第11話 この魔女も常識を突き破る。①


「いたたた……ホントにゴミ捨て場に投げるんだもん……酷いよ」

「マルティエーラさん、リュクシエルさん、大丈夫?」


「ひひっ⁉ だだだだだ……」

「えっと……うん。ゴミ袋を持てるくらいには元気なんだね」


「我も問題ない——動けない事を除けばな」

「あ、そうだった‼ 魔力が抜けてて力が入らないんだったっけ。今、助けるから」


「すまない、カルク・ミランダ……世話になる」

「よいしょっと……おっとっと、っと……」



「……無理はしなくていい。我を引き摺って移動しても構わない」

「そういう訳には行かない、っと……取り敢えず保健室に急ごうか。マルティエーラさん」

「ひひっ⁉」


「……何をしてるの、マルティエーラさん?」

「すすすすスキマ、に……入れなくてて……あのあのあの……さささっきかららら」

「外よりゴミ捨て場が良いの⁉ そんなに⁉」


「あ、いや……違くて。スキマに入れないってどういう事? 私、空間系の魔法には詳しくないから良く分からないんだけど、それって何だか状況的にマズいんだよね?」


「だだ誰かかから、か、干渉を受けていててて……こここの周辺は封鎖さされてるんじゃないかかと……ひひっ‼」

「……結界、だろう。それもかなり大規模で強力な。忌々しい我が左眼が疼いている」


「カルク・ミランダ。貴殿の魔力と体——少し借り受ける‼」

「え、なに、何かするの⁉」



「——永久の遥か先、或いは開闢の帳を暴け‼ 解界魔眼‼」


「……? え、なにが——ええ⁉」

「今……貴殿の体を通じて我の魔眼を発動している。今の我の体と魔力量では十分に発動出来なくてな……」



「これが——魔眼が魅せる世界……って、リュクシエルさんて魔眼持ちだったの⁉」


「あまり急に動かないでくれ‼ 視界を共有しているんだ……違和感で酔う」

「あ、ごめんなさい……酔わないでね」


「……まったく。我は隠していたつもりなど無い。むしろ宣言すらしていた」

「——これまで誰も信じてくれなかったが」

「……えと、なんか重ね重ねゴメンナサイ」



「今はそんな事より——この学院を覆う結界を調べる方が先だ」

「これも……、キリアさんやルーガス・メイジ様の仕業、なのかな?」


「あり得んな。貴様、先ほどの二人の攻防を見ていなかったのか? 幾らこの結界が学院の敷地全てを覆う程に大きかろうとアレらを見た後では雑な結界にしか見えない。卵の殻と鳥の巣くらい洗練さに違いがある」


「……じゃ、じゃあ一体誰が学院に結界を——普通に考えたら騒ぎを聞きつけた先生たちが町の外に被害を広げないようにしている、とか?」

「或いは逃がさない為のものか、だ……」


「ばばばバフォメット……!」



「? バフォ……メット? なんだっけ、ソレ?」

「悪魔だ、悪魔‼ 先ほど襲ってきただろう、あのヤギの奴だ‼」

「あ、ああ‼ そうそう‼ そうだった‼ そういえば居たね‼ あのヤギさん、覚えてるよ、うん。モチロン‼」



「「……」」



「——ディンナも、あのバフォメットを召喚した者がこの結界を張った犯人だと言いたいのだろう。我も同意見だ」

「えーっと、うん。じゃあ、取り敢えず保健室に行こうか‼ ここで考えてても仕方ないよ」


「……簡単に行ければ、良いが——」

「ひひっ⁉」


「あ、アレはさっきの煙の魔法……それと後ろに居るのが、あ‼ バフォメット‼ だね‼ しかも割と沢山……煙を、追って……ん……というか、こっちに——」

「バフォオオオオ‼」



「「「ひひひいいいいいやあああああ‼」」」



「——ドラゴン・ブレス‼」

「バフォオオン⁉」


「「「——⁉」」」



「……っつくそ……頭っ、いてぇ……」


「クライスラーさん‼」

「……ミランダ、か——くっ‼」



「だ、大丈夫⁉ どうしたの、なにが——」

「ああ、気にすんな。ただのデコピンを喰らって少し気絶してただけだ。なんだこの煙、ゴホゴホ……」

「いや気にするよ⁉ ただのデコピンで気絶ってなに⁈ デコピンって毒を食べたとか⁉ トマトに含まれる成分、リコピン的な⁉」

「——ふっ。或いはゴウバリンディウムのような魔生物……噂に聞いた事のあるガチャペンの聞き間違いではないだろうか……」


「……ちっ。ただのデコピンは、ただのデコピンだよ……なんだリコピンだのガチャペンだの親父くせェギャグかましやがって……」


「ひひっ‼ あのあの……そそそそんな事ととよりりり……」

「バフォオ……」



「……なんだコイツら、この状況。ミランダ、説明しなよ」


「私も、なにがなんだか……さっきも現れてルーガス・メイジ様が倒してくれたんだけど」


「(……キリアやルーガス・メイジの仕業、な訳ないか……キリアの魔人としての魔力が影響して引き寄せた? いや、無いな……それなら他の生徒も不規則に襲われてるはずだ……けど、ここに来るまでそんな様子も無かった所か悲鳴の一つも聞こえなかった)」


「(コイツら、どう見たって統率が執れてる……)」


「学院の外には結界があって出られないみたい、何とかここを突破して安全な所に避難を——」

「……結界、か(ドリトル叔父さんの話が本当なら……少なくとも国の上層部はキリアが魔人だとを知っていて黙認してる。もし——この騒動がキリアの存在を許せない勢力の企みだとして——……)」


「ウォーター・ストライド‼」

「——⁉」

「ダメ‼ クライスラーさん避けて‼」

「バフォオオ‼」



「ちっ——考え事の、邪魔なんだよ‼」



「バフォ……? バフォオオ……」


「——くっそが……がハァ⁉」

「クライスラーさん‼」

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