを被り顔を隠しているのが余計に怪しさを助長している。
フードを被り、他者に素顔を見えないようにしている男が目の前にいる執事服を着ている男にそう問いかけた。
「予定通り進めています」
「ならいいが」
フードの男はあからさまなため息を吐く。それを見ても執事服の男は嫌な顔を一切見せず対応する。
「ですが、少々予定を前倒しした方が良いかと思います。今回呼び出させていただいたのはそのためですから」
「ああ、そう言う事か。いつもは書面だけのやり取りだけだったところに、今回は対面で、と連絡が来た時は計画が完了したのかと思うたのだがな」
そう言ってフードの男が悪態をつく。誰が見てもフードの男が目の前の執事服の男を見下していることがわかる態度だ。
「最初に言いました通り例の件は進行中です。目的はまだ達成していません」
執事服の男はフードの男の態度を受け入れているというよりも無視しているような態度でそう返す。それを見てフードの男は自身が馬鹿にされていると思ったのか額に青筋を立てる。
「辺境伯家に仕えているとはいえ、お前は使用人の1人にしか過ぎんのだ。伯爵家当主の私にそのような態度をとることは不敬に当たるぞ!」
「それは申し訳ございません。ですが、ここで私が居なくなればどうなるのかくらいはわかるでしょう?」
「チッ……ああ、それくらいはな」
この計画の途中で協力者を失えばどうなるか。いくつか書類や金品を執事が使えている貴族家から横流しさせている以上、証拠が出てきてしまう可能性が高い。さらに目の前にいる執事が裏切るだろうことも容易に想像できた。
執事の小ばかにしている態度を改めることもできず、伯爵家の当主と言ったフードの男はさらに悪態をついた。
「まあ、良い。しかし、予定を早めた方が良いというのはどういう事だ」
「現当主の行動が予想以上にはないのです。少し前に来た女も特に粗を見せないので、遅延策が打てていません。その所為で先延ばしにすることが出来ないのです」
「ふん、それは其方が無能という事だろう」
今まで馬鹿にされた仕返しとばかりにフードを被っている男が喜を含んだ声で言う。それを聞いた執事服の男はほんの少しではあるが初めて表情を歪めた。
「前辺境伯の右腕とも呼ばれていたお前が今では現辺境伯に反旗を翻しているとは。ああ、無能に成り下がったのはその所為かのぅ?」
あからさまに馬鹿にしている態度に執事服の男の表情が抜け落ちる。しかし、ギリギリのところで行動に移すことはなかったようで、執事服の男は小さく息を吐いて心を静めた。
「……こちらで計画の前倒しを行いますので、それに合わせていただきたい。それとこれが今日の分です」
「うぉ? おぉ、そうか。計画の方も承知したぞ」
執事服の男が懐から革袋を取り出し、それをフードの男に渡す。それを受け取ったフードの男は嬉しそうにその革袋を撫でる。
「それでは長らくここに居ますと誰かしに見つかる可能性がありますので」
「ふほ。ほほ、そうだな。ではまた次だ。計画の成功を楽しみにしているぞ」
「えぇ」
フードの男は執事服の男の返事を聞くよりも早く近くの林の中へ身を入れ、その場から去っていった。それを見届けた執事服の男もその場から離れる。
「……あの強欲が。扱いやすいのは有り難いが、貴族家当主だというのにもう少し取り繕う事も出来ぬのか」
執事服の男はそうあからさまに悪態をつきながら人目に付かないよう、外で仕事をしていた態を装いながら慎重に屋敷の中に戻って行った。
しかし、既にある女性に今の光景が見られていたことを最後まで気付くことはなかった。
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