第6話 この魔女は不気味を纏わない。②
***
「ふっ……四という数字は不吉だと伝承は語る。謎に満ちた過去の遺物は光と闇の神々の啓示……この出会いは或いは僥倖かもしれない。我が名は——」
「ここが食堂ですかー……人の薫りに混ざって良い薫りがしますね。お腹が空いてきます‼」
「「「「……」」」ひひっ」
「ふっ——、時はまだ満ちていないようだ。それもまた良い……いずれ我らは——また巡り合う運命にあるのだから……」
「なるほど、こちらの機械へ注文をして先にお金を払うのですね。色々と初めて見掛ける料理の名前があって悩んでしまいそうです」
「今のは気付かないんだな」
「はは……ね、ねぇキリアさん?」
「はい。私は、欲張りセットDXにする事にします‼」
「お師匠様。訓示その四」
「質も量も多い方が良いに決まっている、です‼」
「あ、いやそうじゃなくてね……でも待って、DXは見た事が無いけど、欲張りセットは本当に量が多いよ? 多分、五人分くらいあると思う」
「五人分も⁉ では、この食品サンプルの縮尺は正しくないのですね……人間五人分の大きさは流石に食べきれないです。残念」
「人間五人分の重量では無いよ⁉ 五人が食べるくらいの食事量って事だからね⁉」
「……それは難しい基準ですね。一人当たりどのくらいの量を想定しているのでしょうか。全員の平均値にしては少ない気がしますし」
「御託は良いから、さっさと決めなよ。まだあの子がコッチをチラチラ見ている内にさ」
「あ、そうだ‼ キリアさん、さっきリュクシエルさんが話しかけて来ていたんだけど」
「——‼」
「リュクシエルさん……ですか? どちらの方でしょう?」
「……今あそこでソワソワし始めた奴だよ。リュクシエル・ガーベラ」
「そうですか。それは申し訳ないことをしました」
「すぅ……リュクシエルさん‼ リュクシエル・ガーベラさん‼ 私に何か御用ですかー⁉」
「ちょ——き、キリアさん⁉」
「先程は! 気付けなくてすみませんでしたー‼ 何の御用でしたか⁉」
「ひひひっ……」
「……地獄だな。アタシもそのスキマに入れてくれよマルティエーラ」
「おや? 走って行ってしまいました、聞こえなかったのでしょうか」
「き……キリアさん……あ、あのね?」
「私、少し追い掛けてきますね。直ぐに戻りますから先に食べていてください」
「え——ちょま……‼」
「——すごい勢いだな。欲張りセットDXっと。アタシは、少し軽めにしとくかな。きつねうどんっと」
「マルティエーラは? ていうか、いい加減出て来いよ。アタシらアンタを見つけらんないんだけど」
「まぁキリアが帰ってきた後にアイツと同じように探し回られたいなら好きにすりゃいいが」
「ひひ……カカカレーライスス、で……中辛らら……」
「追い掛けなくていいの⁉ アレ、きっと大変な事になるよ⁉」
「直ぐに戻るって言ってたし、先に席を取っといた方が良いだろ。ミランダは? アンタ何食べんの?」
「あ、じゃあ日替わりランチで。てっ、そうじゃなくて‼」
「日替わり……今日の日替わり、ゴウバリンディウムのバラブランティーネらしいけど」
「え⁉ なにそれ⁉」
「いや知らねぇし……取り敢えずコレで良いんだろ?」
「待って‼ ……ください」
***
「ただいま戻りました。特に重要な要件では無かったそうなんですが、折角ですから彼女も一緒に食事を誘ってみました。クライさんは宜しいですか?」
「はぁ……はぁ……な、なんなんだこの女は……」
「もうアタシらはそのつもりだ。キリア、DXセットにしといたけど良かったか?」
「え、はい。もしかして先に注文して頂いたのですか?」
「まぁね。ガーベラは日替わり定食にしといたから席に座んなよ、今ミランダたちが全員分の飲み物取りに行ってるから」
「それは申し訳ないことを……んん? クライさんはリュクシエルさんと親しいのですか?」
「いちおう同じクラスだからね。アンタが来る前は二人一組の授業で、よく組まされてたんだ」
「お互い人に馴染めない余り者同士ってさ。ま、私と違ってソイツは不器用で人付き合いが下手なだけだから一緒にするのもどうかと思うけどね」
「すぅ……はぁ……ふはは、我のような高次元の存在に凡夫は理解する事が出来ない。ただそれだけの事だ……ふはは‼」
「……こんな感じで、演劇のキャラか何かを真似してないと人と喋れないアガリ症でさ。おまけに重度の魔法マニア。アタシの竜魔法について色々聞かれて面倒だったのは良い思い出だよ」
「演じる……ふっ、そう今の我は仮の姿、この包帯の下に隠されし呪印の封印を解き放てば誰もが畏怖する力を発揮してしまうが故に——」
「そういや、今日のドッジボール前のストレッチ。アンタ誰と組んだんだ? マルティエーラが消えてたせいで余ってた三人の中にアンタ居なかっただろ」
「……ふっ、過去に囚われるとは堕ちたものだな。我が盟友、ビジル・クライスラー」
「ご姉妹の方と組んでいましたよね? そっくりな双子だなと思ったので良く覚えてます。えっとアナタは……姉ですか? それとも妹?」
「「——⁉」」
「……アンタ、分身魔法を使えたんだね。さ、流石……魔法に詳しいだけはあるよ」
「ぐうっ‼」
「あ、戻って来たんだね。飲み物持ってきたよー……って」
「……な、何があったのか。聞いた方が良いのかな?」
「どど、どうしたんですか⁉ どこか体調がすぐれませんか?」
「うう……し、死にたい……」
「ひひっ……たたたぶん、ききき聞かない方がいいいいかもも……」
「はぁ……そっとしておいてやってやれ。あと、誰かキリアを止めてくれ」
「アタシも罪悪感で死にそうだよ……」
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