第3話 この魔女は人を化かさない。②

***


「——あのクライさん。私と組みませんか?」

「はひ⁉ わ、私とか⁉」


「ええ、まだ私はミラさんとクライさんしか友人が居ないので、二人一組を作れと言われて他に当てもないですから」

「ミランダと……何かあったのか」



「……今は私が近づかない方が良い状態と言いますか、よく空気が読めないと言われる私でも避けられているのは理解できますから」

「組むのは良いけど……ん?」



「友人⁉ いつ私とアンタが友人になったんだ⁉」

「ええ⁉ 違いましたか⁉ 私の勘違い⁉」



「そ、そうですか……で、では……私は他の人を当たってみます……」

「ええいや、待て待て‼ 組むのは別に良い、問題ないから‼」

「本当ですか‼ ありがとうございます‼」


「……まぁバルディードのクソとの話は聞いたし、他の奴らはアンタを避けるだろうから結局は私とペアになると思うし」

「おや、アナタもバルディードのクソに嫌われているのですか?」


「んああ、昔から知り合いではあったけど、いよいよ頭にきて入学初日にぶっ飛ばしてやってからネチネチと嫌がらせをしてきてるよ」



「——最初は二人一組で軽いストレッチから始めるように‼」



「……では始めましょうか」

「ん、ああ……」



「「……」」



「あ、あの……これがストレッチというものなのでしょうか」

「い、いや……なんか、格闘技の試合開始みたいになったな」


「ああ。ああいう風にすればいいのですね」

「さ、触っても良いのかと思って……」


「? 構いませんが? 私は、こういう事に経験が無いので出来ればエスコートをして頂きたいです」

「そ、そうか……じゃ、じゃあ……」



「「……」」

「(ヤベー‼ ヤベー‼ 拳の魔女の弟子とストレッチ‼)」



「……クライさんは、師匠のファンという者なのでしょうか?」

「えあ⁉ あいや、べ、別に……」


「そうなのですか? てっきり私はそうだとばかり……」


「アレ? では、なぜ私に師匠の事を?」

「はえ⁉ ああ、ええっと……まぁ、色々とな……」


「そ、それよりミランダの奴とは何があったんだ? アタシで良ければ話くらい聞いてやるけど」

「ああ……昔、ミラさんの故郷を私が破壊した話をしまして」

「ミランダの故郷……ギムルのバルディゴの話か‼」


「あいったたたあた⁉ クライさん、力を入れ過ぎです‼」


「あ、悪い‼ つい興奮して……」



「——でもバルディゴの件は仕方ない部分があるだろ。バルディゴの毒霧自爆の被害拡大を防ぐ為に……」

「しかし、きっと師匠なら毒霧を噴射する前に討伐出来ていたでしょうから」



「ん……まるでバルディゴはルーガス・メイジが倒したんじゃないみたいな言い方だな」

「ああ、はい。バルディゴは私が倒しました。師匠が二日酔いで寝ていたので仕方なく」




「……は? バルディゴは厄災級だぞ……しかも五年前ってアンタ何歳だよ? 同い年だよな」


「10歳だったでしょうか? 厄災級と言っても範囲が広いですし、バルディゴは毒が面倒なだけで力自体は大した事ない魔物ですよ」

「……さ、さすが拳の魔女の弟子だな。規格外すぎる」



「当時、周辺の人々が困ってるようでしたから早く解決したくて寝ていた師匠に内緒でバルディゴを倒しに行ったんですけど……」

「思いのほか苦戦した挙句、バルディゴが自爆するのを知らずに、周辺の環境が滅茶苦茶になったので仕方なく近くの町や森や山ごと焼却しました。傲慢だった私の身勝手な行動がもたらした結果です」


「その話をミランダの奴にしたのか……」

「ええ。そうしたら言葉を失ってしまって」


「——かもな。ミランダの家は、バルディゴの件で色々あったみたいだし」



「……まぁでも結果オーライじゃね? ミランダがアンタの友達になっているのはオカシイと思っていたんだ、私は」

「アレがウィルソンのクソに逆らうとか有り得ないからな」


「——ストレッチが終わったら軽くキャッチボール‼」


「……カルク家は、バルディゴの所為で暫くバルディード家の世話になってる。昔から話に聞いていて知っているけど、その事でミランダは恩義を傘に着たウィルソンから酷い扱いを受けても、文句も言わずに従っていたらしい」


「アンタに近付いたのも、きっとウィルソンの差し金だと私は思ってるよ」


「それは……なんとなくは気付いていましたよ。さっきの薬学の授業で、何か仕掛けようとずっとポケットの中を気にしていたようですから」



「それでも、私は……彼女と友人になれたら、楽しいだろうなと、そう思ったのです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る