第3話 この魔女は人を化かさない。①
「まさか初めての授業が、あんな結果になってしまうとは……」
「つ、次を頑張れば良いよ! 教頭先生もオマケで2点くれたんだしさ‼」
「薄々は気付いていましたが……もしや私には才能が……」
「キリアさん、自信を持って‼ 私も横で見ていたけど作り方に何か間違いがあった訳じゃなかったし、それに——」
「もしや私には抑えきれない料理の才能があるのでしょうか」
「へ?」
「無意識に美味しい料理を作ってしまう天賦の才。我ながらなんて恐ろしい……」
「……あ、はは」
「おや? 誰か来ましたね」
「……ああ、アレは同じクラスのビジル・クライスラーさんだよ。今日も遅刻してきたんだね」
「このクラスを支配してるのはバルディード君だけど、怒らせたら一番怖いのは彼女かな。喧嘩っ早くって色々と問題を起こすけど、根は悪い人じゃないよ」
「……ほう、アレが俗に聞く不良というものでしょうか。ここに来る前に知り合いから不良にイジメられないようにと謎の警告をされていたのですが。しかし……あの格好」
「えっと……イジメをするような人では無いかな。そもそも、あんまりクラスの人とも仲良くなろうとしないし」
「……ミラさん、ミラさん。そのビジル・クライスラーさんがコチラに真っすぐ向かってくるのですが」
「ええ、何で⁉」
「「……」」
「おはようございます、私は今日からこの学院に通う事になったルーガス・キリティアです。これから宜しくお願いします」
「ルーガス……アンタ、あのルーガス・メイジの弟子だって話、本当か?」
「ルーガス・メイジ⁉ あの拳の魔女の⁉」
「そういえば自己紹介では言っていませんでしたね……だとしたら何か問題が?」
「……」
「あ、あのね二人とも。喧嘩は駄目だよ、ね? ね?」
「ルーガス・メイジがこの学院の先生になるって話は」
「……恐らく気が向いたらそうなると思います。厄災級の魔物とやらとの遊びに飽きた後になると思いますが——」
「……そうか。分かった」
「待ってください」
「私は名乗りましたのに、アナタは用件だけとは些か寂しい」
「ちょ、ちょっとキリアさん⁉」
「……そこの良い子ちゃんにでも聞きなよ」
「既に聞きました。しかし、それとこれとは話が別では?」
「ビジル・クライスラー。クライとでも呼びな、名前なんてどうでもいいさ」
「アンタがルーガス・メイジの弟子で、私は私。それだけで私にとっては充分だ」
「……」
「……強い方ですね、確かに。私が今日までに出会った同年代の中では頭一つ抜けている感じです」
「う、うん……体術も魔法も凄いかな。ルーガス・メイジ様に凄く憧れているって噂だよ」
「やはり。格好から師匠の感じを真似ていたのでそうかと思いました」
「あ、では! まさかの妹弟子候補でしょうか‼」
「そんな感じじゃなかったよ⁉ ものすごいライバル視で威嚇されてたけど⁉」
「ちっちっち、分かっていませんねミラさん。彼女は私にアダ名で呼んで良いと言っていたじゃないですか」
「間違いなく、私と友人になる為の挨拶ですよ。そして最近の遅刻は私や師匠の噂を聞きつけて興奮して眠れなかったことによる寝不足、ですね」
「ええ……そ、そうなのかな……」
一方その頃、
キリティアから少し離れた席にて無法者の如く机へ脚を叩き落として横柄に座ったビジル・クライスラーの胸中では——
「(ヤベー‼ 噂マジだったー‼ 話し掛けちゃったよ、ルーガス・メイジの弟子ヤベー、今日も絶対眠れねぇー、ヤベー)」
***
「そ、そういえばキリアさんの師匠ってルーガス・メイジ様だったんだね」
「はい。ミラさんも師匠を知っているんですか?」
「もちろんだよ‼ 稀代の天才にして救国の英雄、世界で五本の指に入る魔法の使い手にして竜族と同じ地位を手に入れた生きる伝説……」
「決して何者にも縛られず、何者にも従わず、拳一つで道を切り開く拳の魔女。知らない人の方が少ないよ」
「……典型的な師匠のイメージですね。特に外れてはいませんが」
「それに実は——私の故郷も、ルーガス・メイジ様に救われた事があるんだ……」
「当時、暴れ回ってたバルディゴって厄災級の魔物を退治してくれたの」
「……バルディゴ、ですか。私の記憶に間違いがなければ、五年ほど前だったでしょうか」
「知っているの⁉」
「無論です、その討伐に私も同伴していました」
「ですがバルディゴを退治……という事は、さぞかし師匠を憎んでいるのでは?」
「……え? いや、そんな事ある訳ないよ‼ 誰かが犠牲になる前にバルディゴを倒してくれたんだよ⁉ 感謝しても、し足りないくらいだよ」
「私ですよ」
「……?」
「カルク・ミランダさんの故郷を破壊したのは」
「だから、あの件で師匠を責めるのは筋違いなのです。師匠は頑なに認めてくれませんけどね」
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