辺境伯様が来る
「それはどう言うことでしょうか、お母さま」
「この後、ナルアス辺境伯様が我が家へいらっしゃいます。要件は主にリースとの婚約に関する事ですが、トーアがここに居るのなら顔合わせも同時にしてしまいましょう。と言うことです」
「そう言うことですか」
しかし、ナルアス辺境伯様が家へいらっしゃる必要は無いと思うのですけれど。何か別の要件がありそうですね。
「なので、トーア。この後辺境伯様を出迎える際に貴方も同席しなさい」
「わかりました。ですがこの後、と言うのは後どのくらいなのでしょう? 出迎えるとなるとこのままだと少し華やかさが足りないと思うので、着替えた方が良いと思うのですが」
オージェは家が裕福とは言え平民なので、会う時にそこまで服を気にしなくてよかったのですが、辺境伯様は正真正銘の貴族なので会う際には相応に着飾らないと失礼に当たります。
「辺境伯様もこちらに来る際に準備をするでしょうから、1,2時間は掛かるのではないでしょうか」
「その時間は、お母さまがあちらを出てからの時間ですよね? と言うことは、それほど時間は無いのではないでしょうか?」
「……そうですね」
お母さまは時間に無頓着と言いますか、割と抜けている所があるのでこういった確認は必須です。大分前ではありますが確認せずにいた結果、予定が大幅に狂ってしまった時があったので油断は出来ません。
「と言うことは、もう殆ど時間は無いのではないですか?」
「否定は出来ないわね」
辺境伯様の王都邸は我が家から歩いて1時間ほどかかります。馬車なら30分程度ですが、お母さまがここへ来るまでに掛かった時間も考慮すると、猶予は良くて後30分程度くらいなのではないでしょうか。これは急いで支度をしないといけませんね。
「急いで支度をしてまいります」
「ええ」
お母さまの返事を背に私は急いで支度をするため部屋に戻りました。
支度を終えて、辺境伯様を迎えるために我が家の玄関ホールで待機しています。おそらくそろそろ到着すると言うことで立っているのですが、私の立ち位置おかしくないですか? どうして両脇にメイドが立っているのでしょう。これでは何故か着飾ったメイドとして見られるのではないかしら。
それに私は辺境伯様と会ったことは数度しかないのです。私の顔など覚えていないでしょうから、気付かれないかもしれません。ほとんどの場合、貴族はメイドなど気にも掛けませんからその可能性は高いかもしれません。
「ナルアス辺境伯様がいらっしゃいました」
ああ、もう来られたのですか。これは立ち位置のことを気にしている場合ではありませんね。しっかりと出迎えなければなりません。
お母さまが辺境伯様の対応をしています。
辺境伯様が我が家へいらっしゃるのはお母さまが招いたからなので、その対応は当然なのですが、これでは私がここに居る意味がありませんね。少しだけ前に出ましょう。
そう判断して私が一歩前に出ようとした瞬間に両隣に居たメイドが私の前に移動しました。
え? 何故このタイミングで私の前に出るのでしょうか。しかも、辺境伯様から私が確認しづらいような立ち位置です。あら、このメイド確かリース付きのメイドでしたね。と言うことは、これはリースの差し金でしょうか?
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