第1話 この魔女は空を飛ばない。②

***


「まさか厄災級の討伐なんて……」


「メイジさんが心配? でも仕方ないわよね、厄災級だとメイジさんくらいのスペシャルの実力者じゃないと難しい相手だし」


「……心配はしてないですが、なんだか嫌な予感が」

「ふふ。それを心配というのよ。さぁ、ここが今日からアナタが所属する教室ね」



「改めて自己紹介をしておきます。これからのアナタの手本になるようにね」


「私はウェルリ・ニルヴァーナ。このクラスの担当教師と、防御の魔法教師を務めているわ。親しみを込めてニーナ先生と呼んでくれたら嬉しいです」



「ウェルリ・ニルヴァーナ。ニーナ先生ですね、覚えました。これから宜しくお願いします、ニーナ先生」

「ふふ。では、行きましょうか」



「これから本当に——、いよいよ始まるんですね、師匠。私の人間らしい生活が……‼」



『イグナイト・フレイム‼』


「——⁉」

「ははは! さすが、稀代の防御魔法使い。やはり奇襲など通用しないようですねぇ」

「……ウィルソン君、またアナタですか」

「ふふっ、教師とは生徒の成長の糧になる事が至上の喜びと聞きます。先生のような『的』で練習が出来て私たち一同、日頃より感謝をしておりますよ」


「……。あ‼ 大丈夫ですか、ミス・キリティア‼ 怪我は、怪我はありませんか‼」

「あ、はい。ちょっと制服が焦げただけです」

「ずいぶん、元気のいい同級生のようですね。少し驚きました」

「ごめんなさい。私の注意が足りなかったわ……本当に怪我は無い?」

「……なぜ先生が謝るのでしょう? 先生には特に問題は無いと思われますが」

「ニーナ先生、それでアチラの方は?」


「同級生のバルディード・ウィルソン君です。ウィルソン君、こちらの編入生のキリティアさんに怪我をさせる所でしたよ。魔法を放つ時と、場所はキチンと考えなさい」

「……確かに、今回の件は私に非があるように見えるな。大変失礼した。制服の方はコチラで新しいものを直ぐに手配させよう」



「君が、噂になっていた編入生か。こんなおかしな時期に編入とは、余程の事情があったと見受ける。特例を認められたことを鑑みれば、さぞ高名な家柄をお持ちなのだろうな」


「……ふぅ。はい!この度、エリアリア魔法学院にて一緒に勉学を励む事になりました、ルーガス・キリティアです。気軽にキリアと、そう呼んでいただけると助かります」


「家柄との事でしたが、残念ながら私は幼い頃に道で拾われた身ですので誇れるような家柄ではなく、名高い貴族の方々には不快な思いをさせるかもしれませんが、仲良くして頂けると幸いです」


「……貴族では無い、だと?」

「あ、それとですね——」

「バルディード・ウィルソンさんみたいな人間のクズとは仲良くなるつもりは無いのであしからず」


「——⁉」


「ほ、ほう……良い度胸だな貴様、この国でバルディード家の名を知らん者が居るとは……」

「あ。服に結構な火が付いてますけど、大丈夫ですか?」


「……へ、ウギャ嗚呼ああ⁉」


「はははー、駄目ですよ、キチンと魔力制御しないと奇襲を掛けても自分が燃えてしまっては本末転倒じゃないですか」

「ひぃ‼ 消えない、消えない‼ なんなんだこの炎⁉」


「こちらの水筒一杯分くらいの水でいいならバルディード家の財産の半分で手を打ちますが? 今から書類を用意しますね」

「熱い‼ 焼ける‼ た、助けてくれぇ‼」


『ウォーターフォール‼』


「……キリティアさん。やり過ぎです」

「すみません、イタズラ好きなのは師匠から譲られたものでして」

「でも、ウィルソンさんは一つも怪我をしてないのでご安心ください。服も含めて、特に何も燃やしてはいませんから」


「……え?」


「はぁ、はぁ……き、貴様……う——‼」

「……貴様に貴様などと、言われる筋合いは無いですよね?」


「あ、あ……‼」


「覚えていないようなので、もう一度名乗らせていただきますね。私の名前はルーガス・キリティア。この学校で皆さんと同じように平和で穏やかに過ごせると嬉しいです」


「さて、先生。自己紹介が終わったら私は何をすればいいでしょうか?」

「勉強ですか、訓練ですか? あ、それともウィルソンくんの濡れた服のお洗濯ですか?」



「……取り敢えず、空いている好きな席に座ってください。色々と連絡事項がありますから」

「了解しました‼」


『ウィンド・ピクスイ』


「さぁ、これで服も渇きました。ウィルソン君も席に着きなさい」

「…………くっ‼」

「ふんふふ~ん♪ どこの席に座るべきでしょうか♪」

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