第13話 あの魔女は大団円には赴かない。②
***
「——とにかく、今は事態への対処が何よりも優先されます。ニーナ、街を守る防御結界の用意をなさい。例え何があろうとも、その二人の戦闘に街を巻き込んではいけません」
「はい‼」
「数名は私と共に現場での処理。関係各所との連携。他の各先生方は今一度校内を捜索、生き残ったバフォメットが居ないか索敵をすると共に取り残された生徒たちが居れば避難命令を」
「はい‼」
「……なぁ、もう一度聞くが……なんであの二人、こんな近くに居るんだよ。遠くの場所に転移したまま取り残されてたはずだろ?」
「分かんないよ……最初から最後まで何も分かってない……私は」
「くっ……我の渾身の一芝居が——」
「ひひっ……そそそそういえば——具体的にどこにまま魔族が潜んでいたか誰もきき、聞いていなかったたたたよよよ、ような……」
「「「……あ」」」
「いや、だって次元とか砕いて時空間がどうとか……結構な距離だと思うだろ、普通」
「そ、そういえば——キリアさん達の事だから……気にしてなかったんだけど、『明日には戻る』って今考えたら普通におかしいよね」
「くく、空間転移いい、して戻って来るるる、のかと……」
「ふっ……物理的に明日には戻れる距離だったという事か。何という叙述トリック」
「——なぁるほど、そういう事かい。大体の事情は分かったよ」
「「「「誰?」」」」
「ふっふ……ただの婆ちゃんさね」
「学院長‼ いままで何処に居たのですか‼」
「「「「学院長⁉」」」」
「ミガルス……子供になんて仕打ちをしてるんだい。縄の縛りに力を入れ過ぎだよ」
「「「「——⁉」」」」
「(これが……拳の魔女と並ぶ六人の魔女の一人、『善』の魔女。オルマテリア・メイジ……)」
「この子らは、もう十分に社会に縛られてる。窮屈にしているなら、その紐を解いてやるのも教職の務めだろうに」
「事は急を要します。拳の魔女は、あの遺跡を簡単に壊しかねないのですよ‼」
「学院長も、あの遺跡の重要性はご存じのはずでしょう‼」
「確かに……この街の観光名所を一日で二か所も壊されちゃ、街の観光業界も堪ったもんじゃないだろうね。ふっふ」
「何を呑気な事を——拳の魔女を学院に招いたのは学院長、アナタですよ‼ もし遺跡の封印が解ければ、学院長の責任も避けられませんよ‼」
「ふっふ。あんなチンケなものに怯えるより、この先の観光業が苦しむ方が百年を見据えりゃ大変な出来事さね。落ち着きな」
「ミガルス教頭‼ た、たった今、遺跡が崩落したとの報告が——‼」
「なんですって⁉ 封印は——封印はどうなっていますか⁉ 詳細の調査を‼」
「まさか……キリアさんたち……」
「なぁ、ミランダ。南の遺跡の封印ってアンタ、何か知ってんの」
「え、うん……古代魔導文明の危険な兵器が封印されてるって話で——確か魔神機導アスティガリオンとかいう名前だったような……」
「魔導……」
「そうさね。二百年ほど前に暴走してね、街を五つほど滅ぼした後——時の勇者の力で封印された代物さ。よく勉強してるね」
「あ、はい……えへへ」
「アスティガリオン……なんとも蠱惑的な響きだが……」
「ひひっ‼ たたた大変じゃじゃ……ないでですか……ひひっ‼」
「——まぁでも、なんとなく大丈夫なんじゃね。なんかもう、あの二人だろ」
「「「……」」」
「水晶鳥たちの映像、こちらに映します‼」
「急ぎなさい‼ もしも封印が解けていたら——一刻も早く対策を立てなくては‼」
『アッチ向けよ怒羅亜ぁぁ——‼』
『向くかボケェェェえ‼』
『『じゃぁん、けェん、ポン‼』』
『『あいこで……オラオラオラオラァぁぁあ‼』』
「「「「(オラオラオラぁぁぁ……)」」」」
「あ、あの二人は、いったい何を——……」
「はっは、相変わらず仲が良いじゃないか。嬢ちゃんの姿は今朝見たが——ルーガスの方も息災のようで何よりだね」
「あ! キリアさんがジャンケンで勝った……‼」
『アッチ向いて——コレでも喰らえェェえ‼』
『そんな鉄屑がアタシに効くかい‼』
「「「「「「……」」」」」」
「——なぁ、ミランダ」
「言わないで」
「今、キリアがルーガス・メイジに投げつけたデカいの……何かの腕だったよな」
「言わないでったら‼ 知りたくない‼」
「よく見りゃ、そこら中の瓦礫に紛れて……なんかの機械の部品みたいなの落ちてるな」
「私は何も見てないから‼」
「アスティガリオン……くっ、一目で良いから完成形を見たかった」
「ひひっ、ひひひっ……」
「歴史的な遺物が——学術的な価値が……な、なんという事を……」
「さて——そろそろ二人を止めに行かなきゃね。ミガルス、こっちの後始末は任せるよ」
「ミガルス‼」
「は、はい……わ、分かりました……」
「まだ瓦礫が残ってる内は復元も可能さね、このままじゃこの街まで更地になりかねんよ、しっかりおし‼」
「わ、分かりました。これ以上の被害が出る前にお願いしますよ、学院長‼」
「……まったく。ほら、アンタらも行くよ。ついてきな」
「「「「え?」」」」
「ふっふ。友達なんだろ? 迎えには行きたくないかい?」
「まぁ——、怖いもんを無理強いはせんさね」
「「「「……行きます‼」」」」
「ふっふ。それでこそ若者だよ。無茶も無謀もしなさいな、私ら年寄りの目の届くところでならね。この老体に刻まれた経験で教えられる事もあるからさ」
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