商家の現状と夜

 

 ゼペア商会から連絡が来てから数日が過ぎた日の夜。フィラジア子爵家からゼペア商会の状況について追加の情報が届きました。


 どうやらゼペア商会はリースの行動によってデスファ侯爵家から取り込み工作を受けているようです。いえ、取り込み工作というよりはゼペア商会を吸収するために追い込んでいるといったところでしょうか。

 デスファ侯爵家がゼペア商会を取り込んだところで商業を続けるとは思えませんので、吸収された段階でゼペア商会は消滅するでしょう。その後のことはわかりませんが良いイメージは浮かびませんね。


 リースはどうするつもりなのでしょうか。

 少し前に学院を卒業して正式にゼペア家へ嫁いだというのに、その家の存続が危うくなる状況を自ら作り出している事を自覚しているのでしょうか。


 まあ、リースの事ですから自覚はないでしょう。多少でも自覚していればそんなことはしていないでしょう。もしかしたらデスファ侯爵に上手く誘導されているのか、逃げるに逃げられない状況になっているのかもしれません。どちらにせよ、リース自らの行動によって引き起こしたことですから、私の知ったことではないですね。


「トーア」


 夕食の後、もう少し執務をすると言っていたアグルス様が寝室に戻ってきました。寝衣の方に着替えられているので、どうやら執務の方は終わったようです。


「お疲れ様です。執務は終えられたようですね」

「ああ、少し前に終えて明日以降の準備をしていた」

「そうでしたか」


 明日の準備とは何でしょう。執務をするのであれば準備をする必要は無いですし、明日、外出するという話は伺っていません。急遽予定でも入ったのでしょうか。


「明日、何か予定でも入ったのですか?」

「……予定、とまでは言わないがそうだな」


 何というかアグルス様の反応から、何となく予定内容が理解できました。おそらくリース関連、いえ、ゼペア商会関連のことでしょう。もしかしたらデスファ侯爵に関することかもしれませんが。


「ゼペア商会のことでしょうか」

「そうだ。あの商会がデスファ侯爵家に取り込まれることがほぼ確定した。それによりこちらへ被害が来ないように準備を進めているところだ」

「フィラジア子爵家の報告よりも状況が進んでいますが」

「あちらからの報告は少し遅れがあるようだ。まあ、こちらとしては情報の裏取りとして使っている面があるため、気にするほどではない」


 ああ、でも毎日のように報告が来ている訳ではないので、前回の報告の後に手に入れた物をまとめて報告してくる以上、情報の内容が古いのは致し方ないですね。それにアグルス様の言ったように、情報の整合性を確認するためにも情報源は複数あった方がいいのは事実ですし。


「とりあえず、どう考えてもあれらがデスファ侯爵家から逃れる手はないのだから、あの商会については今後考える必要は無い。もう少しの間、様子を見る必要はあるだろうが、こちらから手を出すつもりもないからな」

「そうですか」


 長く関わってきた商会でしたし、元婚約者のオージェも居ますから、無くなれば少しは寂しい気持ちになると思いましたが、そういう気持ちにはなりませんね。何と言いますか少しだけ肩の荷が下りた、くらいの感覚はありますけれど。

 フィラジア子爵家もゼペア商会が潰れるとなると少なからず影響が出ますし、今後の事はゼペア商会が完全に消滅するよりも早めに考えておかなければならないでしょう。


「トーア。今後の事を考えるのは明日にしなさい」

「そうですね」


 アグルス様はそう言って寝台へ私を促しました。

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