エピローグ
後の話
ナルアス辺境伯家に嫁いできてから2年程が経ちました。
私はアグルス様の妻としてナルアス辺境伯の妻として過ごしています。
あれから何事もなく、とまでは言えませんけれど、大きな問題もなく過ごせています。
前執事長の影響は既に無く、新しく来た使用人たちも慣れたように仕事をしています。それに伴い私付きの使用人が増えたことで、側仕えをしているランが少し忙しそうにしていますが、それでも楽しそうにしていますね。
フィラジア子爵家は少し前にお兄様が後を継いで、持っている商会の方も安定しているようです。お父様たちは当主の座から降りた後も隠居はせず、お兄様の補助をしているようです。
ゼペア商会の方は連絡がある訳でもありませんし、確認していない状況なので詳しくはわかりません。ですが商会長に子供が出来た、という噂があるとランから聞いています。不仲であることや別れたという噂はないので、オージェとリースは上手くやれているのでしょう。
デスファ侯爵家に関わってから、リースに関する悪い噂を一切聞かなくなったのが少し腑に落ちませんが、デスファ侯爵がリースに対して何か忠告したのでしょう。
屋敷にある温室。比較的最近作られた場所ですが、今はそこの日当たりのいい場所でゆっくりします。最近徐々に寒くなってきたので心地いい暖かさです。
辺境伯家に嫁いでから夜会に参加するために色々やっていたのですが、実のところあれから1回しか夜会には参加していません。その1回もナルアス辺境伯家に嫁いできた妻をお披露目するものでした。本来でしたらもう何度か参加する予定でしたが、諸事情で参加を見合わせることになったのです。
表向きには体調不良。まあ、多くの貴族はそうではないことを気付いていたでしょうけれど。
実は最初のお披露目を終えた後、暫くして私が妊娠していることがわかったのです。始めは夜会に参加することになったことで変に緊張しているための体調不良だと思っていたのですが、それがなかなか収まらないことから妊娠していると発覚したのです。
それから、参加する夜会を減らす予定でしたが予想よりも私の悪阻が酷く、結局全ての夜会に参加することはありませんでした。
今は腕の中で寝ている子を起こさないように優しく撫でます。
すでにお腹の中に居た子は私の腕の中に居ます。悪阻もそうでしたが出産する際も大変でしたね。まだ半年も経ってはいませんが凄く前の事のようです。
「奥様」
側で控えていたランが小さく声を掛けてきました。
「なにかしら」
「旦那様が」
ランはそう言って温室の屋敷に続く出入り口を指しました。どうやらアグルス様が仕事の合間に来てくださったようです。
「何かありましたか?」
「いや、様子を見に来ただけだ」
「そうでしたか」
アグルス様も私もこの子を起こさないように小声でやり取りします。
アグルス様はこの子が生まれてから頻繁に私のところへ様子を伺いに来ています。心配なのか、ただ様子を見たいだけなのか、まあ様子を見る限り両方でしょうね。今も腕の中に居るこの子の顔を見ているので、アグルス様が言った通り、今回は息抜きついでに様子を見に来ただけでしょう。
「あら」
「ああ、すまない」
「いえ、アグルス様のせいではありませんよ」
間が悪いことに泣き出してしまいました。
これは私がアグルス様に見えやすいよう少し体勢を変えた所為でしょうか。それとも別の事でしょうか。
確認した限りおむつも大丈夫そうですし、お腹が空いたのかしら。ああ、そのようですね。
「どうやらお腹が空いたようですね」
口元へ指先を持って行くと口に含みました。それでも泣き止むことが無かったのでお腹が空いているのでしょう。
「旦那様」
「ああ」
ランがアグルス様に呼び掛けることで退出を求めました。それを受けてアグルス様もその意図を理解したようです。
「それでは私は戻ろう。トーア、また後でな」
「はい」
変に呼び止めることは駄目でしょうからそう返事をします。別にアグルス様なら見られてもあまり気にしないのですが、寝室以外であれば控えた方が良いのはわかりますしランが気にするのですよね。
お腹がいっぱいになったのか、また寝息を立て始めました。
私は腕の中にある幸せな重みを感じながら椅子の背もたれに体を預けます。
この子が居て、優しい旦那様が居て、ゆっくりと時間が流れる。そんな幸せな環境に今の私はいます。
これまで、色々ありました。実家のことや妹のこと。嫌なことも良かったことも色々。それがあるから今の私があるのでしょうし、ここへ来れたのでしょう。
ですが、これからもこのような日々が続いていければそれが一番いい、改めてそう思うのです。
―――――
これにて本編は完結となります。
ここまで読んでくださった読者の皆様には感謝を。
ありがとございました。
※完結と言っておいてあれですが、この後に数話ですが閑話を更新します
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