第2話 この魔女は薬を作らない。②

***

「……つまり、この薬を調整して使用する事で魔獣語やその他の特殊な発音する言語を用いる際、円滑に相手と会話が出来るようになるという訳です」


「これから皆さんに薬の調合をして頂きますが、この薬は使用法や調合法を一歩でも間違えば暫く声を失ったりと異常をきたす恐れのある薬です」


「くれぐれも、慎重に教科書に記載されている通りに調合をする事。ふざけたり悪戯を仕掛ける事などは以ての外だと心掛けなさい」


「以上、これから薬の材料を渡します。予め確認はしていますが各自、今一度材料の確認を」



「……難しそうな調合だね。キリアさんは薬学の授業自体が初めてみたいだけど、大丈夫?」



「はぁ……ちゃんと魔術を教えてくれています感動です‼」

「神に感謝するほどに⁉」



「ええ。師匠は魔術薬を殆んど教えてくれなかったので」

「昔、教えてくれた事がありましたが、何故か美味しいスープカレーが完成して」

「……面白いお師匠さまだね」

「はい、怒りで笑い死にそうになる程に」


「あ、材料来た」

「おお、これは——見た事も無い植物‼ ポテトや鶏肉が無い‼」


「スープカレーじゃないからね……でも、このリンドラの実やパティグアラ草は香辛料としても使われる事があるよ。そしてこれが巷で魔女の薬の材料として有名なマンドラゴラ」

「根っこを地面から引き抜く時に凄い声で鳴くんだよね……子供の頃に住んでた場所が生産地で、たまに屋敷にまで声が響いてきてたよ」


「……お詳しいんですね。植物、お好きなんですか?」

「え、あ……ううん。このくらいは授業で習う一般常識だよ。キリアさんはこれまでの授業を受けてないから。偉そうに聞こえていたらゴメンなさい」


「いえ、そのような事は——とても楽しそうな顔でお話ししていましたよ?」

「マンドラゴラの鳴き声ですか……そのような思い出話が出来るならミラさんの故郷は、さぞ良い所なのでしょうね」



「……どうかな。悪い所ではないけど」


「材料の確認をしようか。早くしないと教頭先生に怒られちゃうから」

「そうですね。これらを微塵切りにして磨り潰すんですか、なるほど……なるほど」


「魔法生物でもあるマンドラゴラを媒介に他の材料で魔法変化を促していく感じかな。だから最初はマンドラゴラを粉々じゃなくて、少し破片が残るくらいに粗く潰した方が変化を見極めやすくなるよ」


「おお……そういう事なのですか。勉強になります、では早速始めましょうか」

「うん。頑張ろうね!」


***


「……ミス、ルーガス」

「はい、ミガルス教頭先生」




「大変に良い香りのするスープが出来たようですね」

「……はい、お褒めに預かり光栄です」

「なんで普通のスープになるの⁉」




「うう……何故でしょう」

「え、一緒に手順を確認しながらやったよね⁉ どうしてキリアさんのだけ⁉」


「ミス・カルク、10点。ミス・ルーガス、0点」


「0点‼」

「まったく……塩と胡椒で味を整えたら一点だけ加えて上げましょう、では次の方の採点に移ります」



「……き、キリアさん」

「すみません、せっかく色々と教えて頂いたのに……こんな無様な結果になってしまい」

「いや、私は全然大丈夫なんだけど……」



「それで、塩と胡椒は何処にあるのでしょうか」

「あ、ホントに一点は貰う気なんだね。ポジティブ」


***

「では、一人を除いて皆さんに問題が無い事は確認しました。それぞれ薬を試してみなさい」

「……塩と胡椒を少々、と」


「——ホントに、凄い見事な黄金のスープだね……」

「良ければ、味見をしてみますか?」


「え、あ、いや……その」

「ミス・ルーガス。スープは出来ましたか」


「はい、ミガルス教頭先生。味見をして頂きますか?」

「……良いでしょう。何故スープになったのか、後学の為にも」

「ミラさんも、是非」

「え、ああ……うん」



「「……」」



「んん⁉ うまままままー‼」

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