朝のひととき
寝台が揺れたのか体が動いたのを感じたことで私は目を覚ましました。
寝台が揺れたことと布団の中に少し冷えた空気が入ってきたことから、誰かが布団の中から出たのか、それとも布団のなかを見たのでしょう。
まだ少し眠いと思いながらも寝起きの頭でその原因を探しました。
使用人が布団の中を確認することはないので、それは違うとして……、ああ、そうでした。昨日はアグルス様と一緒の寝台へ入って……
原因がわかったことと同時に、少しぼやけた頭で昨日の出来事を思い出しかけましたが、このままでは頬が熱くなりすぐに寝台から出られなくなりそうでしたので、それについて思い出すことを止めます。
とりあえず、私の体が動いた気がしたのは隣で寝ていたアグルス様が起きて、寝台から降りたからでしょう。
ナルアス辺境伯家に嫁いで半年が経過した頃、最近からのことではありますが夫婦としてのあれこれも行うようになったのです。アグルス様は忙しい方なので頻度としてはそう多くはないですが、その所為、と言いますか私はまだ慣れてはいないのです。
「ああ、すまない。起こしてしまったか」
先に起きてベッドの近くで着替えていたアグルス様が、私が起きたことに気付いて声を掛けてきました。
「いえ、私もそろそろ起きなければならない時間ですし、気にしなくても大丈夫ですよ」
おそらくもう少ししたらランが起こしに来る……いえ、さすがに今日は来ないですね。前回も来ませんでしたし、来たのはお昼前だった記憶があります。
その時のランの様子を思い返す限り、気遣ってというよりは気まずい空気を出したくない、という思いが強そうでしたね。
「そうならいいが。……体の方は大丈夫か?」
「あ、えっと……大丈夫です」
心配そうな表情をしているアグルス様の顔を見つめると昨日のことを思い出してしまいそうになり恥ずかしさで、すぐに視線を逸らしてしまいました。
「そうか。大丈夫ならいいが、何かあったらすぐに知らせなさい」
「はい」
アグルス様は私の返事を聞くとこちらに近付いて来て、私の頭を優しく撫で髪に触れたあと、私の額にキスをしてきました。
「っ!?」
まさか額にキスをされるとは思っていなかったので、私は驚きでアグルス様の顔を見ました。するとアグルス様はいたずらが成功した、と言った嬉しそうな表情で私を見ていました。
「次は夕食の時だな」
私の髪を名残惜しそうに放すとアグルス様は寝台の先に置かれている衝立の向こうへ行ってしまいました。
今のアグルス様はナルアス辺境伯家へ嫁ぐ前の印象と、今の印象は完全に真逆です。
リースとの婚約に乗り気ではなかったのもあるのでしょうけど、リースと並んでいる時は冷たい雰囲気の方でしたのに、実際はこういう方だとは想像もしていませんでした。
ただ、今回のような事は私の事を愛してくれているのがわかるので嬉しいとは思うのですけれど、頻繁にされたりいきなりだったりすると戸惑ってしまい上手く気持ちを返せないのです。
先ほども同じように返して差し上げられたら良かったのですが、まだ私にはできません。今のところ私は気持ちを受け取っているだけの状態ですから、しっかり気持ちを返せるようにならないといけませんね。
すぐには難しいので徐々に、ですけれど。
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