第8話 この魔女も策謀は巡らす。②
「君がマルティエーラだと知った時、我があのように振る舞えたらと、ずっと……思っていた。我が身と心を縛る身分の因果を解き放てる一掬いの勇気があれば——そうしていたら君が、君と私も……」
「そうだ‼ マルティエーラさん、リュクシエルさん‼」
「言いそびれていましたが、お二人とも私の友人になって頂けませんか⁉」
「「……」ひひっ⁉」
「いやぁ、お二方ともに何だか仲良くなれそうな気がするのですよ。私の事が嫌いじゃなければ是非‼ あ、私がお嫌いならそう言ってもらって構いませんからね?」
「……でででも、わわ私はあああ、まま、マルティエーラららだし。ひひっ‼」
「? マルティエーラだからなんだというのですか? もしや家系に代々伝わる呪いがあるとか? いえ、しかし……父君のディクニデウスさんには、そのような問題があるとは見受けられませんでしたし……個人的な呪いでしょうか?」
「あの、キリアさん。ちょっと待って」
「え……あ、はい。分かりました」
「マルティエーラ様。いえ……ディンナさん。ディンナさんは、先ほどの私とキリアさんの会話を聞いてたんですよね?」
「ひひっ⁉ ごごごごめんなさい‼ そそそそんなつももりはは……」
「……だったら分かると思います。キリアさんは、そういう人だって」
「きっと、ただ純粋にディンナさんという人と友達になりたいんだと思いますよ」
「……」
「それにきっと、無理なんです。良くも悪くも常識の通じる人じゃないですから」
「お互いに色々諦めて仲良くなりましょう。そして私とも仲良くしてください‼」
「ひひっ……」
「あの……ミラさん。なんだか私が無理矢理に友人になるよう迫ってるみたいに聞こえるんですが……もしかして無理をして……」
「……ルーガス・キリティア」
「え、あ、はい。キリティアです」
「我は……あ、すまないディンナ。足を離してくれるか」
「……」
「っつつ……ぐおあ‼」
「……私は、いや我は——貴方と盟友になりたいと同時に、ディンナの友に戻りたい。我は卑怯者だ、臆病だ。こうして君の善意を介してでしか、彼女に気持ちを伝えられない」
「……」
「事情を知らない貴方には我が何を言っているか分からないだろう。だが——」
「不躾な頼みだ。我の盟友になり、我に利用されてくれ。ルーガス・キリティア」
「……分かりました。事情を聴きましょう」
「そこは聴かない所だよね⁉」
「ええ⁉ 契約内容は聴いておかないと後で大変な事になりかねませんよ⁉」
「「……」」
「あ、いやそうじゃなくてね‼ ほら、えーっと、つまり‼ リュクシエルさんはキリアさんと友達になってディンナさんとも仲直りして友達になりたい、みたいな感じで‼」
「なぜ私と友人になったらディンナさんの友人になれると? ディンナさんと友人になるしかディンナさんの友人にはなれませんよね?」
「ディンナさんは、私と友人になったリュクシエルさんじゃないと友人になれないのですか?」
「ぐばふ⁉」
「ひひっ⁉」
「だからね‼ この二人は多分、昔に何かあって喧嘩別れみたいな感じになってたんだよ、でもリュクシエルさんはディンナさんと仲直りしたいんだけど——……えっと……」
「なかなか素直にゴメンナサイが言えなくて……そう‼ キッカケ‼」
「キリアさんと仲良くなる事をキッカケに、キリアさんの友達になるディンナさんに近付いて謝る機会を窺おうとしてるの‼」
「……なるほど理解しました。ですが、そんな戦略を標的であるマルティエーラさん本人の前で直接言ってもよろしかったんでしょうか?」
「本当は駄目だよね‼ でもキリアさんに説明しなきゃ話が進まないでしょ‼ それにほら、お互い何となくもう分かっちゃってる感じだったから大丈夫‼ ね‼」
「う……うむ「ひひっ‼」」
「……それに、まだ私はマルティエーラさんと友人になれていませんので、残念ながらそもそもの計画自体が破綻しているような——」
「そこら辺はもう、ね‼ いいの‼ そういうのは‼」
「ホント、キリアさんってば……あのね、キリアさん。キリアさん?」
「あ……すみません、ミラさん。話は後にした方が良いようです。逃げてください」
「え?」
「マルティエーラさんとリュクシエルさんも私から離れてください。時間がない」
「いったい何が……——⁉」
「ひひっ⁉」
「……バフォ——」
「アレは……バフォメット、だと⁉ 何故こんなところに中級悪魔が⁉」
「ウルル……フシュゥ……」
「嘘……学院に何で悪魔が……」
「そんなヤギ頭の雑魚はどうでもいいんです‼ もうすぐここに師匠が来ます‼」
「「「……は?」」ひひっ?」
「バフォ⁉」
「早く逃げてください‼ この迫ってくる速度、きっと私の策が成功したに違いない……早すぎる‼ 間違いなくブチキレています‼」
「あ、あの……キリアさん? 今は、あのバフォメットの事を……‼」
「来ます‼ そこのヤギさん、避けてください‼」
「ウルルゥ‼ バフォー‼‼」
「キリ、ティ、アアアアアアアァァ——‼」
「バフォォォォおーーーー⁉」
「……アンタかい。いや、アンタしか居ないね、アンタに決まってるんだ。アンタに決めてんだよ、決まったんだ」
「「「「……」」」」
「アンタだろ! アタシの酒に水混ぜて薄めたのは‼ こんの、馬鹿弟子がぁ‼」
「私が混ぜたのは、今日飲む予定の12本目の酒瓶です‼ どんだけ飲んでるんですか、この馬鹿師匠‼」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます