場を乱すメイドは排除される
「そこのメイド」
メイドが動いたことに気付いた辺境伯様がこちらを向いて、メイドに声を掛けました。その低く冷えた声を聴いて私の前に出たメイドが恐怖からか少しだけ震えたことに気付きました。
「何でしょうか?」
「何故お前らは使用人の分際で、本来仕えるべき者の行動を遮って動いたのだ?」
あら? こちらに視線を向けていなかったからそこまで見ているとは思いませんでした。いつからこちらを気にしていたのでしょうか?
「……そのような事は致しておりませんが」
「ふむ。なるほど、あくまでも遮ってはいないと」
「ええ」
このメイドは本当に誤魔化せていると思っているのでしょうか。これは確実に見られていたと思いますよ? そうでなければこのような発言をするはずがないでしょうから。
「ならばそこを退け」
「何故でしょうか」
明らかに上位者の命令に従わない方が何故、なのですけれど。と言いますか、どうしてここまで私の邪魔をしてくるのでしょうか? いくらリースの命令であってもここまでするのは不利益しか生まないと思うのですが。
目の前に居るメイドと辺境伯様がにらみ合っている。さすがにメイドは辺境伯様の圧に負けて来ているようですが、すぐに退いてくれそうもありませんね。助けを求めようとお母さまの方に視線を向けますが、どうやらお母さまもどうすべきか判断に迷っている様子です。
これは、私がこの場を切り向けなければならないと言うことでしょうか。
仕方がありませんね。このまま放置しても状況は悪化するだけですし、私がどうにかしませんと。
「申し訳ありません、辺境伯様。この者たちについてはこのあぷっ!?」
前に居るメイド越しに辺境伯様に話しかけていると、いきなり私の顔に黒い何かが当たりその衝撃で口どころか目も一緒に閉じてしまう。そして突然のことで私は何が当たったのかはわからなかった上に、驚きでそれ以降の言葉を出すことが出来なくなってしまった。
驚きで言葉が出ないけれど、とりあえずいきなり当たって来た物を探しましょう。ですが、床を見ても何もありません。どこかに転がって行ったのでしょうか?
さすがにずっと視線を下に向けているのは辺境伯様に対して失礼に当たるので、これ以上の醜態を晒さないように直ぐに視線を上に向けます。
「あぐっ!?」
「え?」
誰かが苦しむような声が聞こえて来たことで視線を戻すと、目の前には辺境伯様に首を掴まれているメイドの姿が。
え? 本当にどう言うことでしょう。何でメイドが掴まれて……って、もしかして私の顔に当たった物って前に居たメイドの髪……なのかしら? 目の前にいるメイドの髪は黒髪ですから、先ほどの黒い物との特徴は一致します。
「あ……あの、辺境伯様。その……」
さすがに、このメイドの行動にどんな意図があったとしてもこの状況は拙いです。いくら辺境伯様が権力的に我が家よりも上だとしても、この光景が他の家の者に盛られるのは問題があり過ぎます。
「ああ、すまない」
辺境伯様はそう言ってメイドを離し……て、と言いますか思い切り横にどかしましたね。
「うぐっ」
首を掴まれていたメイドはそのまま床に倒れ、どうやら今まで息が詰まっていたらしく小さく悲鳴を上げるも、それ以上の動作は見られず床の上でぐったりと体を横たえています。
「大丈夫だったか?」
「え? は……はい」
ナルアス辺境伯様はそう言って私の頬に優しく手を添えて、顔を近づけてきます。キス……ではないですね。さすがにこの状況でそれはあり得ませんので、おそらくメイドの髪が私の目に当たっていないかの確認かもしれません。
もしかしたら、髪が当たった直後に私が下を確認したことで、目に当たったと勘違いしているのかもしれません。
「目は赤くなっていないようだな。良かった」
そう言って辺境伯様は私に向けて柔らかい笑みを浮かべています。
「え、あ、心配してくださりありがとうございます」
いえ、え? これはどういう事なのでしょうか? どうして辺境伯様は私に対してこのような態度なのでしょう?
リースに対しては、何時も碌な対応をしていなかったので、こう言った優しい笑みを浮かべることが出来ない人だと、今まで認識していたのですけれど。
どうして?
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