第2話 この魔女は薬を作らない。①
「初めての授業は薬学ですか……あまり得意では無いのですが……」
「ん……皆さん、教科書の他に道具を用意しているのですね。困りました……その話は聞いていなかったです」
「道具なら、後ろのロッカーに揃ってると思うよ。無くても後で先生に言えば貸してくれると思う。皆が持ってるのも学院から支給されたものだから」
「……アナタは?」
「あ、ごめんなさい‼ 私はクラス委員長のカルク・ミランダ」
「隣の席に座って良い?」
「もちろん! カルクさんが良ければ私は歓迎します‼ 大歓迎です‼」
「所で、もう一つ質問しても?」
「え、ああ、うん。何でも聞いて」
「クラス委員長とは、いったい何ですか?」
「へ? え……クラス委員長だけど……?」
「ふむ。通り名を持つ程の力があるようには見えませんし……あ、もしかしたらこれが……」
「キリティアさん?」
「アダ名という奴ですね‼ 友人同士で呼び合う‼」
「なるほど、つまり私のような若輩でも友人としてアダ名呼びを許可して頂けると‼」
「ああ、お師匠様‼ 私に初めて同年代の友人が出来ました……」
「えっと……あの、キリティアさん?」
「はい。カルク・ミランダさん……あ」
「いえ、ゴホン、では僭越ながら……どうしましたか、クラス委員長?」
「あ、あのね……クラス委員長はその、役割の名前で別にアダ名じゃなくて、その……」
「え……で、では……わ、私の友人にははわわわ……」
「あ、でもね! き、キリティアさんとは仲良くした……いなって」
「……そうですよね。先ほどのイザコザで皆さん、私を警戒して近づけず、ヒソヒソ話しているようですし、あのウィルソンとかいう輩が恐らくこの学級の実権を支配しているみたいでしたから力関係的にウィルソンの機嫌を損ね兼ねない行動は取りづらいでしょうし」
「尋常じゃなく落ち込んでる‼」
「しかし別に私は悪くないじゃないですか、むやみやたらに力や権力を振りかざす相手に対し目には目を歯には歯をで相手の道理に合わせた格好ですし、普通に生活するには協調性が大事だとお師匠様が仰ってましたし、まさか嘘ですか、ありえますね。あの師匠なら……ブツブツ」
「あ、あのね‼ クラス委員長はアダ名じゃないけど、私はキリティアさんとは仲良くなりたいなぁって思ってて、その……」
「で、出来れば私の事、ミラって呼んでくれたら嬉しいな。親しい人は私をそう呼ぶから!」
「……」
「後ね、私もキリティアさん事……キリアさんって呼んで良いかな……って?」
「……——ハイ‼」
——。
「いやぁ嬉しいものですね。この学院で上手くやれるか不安でしたけど、ミラさんのおかげで少し楽しみになってきました‼」
「う、うん……これから、宜しくね」
「はい。所でクラス委員長とは、いったい何なのですか?」
「……本当に知らないの?」
「はい、微塵も‼」
***
「なるほどつまり……この学級の全員が話し合い、多数の人間から支持を集めた学級の代表……リーダーということですか……ふむ」
「てっきり私は、あのウィルソンとかいう輩が支配しているものかと。皆さん、あの男の蛮行に目を背けて居ましたし」
「ああ……うん。実質の支配権はバルディード君が握ってるかな。私は、その……色々な面倒事を押し付けられているみたいな感じだから」
「バルディード君は、このクラスじゃ一番の名家の生まれで魔法の実力も凄いし、大半の生徒が彼の言う事に逆らえなくて……」
「人間のクズ、というのは正解でしたか。やはりこれまでに培ってきた私の見る目は正確なようですね」
「そしてミラさんは良い人だ。そんな状況の中、ウィルソンに目を付けられた私に話しかけてくれる勇敢な人です」
「……ゆ、勇敢だなんて。私は、自分の役目を果たしてるだけだし……過大評価が過ぎるよ」
「ん? ではミラさんはクラス委員長だから私と仲良くしてくれるのですか?」
「あ、ち、違うよ‼ 私は——」
「授業を始めます‼ ミスター・バルディード! アナタも急いで席に着きなさい」
「……あ、服を着替えてきたのですね」
「私の服の弁償はいつになるのでしょう?」
「——……貴様のような愚民にはお似合いの柄だろう」
「所でカルク……随分とその愚民と仲良くなったようだな」
「……」
「ふふ。私とミラさんは友人になったのです、もし何か手を出したら愚民とやらの住む町の路上に転がしますよ?」
「貴族様の身を挺した滑稽な降臨に、さぞ民衆は喝采を送ってくれることでしょう」
「……ふん。そうであればいいがな」
「ミス・ルーガス。アナタはコチラに来なさい」
「はい、ミガルス教頭先生」
「……先の騒動については聞き及んでいます。アナタとは、もう一度お話をしなければいけないようですね」
「‼ 噂に聞く女子会なるもののお誘いでしょうか‼」
「私はそのようなものに興じる歳ではありません」
「お師匠さま曰く女性はいつまでも女性なのですよ、ミガルス教頭先生」
「……否定はしませんが。この薬学の道具は学校からの支給品です、くれぐれも壊したりせず大事に扱うように」
「了解しました。丁重にお預かりいたします」
「——では授業を始めます。教科書の37ページ、声帯変換薬の概要から」
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