相手を見下す、と言うことは自分も見下されていると言うこと


「トーア、お前」


 リースが執務室から出て行って直ぐにお父様が私に声を掛けて来た。まあ、理由はわかっています。オージェの家で運営している商会のお金を使う云々とリースを煽ったからですね。


「別に問題はないでしょう? その辺りは現商会長などの上役が止めれば済む話ですから」

「いや、まあ、そうだが」

「それにあちらも我が家を軽く見ているのですから意趣返しを込めてですよ。今回の話の回答はあれだったのでしょう?」


 そう今回の件はオージェの家も内容は知っています。ただ、それに関する責任問題をこちらに全て押し付けている状態なため、我が家では不信感が募っているのです。


 しかも、オージェの婚約者に関しては私でも妹でも良いと言う投げやりな考えが露呈した。要するに貴族と繋がりが持てれば誰でもよかったと言うこと。そもそもそれも隠しもしていない対応をしてきたため、今まであった信頼も揺らいでいる状態。


 だったら別にこっちが問題を押し付けても何を言われる筋合いはない。そう判断してもいいでしょう? それがどのような結末になるとしてもね。


「いや、そうだが」

「そもそも、今回の件であちらとの契約は解消するつもりだったのでしょう? あちらからすれば貴族との関係を繋げる者なら誰でもいいようですし、むしろあの子の行動力を考えればどんな形であれ、繋がりは得られると思いますし」


 ええ、どんな形であれ、です。問題を起こして出来た物でも繋がりではありますからね。


 ああ、そう言えば先ほどリースに渡した書類にはしっかりと婚約したことにより起きた問題がこちらの責任にならない様にする文言は組み込まれていますよ。


「まあ、いい。お前があちらに思うところがあるのは理解できた。それにまあ、その考えには同意できるからこれ以上言うことは無い」


 そう言ってお父様は話を切り上げました。


「ああ、そう言えばお母さまはどちらに行かれているのでしょうか」


 いつもならお父様と一緒に執務をしているはずのお母さまが、ここに居ないことに今更ながら気が付きました。


「あいつは辺境伯様の元に行っている」


 なるほど。それは必要な事ですね。リースと婚約をしていた以上、この話が露呈した段階で謝罪をしない訳にもいかないですから。

 それにオージェの家とは違って地位的に我が家よりも辺境伯様の方が上なので、こちらから出向く必要があったと言うことですか。


 何故、地位が上のはずの辺境伯様がリースと婚約していたかと言うと、単純にお母さまが辺境伯様の遠縁にあたり、ちょうどよい年齢で婚約者が居なかったのがリースだけだったと言うだけのことです。


 だから、リースとの婚約が解消されたことにより私が辺境伯様と婚約することになると思います。他に候補が居なければですけれど。


 辺境伯様は私の知る限り、上手く言えば冷静な方。悪く言えば、周囲に興味がなく対応がおざなりで冷酷な方ですね。


 一度、リースと一緒に居る所を見たことがありますが、リースの行動に対して一切の反応を見せず、完全に無視していました。あの関係で結婚した場合どうなっていたかは見るまでもありませんし、興味もありませんでした。


 ただ、今回のことで私が婚約者候補筆頭になっていますので、既に他人事ではないのです。今から今後のことを考えると不安で仕方がありませんが、こちらにはリースの不始末のこともありますし、拒否権は無いでしょう。

 なので、どのような扱いを受けたとしても私は耐えなければならないと言うことなのです。


 そう考えていた所でドアが開いて誰かが中に入って来ました。


「今戻ったわ。って、トーア居たのね。ちょうどよかった」


 入って来たのはお母さまだったのだけれど、ちょうどよかったとはどう言うことなのかしら?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る