メイド、退場
「貴方、なんてことをするのです!? 他家のメイドに暴力を振るうなんてっ!?」
「そこまでだ。お前らはこちらに来い」
いきなり隣に居たメイドが辺境伯様に倒されたことで、惚けていたメイドが辺境伯様に抗議すると同時に掴みかかろうとしました。しかしその瞬間、後ろから来た男性に掴みかかろうとしていた腕を抑えられ、同時に驚きから口も止まります。
ああ、執事長が来たのですか。たぶんお母さま付きのメイドが呼んだのでしょうけれど、これでようやくこのメイドたちをこの場から離れさせることが出来ますね。
「そんでそんなことを!」
「上司命令だ。お前たちに拒否権は無い。むろん最初からそんなものは無かったのだがな」
すぐさま執事長の命令を無視しようとしたメイドに、執事長が拒否権は無いことを伝えます。
すると、さすがにこれ以上は反論出来ないと理解したのか、メイドは小さく舌打ちをした後に執事長が示した方向に歩き出しました。倒されたメイドもこちらを鋭い目で睨んでいるものの口を開くことは無く、先に移動していったメイドの後に続いて行きました。
「申し訳ありません。こちらの不手際であのような者を紛れ込ませてしまいました。処分はこちらで致しますので、もし処分の内容をお知りになりたいとの事でしたら後に報告させていただきます」
「要らん。だがあのような者たちを雇っているのはこの家に対して不利益にしかならないだろう。今後使用人を雇う時はもっと精査することだな」
「お気遣い感謝いたします。では、私はこれでお暇させていただきます」
執事長は辺境伯様にそう言って深々とお辞儀をすると、足早にメイドを追っていきました。あ、これはもしかしたら、あのメイドたちが逃げたりしているのかもしれないのですね。いえ、その可能性があるから急いでいるだけかもしれませんけど。
「本当に申し訳ありませんでした。まさか、指示していない者までここに居るとは想定していませんでしたので、対処が遅れてしまいまして」
「構わん。君が謝る事ではないだろう」
「ですが」
執事長があのメイドを連れて行ってくれたので良かったのですが、本来なら私が強制的にメイドをこの場から離す必要があったのです。
ですが、私は何も出来ませんでした。それに、その結果辺境伯様を不快な気分にさせてしまったので、謝罪をしなければなりません。辺境伯様が謝罪は要らないと言っていただけるのは有り難いのですが、何故そのような事を言っていただけるのでしょうか。
「どうせ、あの娘の関係者だろう? だったら君の所為ではない」
「間違ってはいませんが……、ですがあの場は私がどうにかする必要があったと思います。なので、申し訳ありませんでした」
まさか、リース関係だと理解しているとは思っていませんでした。もしかしたら、リースは我が家に報告が上がってきている以上に辺境伯様に迷惑を掛けているかもしれません。本当にあの子は後先を一切考えていないのだから、周囲に掛かる迷惑ぐらいは把握しておいて欲しいところです。
頻繁に問題を起こすのにその処理を一切しないのはどうしてなのでしょうか? 自分の行動くらい責任を持ってほしいです。
「とりあえず、ここに留まっているのも双方時間の無駄ですし、お部屋の方へ移動しませんか?」
「ん? ……ああ、そうだな」
「そうですね。そうしましょう」
今まで、一切関わろうとしていなかったお母さまがここに来てようやく口を開きました。出来れば先ほどのやり取りの最中に口を出して欲しかったのですけれど。
それよりも、辺境伯様の反応からして、まさかお母さまの存在に気付いていなかったのでしょうか? いえ、そんなことは無いはず……ですよね?
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