事の終わり

 

 デスファ侯爵家の本来の姿を知ってから3日。


 逃げていたゼペア商会長が捕まり処刑され、ゼペア商会の跡取りとしてオージェが就くことになったという話をアグルス様から伺いました。


 これでようやくデスファ侯爵家がオージェを確保していた理由がわかりました。たしかに商会長がいきなり他の家の者に変われば混乱を招きます。それに前商会長の息子となれば今まで取り込んで来た商会を分けることもある程度やり易くなるでしょうね。

 それに全く知らない者が商会長になったら今まで働いていた商会員が不信感や反発を覚えるでしょう。前当主の息子であるアグルス様が当主になった時、ナルアス辺境伯家の使用人ですらそうだったのですから、商会員もそうなる可能性が高そうです。

 それを少しでも回避するためにオージェを跡取りとして正式に継がせたのでしょう。


 デスファ侯爵家で過ごしていたリースはどうやらオージェと一緒にゼペア商会を継ぐ形になるようですが、上手くいくのでしょうか。

 リースが居なかったとしてもゼペア商会はデスファ侯爵に目を付けられていたようですし、遅いか早いかの違いでしかないですけれど、早い段階でゼペア商会がデスファ侯爵家に蹂躙された原因を作った訳ですし、今のオージェと仲が良いとは思えません。ただ、話を聞いた限り、リースはすんなり話を受け入れたようなので、何かあったのかもしれません。

 ……まあ、私が気にすることではないですね。


 それと、フィラジア子爵家から先ほど報告が届いたのですが、この報告は今回の物で最後だということです。


 あのデスファ家の報告の後、商会長がデスファ侯爵家に捕まったことでゼペア商会が実質つぶれた状態になったと、アグルス様がフィラジア子爵家に連絡を入れたようです。

 オージェの父親である商会長が居なければこちらに害はそうそう来ないでしょうから、監視の必要は無いので、フィラジア子爵家からの報告も必要ないという事ですね。


 今回届いた最後の報告は、フィラジア子爵家の近況などを記した物ではありますが、報告というよりも私宛の手紙と言った方が近い内容のものでした。


 内容は近況報告と私宛の謝罪の文が半々といったところ。ただ、謝罪文の内容について商会のことやリースのことが書かれていましたが、私はあまり気にはしていないのですよね。

 しかし、このような事を書くということは、お父様たちは文面とはいえ謝罪することで一度区切りを付けたいのでしょう。


 そもそもゼペア商会のことは、フィラジア子爵家の持っている商会の経営が流行り病の影響で悪化してしまったことが原因ですから、お父様たちの所為ではありません。相手が悪かっただけ。それだけです。

 リースに関しても書かれていますが、厳しく教育したところであの子の性格は元々でしたし、変わるようなことは無いと思います。ただ、この文面については私でなくリース本人に伝えるべきだと思います。

 本来なら返事は必要ないのですが、その辺りについて返事を書いた方が良いのかもしれませんね。


「トーア」


 寝台に腰掛け手紙を読んでいたところ、いつの間にか戻って来ていたアグルス様が声を掛けてきました。扉が開いた音が聞こえませんでしたが、手紙を読むのに集中していたからでしょうか。


「ああ、それを読んでいたのか」

「はい」


 アグルス様は私が手に持っていた物を見て、私から数歩離れた位置で脚を止めました。アグルス様はこの手紙の内容を知っているので、おそらく邪魔をしないようにという気遣いでしょう。


 本当に優しい方です。

 そう思いながら私は手紙を畳み、近くの机の上に置きました。


「読んでいる途中ではなかったのか?」

「いえ、ちょうど読み終わったところでしたので」

「それならいいが」


 そう言ってアグルス様は私の隣に腰掛けます。

 私の肩がアグルス様の腕に触れ、寝間着の薄い生地の向こうからアグルス様の体温が伝わってきます。


 リースがオージェと不貞を働いたことで、私はアグルス様と婚姻を結びました。それは私の予定にはなかったことで、あの時は不安な気持ちが大半を占めていました。それまでは他の方の話を聞いた印象しかなく、あまり良い人柄だと知らなかったので仕方なかったと思いますが、実際に会ってみればとても優しい方でした。


 あの時はフィラジア子爵家の事情もありましたので他の家に嫁ぐ可能性もあったのです。

 オージェとの婚約が破棄されてすぐにアグルス様と婚姻を結んだため、そのようなことにはなりませんでしたが、他の家に嫁いでいたらどのような待遇だったでしょうか。理由はどうあれ一度婚約が解消されていますから、真面な待遇を受けられたかどうかわかりません。


 本当に私の旦那様になってくださったのがアグルス様で良かった。


 そう思いながら私は少しだけアグルス様へ寄りかかりました。


―――――

※次話はエピローグです。

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