第5話 その魔女は明朗に笑う。①

——……。


「……やはり学生如きを少し焚き付けただけでは、そもそも格が違い過ぎたな」

「流石は拳の魔女の弟子というべきなのでしょうか……それとも——」


「時間が掛かるのは覚悟していた。準備に取り掛かるとしよう」

「あの美しい魔女は必ず我々が手に入れる」



「——直接、我らが手を下せば宜しいのでは? 今なら拳の魔女も近くに居ない事ですし」

「忌々しい奴の事だ。直ぐに現れるさ。それも踏まえて準備をせねばならん」



「ふむ……しかしそうだな、我らの素性が明かされない確約があるのなら君の好きにしてみるといい」

「ただ——覚悟はしておけよ。一筋縄ではいかない相手だ」


「そうですか……その言葉、胸に置いておきます」

「ルーガス・キリティア。災厄と祝福をもたらす禁断の果実……本当に美味しそう」


***

「すみませんでした、キリアさん‼」

「許します‼」

「色々と早過ぎるだろ‼」


「答えが分かっているものに対してグダグダと時間を浪費するのは勿体ないです」


「まぁ、そうなのかもしんねぇけど……形式だとか過程だとか順序だてるって大事だろ? 人付き合いなんかは特にさ。アタシに言えた義理じゃないけど」

「そうなのですか……難解ですね……ふむ」


「あ。そういえば師匠は、胸ぐらを掴んでから人と仲良くなる人でした。いつもそれで人に酒を奢ってもらっていて——」

「——待て。それは絶対に間違った知識だ」



「キリアさん‼ 私、まだキリアさんに謝らなきゃならない事があるの‼ 実は薬学の授業でキリアさんに近付いたのはウィルソン様の命令で——」

「はぁ……気付いてたらしいぞ、ソレ」

「……え?」



「それに本当に謝るつもりがあるならウィルソン様なんて呼び方は止めとけ。あんなのはクソで十分さ。略してウィルクソとでも呼んどけ」

「アンタらのくだらない策略を知ってても、キリアはアンタと友達になりたかったんだとさ」


「でも——もし次、アンタがキリアに同じような事しようとしたら今度は私がぶっ飛ばすから覚悟しときなよ。そういう卑怯なのは嫌いなんだ、アタシは」



「……クライさん」

「初めて私の事をキリアと呼んでいただけましたね」


「なな⁉ べ、別に良いだろ⁉ と、とと、友達、なん、だから……」

「はい。二人目の友人です‼」


「——……」



「……っち。なんなんだよ、調子狂うな、もう‼」


バタンっ‼


「——ふぅ……にしても氷魔法すごかったな……」

「(クールすぎるぜ……得意じゃねぇけど勉強してみっかな……)」


***

「さて……座学も終わって運動もしました。私たちも食事に行きましょうか」

「……え? で、でも私は——」


「あぁ——‼ クライさんを誘うのを忘れていました‼ 急いで追い掛けなければ——‼」


「さぁ、急ぎましょうミラさん」



「ま——、待ってキリアさん‼」

「ミラさん……?」



「わ、私には……資格が無いよ。キリアさんを騙して近づいて……挙句の果てに八つ当たりまでして……」

「友達になんて……なれる資格がない‼」



「え。友達になるのに資格が要るんです……か?」



「わ、私も、資格、持っていません……どどど、どうしましょう……し、師匠はそんな事ひと言も教えてくれませんでした……」

「あ……いや、そういう事じゃなくて」


「違法に許可なく友人を作ると罰金ですか、まま……まさか懲役刑……せっかく学院に通う事になったばかりなのに……」


「えっと……あのね、キリティアさん……」

「その資格というのは、どこで取得すれば良いのです⁉ 授業で取得するのでしょうか⁉」

「ものの例え、例えだから‼ ホントは資格なんていらないの‼」



「あ……」



「え、要らない? ……たとえ? んん? えーっと……それが何の例えになっているのか、教えて頂けませんか?」


「わ、私は多分……キリアさんの友達になっちゃいけなくて、その……酷い事を、許されない事をしたから」

「許しましたけど?」

「……え」


「——……良く分かりませんね。許されないとは、誰に許されてないと言うのか」

「謎の第三者の存在……やはり資格が……」

「違うの‼ そうじゃなくて‼」


「私が、私を許せないの‼ 私は弱くて、またウィルソンさ……バルディード君に何か命令されたら従っちゃうかもしれない。キリアさんを裏切って、騙してしまうかもしれない」


「でもキリアさんを、もう裏切りたくない、騙したくない、傷つけたくない。だって、だって私はキリアさんと友達になりたいから」


「では——、強くなってください」


「……え?」

「痛い‼」


「お師匠様。訓示、その三です」



「他人の傷は他人の物だ。自分の傷は自分の物だ」


「これから負うかもしれない可能性があるだけの私の傷を勝手に大怪我のように扱わないで下さい。そんなものは、きっと大した痛みではないです」



「私にとって今、いちばん怖い傷は、ミラさんと友達になれない事」

「……‼」



「でもミラさんにとって、私と友達になる事、ウィルソンのクソに逆らう事が本当に耐え難い苦痛だと思っているなら、私は諦めます。とても残念ですが」



「うっ……ひぐぅっ……‼」

「ええ⁉ 泣く程にオデコ痛かったですか⁉ すみません‼」


「う……゛ちが゛うぅぅぅ……」

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