第12話 この魔女とて喜びを祝う。②



「——師匠、魔人の私にも——今日、四人も友達が出来ました‼」



「……四人、ねぇ。さっきまで、まだ二人って言ってなかったかい。この節操ナシ」


「ふふ。魔人と知って尚——私と友達になって頂けると、なりたいと言って頂けたんです‼」



「生まれた瞬間から私の中にあった知らない誰かの後悔、ただ平穏に、普通に幸せになりたかった、それが叶わなかった人々の無念。憎しみ、怒り、妬み、嫉み……負の感情に染まった魔力の中で私は私となり、そして師匠と出会った」


「……キリアさん」



「いつから——師匠はそんなに臆病で小さくなったんですか?」

「——……」


「酒ばかり飲んで愚痴を溢してばかり……魔族とか、人間とか、そんな小さい事はどうでもいいと街中で大手を振りながら昔は笑い飛ばしていました。なのに——今は引きこもって現状にすがりつこうとしているように見えます‼」



「明朗快活で良い人間も世の中に居ると体現してくれた師匠が、現状すべてに不満を抱き続け、その拳一つで最凶にまで上り詰めた師匠が、何を現状に甘えているんですか‼」

「……」



「まったく……言いたい事はそれで全部かい、キリティア」

「……はい」

「ふーっ……まぁアンタの意志が固いのは分かった。アタシは別にね、アンタが友達を作るのを止めたいわけじゃあ、無いんだよ……」



「話はシンプルさ。アンタが学院に通うのを止めれば、アタシもアンタの監視という大義名分を得て、それを理由に忌々しい賭けの負け分である学院の教師なんて面倒な仕事を断れる」


「つまりアタシは——、他人の指図で働きたくないって事さね」

「「「「(もの凄い自分勝手な我儘を言ってる‼ ダメな大人だ‼)」」」」



「……そうでしょうね。知っています」

「ガラじゃないのは分かるだろ。クソガキを捻り出した過保護な親が文句言ってきたらクソガキ諸共にブン殴っちまうのは必定さね」



「確かにね……アタシのように良い人間も世の中には居る。そこに居るアンタの友達も、きっとそうなんだろうさ」

「だからってね、キリティア。良い人間が居るから悪い人間を見逃せって道理は通りゃしないんだよ」


「アタシはアンタが心配なのさ……アタシがアンタのせいで過保護な親になっちまうのもね」

「もしアンタが何も知らない馬鹿どもに石を投げられたら——アタシは国ごとそいつらを滅ぼすよ。アンタは——アタシの大事な弟子で……家族、だからね」


「「「「……」」」」



「師匠——その時は、私が師匠を止めますよ。かつて師匠が私にしてくれたように」

「——家族として」


「だからたまには——、私の我儘を聞いてください、師匠」


「「「「……」」」」


「ふっ……まったく——本当に偉くなったもんだよ、独り立ちの時期も近いみたいだね」

「——では……今度こそ納得してくれるんですよね?」

「……」



「大人しく魔法学院の教師として働いてくれるんですよね」

「……」

「「「「(……マジか、この人)」」」」



「後——、そこの人たち。私はアナタ方にもまだ用があるのでコソコソと逃げる準備をしないで頂けますか。転移魔法など使わせませんよ」

「「——⁉」」

「私の友人に手を出したんです。タダで返すわけには行きません」

「覚悟、出来ていますよね?」

「「…………」」



「という訳で皆さん。私はこの三人と少しお話してから帰るので——ニーナ先生か教頭先生に伝言を頼みたいのですが」


「師匠が、厄災級の魔物に手こずりそうなので、お手伝いの為に入学早々ですが少し休学します、と」


「——あのヤギの群れは、師匠の魔法転移で一緒に着いてきた魔物だったと言えば問題も無いと思います。明日には戻れると思いますので師匠共々、直に学院長の元に出向いて事の経緯を報告するからと」


「……お願いできますか? あ、こういう時、クラス委員長を頼ったりするのでしょうか?」

「え、あ、うん……分かった。けど……大丈夫なの? その……キリアさんは?」

「はい。私も早く皆さんとお勉強したいですからね。キッチリと話を付けてから出来るだけ早く戻れるようにしますよ」



「——はは、本当に生意気を言うようになったよ。引きずって帰れる程、アタシは軽い女じゃないのは分かってるだろうに」



「もちろん、分かっていますよ。ですが——私を相手に後ろにあるお高そうな酒の瓶を守り切れますか、師匠。そうなれば、鬼ごっこですよね」

「——……よほど殺されたいらしいね。いいだろう、入学とやらの洗礼に本気のアッチ向いてホイで決着を付けようじゃあないか馬鹿弟子」



「……アッチ向いてホイ? ってあの遊びの奴か? なんだそりゃ」



「クライさん。残念ながら遊びじゃありませんよ……クライさんは師匠のデコピンを喰らっていたじゃないですか。なら、おおよそ何が起きるか分かるはずです」

「マジか……あの威力でやるのかよ……」



「え、なに⁉ 何の話⁉ その怖い雰囲気、怖い‼」


「——そろそろ次元の自己修復が始まります。皆さん、そこから離れてください。余波が次元のスキマから突き抜けてくるかもしれません‼」


「じゃあ行くよ。ルールは分かっているね」

「……はい‼ いつでも‼」



「「じゃん‼ けん‼ ポン‼」」




「アッチ——向けやオラァぁぁぁぁぁあ‼」



「「「「(アッチ向けやオラァぁぁ⁉)」」」」

「ぐうっ——⁉」



「ヤバイ‼ 衝撃波が来るぞ、みんな伏せろ‼」



「え——うきゃあああああああ‼」

——。

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