第7話 その魔女らは平和を拒まない。①
「メシ前に随分と慌ただしい感じになったな。ったく」
「はは、周りから凄い見られてるもんね。キリアさんの編入の件もあるから噂の広がり方が速そうだよ」
「目を付けてくる奴の動きもな。見せもんじゃないよ‼ 用があんなら直接言えやコラ‼」
「ったく——で、その注目の編入生様は、っと……」
「本当にお体は大丈夫なのですか? あまり無理をなさらぬよう」
「もう放っておいてくれたまえ‼」
「ひひっ……にに逃がしててて‼」
「駄目ですよ‼ もう一緒に食べる約束したんですから」
「お師匠様。訓示、その五」
「魔女なら契約は守らせろ。問題があっても契約した奴が悪い、です」
「……鬼か悪魔かよ。悪意の無い天然っぽさが輪を掛けてエゲツねぇ」
「でも、噂と言えば——マルティエーラ様だよね。入学当初に話題になった、あの噂」
「——……」
「誰にも知られてない侯爵の謎の孫娘の入学か。学校中を探し回った末に結局、別の学校に行ったって結論付いてたらしいけど、まさかスキマ魔法で同じクラスに隠れ潜んでたとはな……」
「ガーベラ。アンタは気付いてたか……ってな訳ないよな」
「……彼女の事は我も知っていた。とはいえ、初めは幽霊だと……そう思っていたんだが」
「マジかよ。アンタもスキマが見えんの⁉」
「「……」」
「そんなにマルティエーラさんは凄い人なのですか?」
「……えっとね。マルティエーラ家は、この国の西部を治めてる大領主の家柄で四大侯爵家の一角なの。その中でもマルティエーラ家は王の右腕とも言われてる、実質この国のナンバー2なんだよ」
「へぇ……あの王様の次ですか。では王城か何処かの場所で父君とは会った事があるかもしれませんね」
「アンタ、ホントに何も知らないんだね。因みに、ウィルソンのクソを捻り出したバルディード家は北部を治めてる領主の家だよ」
「——……待て。今、アンタなんて言った?」
「あ、料理が来たみたいですよ‼」
「……ミランダ。アタシは、もうアイツが何を言っても驚かないからな」
「はは……私も覚悟しとくよ」
「ええ⁉ ゴウバリンディウムのハラブランティーネじゃないですか‼ 懐かしい‼」
「知ってんのかよ‼」
「……あの、この禍々しき気配を放つ漆黒の料理はなんなのだろう。何故か我の前に置かれたのだが……」
「日替わりランチだよ‼ ゴウバリンなんちゃらのなんとか‼」
「ゴウバリンディウムのハラブランティーネですよ? 知りませんか?」
「南部遠方に生息する深海の巨大魚ですね。捕獲の難しさと見た目が悪い事から嫌煙されてきましたが、かつて食糧危機が南部で起こった際、試しに捕獲し食べた者を皆一応に勇者と讃え、食糧危機を免れたという代物なのです」
「ああ、そうかよ。頂きますズルル——」
「って、遠方南部の海の先は魔境だ‼ 多分ソイツは遥か昔の本物の勇者だろ‼」
「……く、クライスラーさん」
「アレ、ゴウバリンディウムって魔獣だったのか……畜生。昔、勇者の伝記で読んだわ。変幻自在の謎の海底生物」
「……ふふっ、わ、闇の深淵に生きる我が、光の勇者も食べた魔獣を食すなど些か皮肉めいた話だ、ふふふふ……だが良いだろう。我が胃の腑にて此度の魔獣を容易く制してくれよう」
「言葉と表情が合って無いよ……」
「我が名は——、暗黒魔神の腕に魂を抱かれし者ガーベラ‼ 恐れる物など何もない‼」
「はうむっ⁉」
「「「……」」」
「う……うみゃー‼ なんぞこれは‼」
「これ凄く美味しいんですよねー。私もソレにすれば良かったかもしれません」
「マジかよ……」
「う……うう⁉」
「んん⁉ どうしたの⁉ もしかして喉に詰まった⁉」
「魔力が……魔力が溢れるウウウウ‼」
「ええ⁉」
「ゴウバリンディウムの肉は滋養強壮効果があり、食した者の魔力を回復させて一時的に飛躍させるんですよ。もちろん食べ過ぎは良くないですが」
「これが——我が魔力……ふははは……良い、実に良い‼」
「なんなんだよその秘宝級の効果……そんなの学食のメニューに出すなよ」
「他の皆さんは何を? えっと……クライさんが東方の国のうどん、マルティエーラさんが西部のカレーライス……ミラさんは」
「えへへ、私は悩んだ末にキリアさんと同じ欲張りセットにしちゃった。DXでは無いけどね。レディース欲張りセット」
「そうなんですか? 楽しみですね……」
「ん、来たみたいだぞ。欲張りセット」
「え? ですが、料理を持ってきてくれていないようですけど?」
「欲張りセットはね。大きいから魔法陣で転送してくれるんだよ……これをテーブルに広げてっと……ここに食券を置いて、ほら‼」
「なるほど……私もやってみましょう」
「まずは布を広げて……」
「「……」」
「ちょっと待って……それ大き過ぎない?」
「嘘だろ……子供のブランケットくらいあるぞ」
「DXですからね。楽しみです、この端に食券を捧げるのですね。えい‼」
「「「「……」」」ひひっ⁉」
「「(……デカすぎる‼ 子供二人前くらい⁉)」」
「す、素敵です……これが、これこそが話に聞いていた食べ盛りの学生を支える学生食堂の料理‼ 師匠……私は今、猛烈に感動しています。じゅるり……」
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