第11話 この魔女も常識を突き破る。②

「(畜生……ちくしょう‼ なんでアタシはこんなに弱い……アタシは今まで何をしてきた……くそ、クソ‼)」

「ガハっ……ゲホ……クソ……クソ……」

「(分かってる……分かるんだよ……こんなヤギ野郎。何匹いたって、きっとルーガス・メイジどころか、キリアにだって簡単に蹴飛ばされんだろ……その程度の強ささ……)」


「(だから……コイツらを操っている連中の狙いはコイツらにも勝てないアタシら雑魚なんだろ……人質か、それとも生け贄か……)」


「バフォオオ……」



「クライスラーさん‼」

「逃げろ‼ 我が盟友‼」

「(どうせ……ここにキリアが飛んできてアタシら雑魚をきっと守ってくれんのさ……私たちは所詮——)」

「ダメぇぇぇ‼」

「——バフォ⁉」



「……ま、マルティエーラ……」

「わわ……わわ私は——ま、マルティエーラ・ディンナ‼ わわ、私が皆をまもまもるるる‼」

「——バフォ……バフォオオ‼」



「——うるさいですよ。ヤギならメェと鳴きなさい」

「バフォ⁉」


「あ……」



「許されざる蛮行……私の友人に手を出して——生きて帰れる道理なし‼」


「お師匠様直伝‼ 払う対価は拳の痛み、得るは心の虚空のみ‼」

「それでも掴み、握って魅せる心意気‼」



「——鼓舞死挙げ‼」



「うあわわわ⁉ え、なに⁉ 急に風が——‼」

「上昇気流……ただ思い切り拳を上に振っただけでこれかよ……」


「——違います。無闇に拳を振った所で風は起きません」


「幾つか説明を省略しますが、周辺にある魔力の中で風の因子のみを急速に吸い集めると、空気中における魔力属性の比率に偏りが生じます」


「不安定になった周辺の大気に対し、今度は吸い集め凝縮していた風の魔力を一気に解き放つと異常をきたしていた周辺の魔力に強い反発が生まれ、風の因子による事象が爆発的に増幅するのですよ」


「これらの不規則な事象を規則的に使役する事を——魔導と言います。魔法基礎学という呼び方でも構いません。突き詰めれば簡易化された魔法陣や呪文詠唱などの前段階の事ですので」


「魔導……」


「まぁ私の場合は体質的な所で感覚的にこなしていますが、師匠のように精密な魔力制御によって周辺の魔力を支配する事で魔導を発動させる事も可能です」


「あ‼ マルティエーラさん、先ほどの数秒間は本当にナイスな数秒間でした‼ おかげで間一髪の所で間に合いました」

「ひひっ⁉ いいいいえええ、ととととんでも——」



「……はは、キリアさん」

「……」

「——クライさん……魔法と魔術と魔導。これらの違いをまず明確に理解する事です」

「——世界とは、アナタの傍らにずっと存在しているのですから」

「……」



「お師匠様。訓示、その六‼」

「氷を扱うものは——自らが凍り付かぬよう内に熱さを滾らすべし‼」



「——っ、ダメだキリア‼ これ以上、お前は戦うな‼」

「……ほへ?」



「クライスラーさん……?」

「アイツらの狙いはお前の危険性を暴く事だ‼ お前を危険視してる連中がこの騒ぎを利用してアンタの正体を明るみにして学院から追い出そうとするぞ‼」


「それどころか、下手すりゃルーガス・メイジも共犯でこの国から追われる事になる‼」

「——……なるほど。ドリトルさんに聞いたのですね、隠していたみたいな感じになってスミマセンでした。聞かれなかったので言わなかっただけなのですが」


「しかし——それはバフォメットが現れた時点でもう手遅れで……そして何より、いずれ起きる事です。私は普通の人間ではありませんし、そういう勢力が居る事も承知しています」


「ですので、避けられない事を案じて何もしないという選択はありえません‼ 今の私はただひたすらに私を貫くのみ‼」


「ちょ、ちょっと二人とも、何を言って——」

「っ——‼ それでもアンタ以外が状況を解決すれば、これ以上の悪化は防げる。アンタが力を抑えて、どういう存在かを隠し通せば——」




「——今の私とは‼ 傷ついた友人の為に怒り、明日の為の道を押し通す者なのです‼」



「……雪の結晶? えっ、熱、燃え……うわっ、風がまたキリアさんに集まって——‼」



「ヘルズ・ゲート——氷結地獄乃炎戒門‼」



「⁉バフォオオオオオオオ——……‼」




「す、すごい……」

「なんという火力……これが、本物の魔人の力なのか……」

「「……へ?」」



「お……おいガーベラ。今……アンタなんて言った?」


「? 何という火力と称賛したが……流石は魔人だと」



「「「「……え?」」」」


「え?」

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