第8話 この魔女も策謀は巡らす。①
「ゴウバリンディウムは、適応能力の異様に高い魔獣なんです。大きな肉体のほぼ全てが空中や海中に満ちている魔力に近い性質で、少しの刺激で簡単に変質します」
「なので、その肉を食べると胃の中で消化を経ずに食べた人間の魔力へ一瞬で同化する為、体内の魔力が増加するのですよ」
「しかし、あまり急激に摂取すると本来の魔力限界値を超えてしまい、更には体外への放出も追いつかず、体内で増え続け、魔力を貯蔵する各器官が耐えきれずパーンします」
「……なるほど。つまり、今のガーベラの状態は、どういう状態なんだ?」
「えっと、魔力過多による魔力器官の故障でしょうか? まぁ世にいう胃疲れによる食欲の減退と言った所でしょうね」
「ふふっ……血と汗と全魔力を放出したケルベロス戦線を思い出す……一ミリも動けん」
「数日は自然と魔力を吸収できませんので魔法も魔術も使えず怠さが続くと思いますが、そのうち良くなりますよ。荒療治として、もう一度ゴウバリンディウムを摂取するという方法がありますが」
「危なすぎんだろ‼ ここ学食だぞ⁉」
「で、でも……ちゃんと用量用法を守れば魔力限界値を引き上げることが出来るんですよ?」
「師匠に聞いた話では、その性質を利用して暴食の魔王になった男も居るそうですし。魔王の決起集会に、たまたま師匠が出くわしたので事なきを得たようですが」
「魔王になっちゃダメだろ‼ なに考えてるんだアホか‼ それで魔王の決起集会ってなんだ、反政府運動かよ‼」
「そんな危ない食材、国も禁止にしろタコ‼」
「私に言われましても困ってしまいます。元々、ゴウバリンディム自体の数が少ないので大丈夫ですよ」
「ふっ……魔王か。それも、悪くない……」
「そんな口聞く余裕あんなら自分で歩けボケェ‼」
「ぐばふぁ……病に伏せし我が名は——……ガク」
「ひひひっ‼ こここ怖い……」
「あ゛あ⁉」
「ま、まぁまぁ……クライスラーさん。さっき小耳に挟んだんだけど、食堂に新しい料理人が入ってきたんだって。その人が今日の日替わりランチを作ってたみたい」
「ほほう。その人はきっと、凄腕の料理人に違いないですね。ゴウバリンディウムは、その性質上も捕獲難易度も厄災級に匹敵するくらい高いですからね」
「はぁ……はぁ……こいつらに付き合ってるとアタシの心が持たねぇ……」
「もうメシは食ったんだ。これ以上、付き合う義理も無いだろ、もうアタシは行くから」
「どちらへ?」
「……食後の運動、ついてくんなよ」
「そうですか……残念ですが、ここで一度お別れですね」
「すぐにまたクラスで会えるだろ。いちいち仰々しいんだよ、ったく」
「ふふっ、そうでしたね。ではまた後で」
「——ああ……またな」
「(……ちっ、全部の話が規格外すぎる……私は今、どのくらいなんだ……。ただ、今のままじゃまだ……ルーガス・メイジには遠すぎるってだけは分かった)」
「——……焦っているようだな。ビジル・クライスラー」
「ああ⁉ 誰だアンタ……は……⁉」
「……ぐるる。料理人さ。魔導料理の探究者……名は——」
「あ、やっぱりドリトルさんだったんですね。お久しぶりです、今日は師匠に頼み事ですか? それとも頼まれ事ですか?」
「「……」」
「おおい⁉ 俺様の謎の登場シーン‼ しかも真名を呼ぶなキリティア‼」
「は? ドリトル……ドリトル叔父さんか⁉ なんだよその格好⁉」
***
「さっきの人……あの狼の人は大丈夫なの? クライスラーを置いてきちゃったけど……」
「ドリトルさんですか? はい、あの人は呪いで狼人間になっているだけで元々は優しい人ですからね」
「ヴィンセント・ドリトル。魔導士で趣味が料理の、とても頼りになる人です」
「あ、そうでした。今はワー・ブロックスと名乗ってるんでした。さっき怒られたばかりです」
「へぇ……どっちも聞いた事ない名前だ。その人が、なんでクライスラーさんを?」
「……分かりませんが、ここに来た主な理由は師匠の酒の肴を作るためでしょうね」
「ん?」
「あ、でも……いま思えばドリトルさんは、よく師匠にビジルって名前を口にしていたのでクライさんの家族に何かを頼まれたのかもしれません」
「まぁ、分からない事を考えても仕方ありませんか。今はリュクシエルさんを保健室に連れていくことを優先しましょう」
「あっ‼ そういえばリュクシエルさんは——⁉」
「彼女ならマルティエーラさんのスキマの中で運んでもらっていますよ。あの中は法則が無視されてて色々と便利なので」
「……そうなんだ。って首から上が出てるよ‼」
「あ……ひひっ。ごごごごめんなさい……でででも、慣れてないとと、呼吸でで出来ないので」
「そうなんだ……足を持って引き摺って歩いてるんだね……マルティエーラ様」
「わ……我の事は気にするな。闇に生まれたものの宿命、罪深き我への因果おう……段差‼」
「……所でさ、キリアさん。キリアさんのお師匠様の事なんだけど」
「? 私の師匠が何か?」
「その……クライスラーさんみたいに、私はキリアさんの師匠に会った事ないからさ。どんな人なのかなーって……」
「もしかして、今日の私の八つ当たりの話を聞いたら怒る人なのかな……とか」
「いやあのね‼ 怒られるのは覚悟してるんだよ⁉ でもさ、ど……どのくらい怖い人なのかなって‼」
「……んー、怒りはしませんね。むしろ歓迎してくれるかと」
「師匠は、基本的には寛大な人ですよ。私が何度か本気で殺しに行ってもデコピンで許してくれますし」
「え。こ、殺しに行ったの?」
「まぁ、昔は私もヤンチャな子供でして。若気の至りです」
「それにしても、まだ気にしていらっしゃるんですか? 私は別に問題ないと言っているのに」
「う、うん……でも、これは多分、一生消えないんだと思う……ゴメンね」
「はい、許します」
「——……」
「——……羨ましいのか。ディンナ、あの二人が」
「ひひっ⁉ べべべ別に——」
「我は羨ましいと思った。特にルーガス・キリティアが——我もああいう風に、なれたらと」
「……——」
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