閑話 打ち砕かれる ※オージェ視点

 

「リース。これはどういう事だい?」


 周囲を武装した集団に取り囲まれている中、目の前に立っているリースへ声を掛ける。


 リースから呼び出されてゼペア商会の倉庫に来てみれば、なんだこれは。


 今の状況が理解できない。リースは貴族と繋がっていて、少し前に父さんたちが新しい商売相手が出来そうだとはしゃいでいたところだったはずが、気付けば武装集団に囲まれている。

 俺がこのような状況になるようなことはしていないはずだ。昨日の朝から見ていない父さんたちが何かをした可能性はあるけど、そうだったとしたら俺のところではなくそっちに行っているはずだろう。

 いや、見つからないから俺のところに来ているのか?


 考えられる原因は目の前にいるリースくらいだけど、そのリースは俺を取り囲む側に立っている。

 とりあえず、俺がこの状況に立っているのはリースに呼び出された結果であるから、何かしらリースが関わっているのは確実か。


「デスファ侯爵様がゼペア商会を潰したいって言うから、手伝っているだけよ」

「え?」


 リースが何を言っているのか理解できない。いや、理解できているけどゼペア商会に嫁いできたリースが潰す側に回っている意味がわからない。

 リースはゼペア商会とフィラジア子爵家との繋がりを強化するために嫁いできていたはずだ。なのにその繋がりを、自分が嫁いできた目的を無にするような行為に加担しているのが理解できない。


「君は自分が何をしているのかわかっているのか? 君が俺と婚姻したのはフィラジア家とゼペア商会の繋がりを強くするための物だったことを忘れているのかい?」


 デスファ侯爵家に騙されているかもしれない、と淡い期待を込めてリースに問い掛ける。


「忘れてはいないわよ。でも、私にとってただ私を否定してくるだけの実家なんてどうでもいいし、碌に物を買ってくれないゼペア商会なんて何の価値もないのよ」


 曲がりなりにも自身の妻である相手から言われるような事ではない。そんなことを言われて俺の頭の中は真っ白になる。


「ゼペア商会を潰せばお金が入って来るってデスファ侯爵様は言っていたし、貴方と違って私に好きな物を買ってくれる侯爵様の方が私にとって重要だもの」


 頭を金づちで叩かれた気分だ。

 最近関りが薄くなっていたとは言え妻であるリースから他の男、しかも初老の男の方が良い、と言われたのもそうだが、商会の事をただの金のなる樹のように見ている発言をされたことに大きな衝撃を受ける。


「……そうか」


 もしかしたら、という淡い期待は打ち砕かれた。

 婚約する前から求められていたこともあって、他の家に行っていてもリースは俺の事が好きだと思っていた。だけど、まさかリースが俺の事をただの金づる、物を買ってくれるだけの相手だと思っていたとは想像していなかった。それに、今の言葉からしてゼペア商会自体、リースからすれば道に落ちている石とそう変わらなかったということなのだろう。

 悔しい、という思いもあるけれどそれ以上に喪失感が酷い。


「とりあえず、ここから移動しましょう。他の人がそうそう来る場所ではないとはいえ、全く来ないという訳ではないのだから」


 リースの言葉に俺は力なく頷いた。

 ああ、出来ればこんな状況、他の奴には見られたくないな。


 そんなことを曇る頭で考えながら俺は武装した集団に囲まれながら、他の場所へと移動していく。

 移動する中、リースと集団の様子が少しおかしかったことに、気落ちでうつむいていた俺は気付くことは出来なかった。

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