第9話 この魔女も、暴れる。①

「ったく……恩を仇で返されるたぁ、この事さね」


「いいかいキリティア。格好の良い女ってのは、いつだってストレートに生きなきゃならんのさ。それでいて懐深く、野郎を包み込むもんだ」



「……アレが、ルーガス・メイジ。キリアさんの師匠」


「バフォ、バフォメットが……一撃で壁のレリーフに……」

「ひひっ‼ こここ拳の魔女じょじょ‼」


「酒の度数を下げるって事はね、こだわりを持った酒職人の野郎どもが作った一番うまい自慢の酒に不味いって泥をブチ入れんのと同じなのさ。そんな女に誰が惚れるって言うんだい‼」


「それに狭量な話じゃあないか。酒に酔うのにビビって、濃いだの酒に飲まれたくないだのと、そんなつまらない言い訳で男のこだわりや好みを知ろうともせず突っ返すなんざぁ、情けなさ過ぎて反吐が出らぁな」



「酒は何時でもストレート。それで吐こうが反吐は出ず、酒に飲まれぬ女道。男の道理不条理飲み込んで、咲けぬ仇花、咲かせて魅せる心意気‼」

「それが、アタシ——ルーガス・メイジって女さ‼」



「「「「……」」」」



「……バフォ……バフォォォォ‼」

「あ——、バフォメットが‼」


「……うるさいんだよ、ヤギ。お仲間と地獄の山で乳でも吸い合っときな」

「————⁉ バフォォ⁉⁉」


「い、今……片手で抑えて……え? 何が起き——」



「——皆さん、逃げてください。私も本気を出しますから巻き込まない保証が出来ません」

「き、キリアさん……その姿……髪が白く……」



「魔装展開という奴です。そのうち授業で習う事もあるかと。私のは、まぁ、少し特殊ですが」

「魔装……展開?」



「……師匠。時に——、近くに出たという厄災級はどうしたのですか」


「そんな酒の肴にもなんねぇ事はどうでもいいんだよ……テメェが酒瓶から抜いた残りの酒はどうしたかの方が先だろ……あ゛あ⁉」


「厄災級が出たら、私も連れていくという約束だったはずです‼ それに私の編入日には必ず学院に到着するという約束もしました‼」

「……」


「もしかして、朝起きたら二日酔いで面倒になったので約束を破ったんですか⁉ 師匠なら今日の早朝に厄災級が現れても2秒で倒して次元を突き破って間に合ったはずです‼」


「(え。それは流石に過大評価し過ぎじゃない? キリアさん)」



「酔い覚ましに向かい酒して、そのまま宴会でもしてたんでしょう‼」

「……ちょ、ちょっと面倒な相手で手こずったんだよ‼ 文句あんのかコラ‼」


「あ、いま嘘つきましたね‼ 分かりますよ、証拠もまだあります‼」



「今にして思えば先ほどドリトルさんが日替わりランチで出していたゴウバリンディウムのハラブランティーネ‼ アレは師匠のツマミ用に仕入れてた食材が腐るのが勿体ないからとランチとして出していたんでしょう‼」


「え! 我の食したアレか‼」



「ゴウバリンディウムは冷凍保存が効かない上に魔法転移にも耐えられない繊細な食材です。南方から輸送なんて、ほぼ不可能。距離と時空を吹っ飛ばせる師匠以外は‼」

「さっきからちょいちょい、言ってる事が意味不明だよキリアさん⁉」



「……ま。まったくだねぇ。そこのガキの言う通りさ、意味不明な事ばかり言うんでないよ」

「ゴウバリンディウムは長く持っても死後半日程度で腐り、空気中の魔力に気化し同化します。さしずめ、深夜に師匠が持ち込んでドリトルさんに調理させて酒を飲んでたんでしょ‼」



「つまり‼ 師匠は昨晩には学院のあるこの街に着いていた‼」

「……」


「そして——もう一つ、おかしな話があります。師匠、アナタ……学院に厄災級の討伐に行くと手紙を出しましたね」



「どんな厄災級であろうと師匠が酒より優先する魔物は居ません‼ 翌日、酒が抜けてから討伐に出かけるはずなのです‼ ここに居るミラさんの故郷を襲ったバルディゴとの一件のように‼」


「ええ、私⁉ あ、はい‼ カルク・ミランダです‼」


「よって腐りやすいゴウバリンディウムを持ち込み、昨晩から町に居たはずの師匠が厄災級の依頼を負い目なく受けるならば手紙などの手法は使わず、堂々と私か学院に伝えてから出立するはず‼」


「最後に……私が酒瓶に細工をしたのは今日飲むであろうホームに保管してある一箱12本入りのストックの12本目でした……どの順番で師匠が棚から酒を持っていくかは完全に把握していますよ」


「師匠は夜になると一時間に一本の酒瓶を空けて、だいたい夜中の三時くらいまでには眠ります。昨晩の六時から飲み始めたとして10本の酒を消費」


「更に八時か九時に起きて学院に手紙を送り、二日酔いが回復して箱の中に残った残り2本の酒で向かい酒を始めるまでおおよそ経験則で二時間と少し、現在の時間は正午の終わり」


「ここまで酒の消費量は合計で、ちょうど12本‼ 私が12本目の酒瓶に仕掛けた細工に気付いた事が何より私の推理を裏付けています‼ 言い逃れは出来ませんよ‼」


「厄災級の討伐に関しても、どうせ旅の道すがらに見つけた雑魚厄災級を回収しておいて言い訳に使うつもりだったんでしょう師匠‼」

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