第12話 この魔女とて喜びを祝う。①
「……拳の魔女の帰還、いや登場と言うべきだろうな。あの時点で今回の計略は既に瓦解していた。とはいえ、あまりある醜態を晒した物だな。ミセス」
「——……申し開きの言葉もございません」
「そう責めてやるもんじゃないっての。野暮ったい男だねぇ、アンタも。ぷはぁ」
「そもそも——誰がアタシのような高名な魔女様が厄災級討伐なんて寝小便ガキみたいなしょうもない嘘ついて、そこらの宿屋で寝てると思うって話だろ? そんなもん気付くのはウチの馬鹿弟子くらいのもんさ」
「びっくりして今夜のベッドに世界地図を作っちまいそうだよ」
「「……」」
「まぁでもその他の目算も甘い所あるよね、ミセス……ちゃんだっけ? 幾ら経費を削減したいからってウチの弟子をあの程度の数で、しかも中級悪魔なんて雑魚ばかり集めてなんとかしようとか、ちょっち舐めすぎさね」
「……はい。おっしゃる通りです、あ……お酒、おかわりどうぞ」
「あ、どうもー」
「アンタ、最近キリティアの担当になったクチだろ。まったく、相変わらず新人の教育がなってないね魔王軍の連中も——アンタにも言ってんだよ、ボロイ‼」
「あ、はい……申し訳ない」
「正確な情報もなく、いきなり現場に放り出されて成果を出せなんてのはね、上の連中が怠慢してる証拠さね、ひっく。きっとキリティアの奴、今頃カンカンだろうさ」
「アタシもさ。これまで国やら他の魔女のババア共に無理難題を色々と吹っ掛けられてきたけど、ロクなもんじゃないよ。国の為だの世界の為だのなんだの言いながら、こっちに丸投げした挙句、自分らだけが世界の為に頑張りましたって面さ……やってられないったらないさね」
「は、はぁ……ご、ご苦労様です」
「ぷはぁ……いつまでも自分の利益の為に他人を道具として利用してばかり……後輩の道を整えて自信を付けさせて独り立ちさせてやろうってのが、先輩の務めって奴だろうにさ……違うかい‼」
「は、はぁ……。あ」
「——それも含めて先輩の務めとは——後輩に憧れられる大人でいる事——です‼」
「ふぎゃ‼ いったーい‼ いきなり何をすんだい、この馬鹿弟子‼」
「師匠こそ何をしてるんですか‼ ボロイさん達、すごく困ってるじゃないですか‼」
「んあ゛あ⁉ 酒飲んで平和的に解決してやろうって計らいが分かんないのかい、これだから空気の読めないアホ弟子は嫌いだよ‼」
「ちったぁ政治の勉強をしな‼」
「何が平和的ですか‼ ボロイさん達の服をズタボロにした挙句、正座までさせて……平和的に解決する為に何回も暴力で脅したんでしょうが、この暴力師匠‼」
「ちょ、ちょっとスポーツを嗜んでただけだしぃ。怪我は回復させたから存在してないしぃ」
「な、なぁ? そうだよな? な‼」
「「……は、はい……仰る通りですす……」」
「ほら見た事か‼ 体の傷は治せても心の傷から大量出血中ですよ‼ 自業自得ですが‼」
「——……あのさ、ちょっと良いか、キリア。状況を説明してくれ」
「え。ああ、えっとですねクライさん……この人たちは、今回の件の黒幕さんです」
「遠隔魔法でずっと監視されてたので、それを逆手にとって微弱な魔力を探知して居場所を突き止めたんですよ」
「場所の座標が分かれば次元を砕いて時空間をソチラとコチラを繋ぐだけですから。転移魔法の簡易版ですね」
「いや、意味分かんねぇよ……マジで」
「……監視魔法。我が魔眼でもそのような気配は感じなかったが」
「じじ次元くだだだ……」
「カラスとかトカゲとか、魔法で作った生物を経由してお上手に隠蔽されていましたからね。得意なんですよ、そういうの、この人達」
「それからさ——さっきから聞いてっと、なんか知り合いみたいじゃね、アンタら」
「ああ、はい。この人たちは魔王に仕えてる魔族の方々で、女性の方は初めましてですが、こっちの男性は魔王の命令で性懲りもなく私のストーキングをしてくる迷惑な人なんですよね」
「……魔族。人間じゃない」
『——アイツらの狙いはお前の危険性を暴く事だ‼ お前を危険視してる連中がこの騒ぎを利用してアンタの正体を明るみにして学院から追い出そうとするぞ‼』
「うわああああ‼(先走って勘違いしてた——‼)」
「クライスラーさん⁉ どうしたの⁉」
「ええ! いったい何が⁉」
「はは、そういえば『アイツらの狙いはお前の危険性を暴く事だ‼ お前を危険視してるなんとかがなんとかして何とかするぞ』ってのは最高だったねぇ。いやぁ、悪くない推理ではあったけどさ、すこーし浅かったさね」
「——⁉ きき、聞いて——⁉」
「バッチリさ。この水晶の映像を肴に酒を飲ませて貰ってたよ」
「うわあああ‼」
「だ、大丈夫ですよ‼ クライさん‼ 間違ってはいないのです、この方々は魔王と私を結婚させるために人間社会から私を追放させようと企んでる連中なのですから‼」
「そうですよね⁉ 騒動を起こして私が魔人だからと噂をばら撒くつもりだったんですよね⁉」
「……ゴホン。どうなんだ、ミセス」
「……え、あ、はい。そのつもり……でした」
「ん。魔王、結婚? キリアさんちょっと待って」
「ひひっ⁉」
「もう師匠‼ いつまでも酒を飲んでないで帰りますよ‼ 早くしないと次元が自己修復してしまいます‼」
「もちっとくらい良いだろ? 魔族の作る酒は——人間界じゃ中々手に入らないからね。この酒、見るからに高そうな酒だね。何年ものだい?」
「あ、それは百年前の豊作の時期の物でして——先代魔王様の遺物の一つになります。当時、王子であらせられました現代魔王様の成人を記念して先代魔王様より贈られた物で実は——」
「ふーん。ま、酒は飲むもんで飾るものでは無いってね」
「「「「(結構な記念品を躊躇わずに普通に飲んだ……)」」」」
「——……次元が自己修復したら、どうなるんだ?」
「自分の足で帰る事になりますね。あまり次元破りを多用すると、世の中的に良い影響はありませんので」
「へぇ——、アタシの機嫌取りの為に魔王が用意してたのかい‼ なんだい、アイツも礼儀を弁えた気を遣えるような立派な男になったもんだね」
「はい、それはもうご立派になられておられます。ですので、ご安心して今度こそキリティア様を正式に魔王様の妃へ迎えられたらと」
「それに師匠があの調子なので……一刻も早くこの場を離れたいですし」
「「「「……」」」」
「よし、決めた‼ 取り敢えず、見合いからなら許可してやるさね」
「勝手に決めない、でください‼」
「あいたた……けどね、良い話じゃあないかキリティア。向こうさんは魔王さね、アンタとアレが組めば、あのクソ程につまらない勇者相手にそんな手間もかからないだろ? 魔王に嫁いで世界の半分もらってから普通の学生生活を送ったって問題ないし何の苦労も無いよ?」
「……まったく、それの何処が普通なのですか。いい加減、酔ったフリしてふざけるのは止めてください。もし本当に昔お話したことがある理由を忘れてるならマジでぶっ叩きますよ」
「——はぁ……キリティア、これは正直な話さ。人間なんてロクなもんじゃない、魔人のアンタが生きていくにゃ人の世は狭くて暗い。辛い事、嫌な事が一杯さね」
「だがね、少なくとも魔族の世界なら魔人だって理由で石を投げられるような事は無い。むしろ魔王の嫁なんて地位につけば、それなりに良い扱いも受けられるだろう」
「人間なんかにこだわって小さく生きるのは辞めときな。魔王との結婚話が嫌なら、また二人で旅をしてもいい……煩わしい世俗になんて関わるもんじゃないさ」
「……差別があるのは知っています。私が危険な魔人という存在であるなら尚更、しょうがない事なんだと思います。今だって私の中の私を形成する瘴気が、今の師匠と同じように人間に対する絶望を叫んでいますから」
「それでも——私は、信じているんです。いえ、実際……まだ半日ですが学院で生活して、それは確信に近くなりました」
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