貴族の結婚は大体政略的な意味合いを持つ
捨てる、貰われる
馬鹿な婚約者は要らない
私の前に泣いて懇願している男性が居る。
正直なところ、見苦しいからさっさとどこかへ行って欲しいのだけど、こうなった原因の一部は私にあるのだから多少は受け止める。
まあ、その原因はこの懇願している男性が私の婚約者だったことに始まるのだけど、簡単にこうなった経緯を言うと、『婚約を破棄しましょう』そう言ったら婚約者が泣き出した。
ただこれだけのこと。
いえ、そもそもこう言わせた原因は貴方だと、理解しているのでしょうか?
そう思わずにはいられないのだけれど、この様子から一切理解していないし、理解するつもりもないようだから、何を思っても意味はない気がします。
「トーア。お願いだ、それだけは止めてくれ。何でもするからどうか!」
何でもする? なら良い案がありますよ?
「何でもする、と言うことならこの書類に判を押していただきたいです。これくらいならできるでしょう?」
「わかった。押させてもらう! だから、だから!」
「まずは、判を押してからです」
私はそう言って婚約者であるオージェに書類を渡した。
「ここか! ここに押せばいいんだな!」
そう言ってオージュは書類の内容を碌に確認しないまま判を押しました。やっぱりこの男と婚約したのは間違いだったのでしょう。そう強く思わせる一連の流れでした。まあ、この婚約を纏めたのは私の両親なのだけど。
「押したぞ! これでっ」
「ええ、これで私とあなたの婚約は破棄されます。良かったですね?」
「え?」
これで婚約は破棄されない、そう思っていたオージェは私の言葉を聞いて表情が抜け落ちた。
「判を押す時はしっかり書類を確認しなければなりませんよ? これからあなたはあなたの両親が経営する商会の重役に就くことになっているのですから、これは幼馴染からの最後の忠告ですよ」
私はそう言って、判の押された私との婚約を破棄することに同意する旨が書かれた書類を持って身を翻した。
「ちょ! 待って!」
「待つ道理はありませんね」
そう言って話し合っていた部屋から出ようとドアノブに手を掛けたところであることを思い出しました。
「ん? ああ、一つ言い忘れていたことがありました」
「え?」
振り返ってオージェの方を見ます。
ああやっぱり、と言うか予想通り私を止めようとする声は出しているのにオージェは先ほど立っていた場所から一切動いていませんでした。
いつも私と会うたびに好きだ、愛しているなどと言ってはいましたが、それは形だけ、言葉だけだったようです。
何となくわかっていたことだけど、少なからずショックは受けますね。
「貴方と婚約するためにリースが近い内にこちらに来ると思います。良かったですね。関係を持つくらいに好きあっていたのでしょう?」
そう言って直ぐに部屋を出た。オージェがどう言った反応をしていたのかわからないけれど、もし喜んでいるようならそんな光景は見たくはありません。
私にオージェに対しての愛があったかと問われれば、それはないと答えたと思います。
ただ、小さい頃から決まっていた婚約だったから、好きであろうとしていたし多少の好意は持っていました。だから、その中で妹であるリースとことに及んだと聞いた時には衝撃を受けたましたし、落ち込みもしました。
だけど、もう過ぎたこと。そう考えて先ほどの書類を渡すために両親のもとに向かいました。
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