第34話
ディードは鬱茂く森の中をとある目印を探して闊歩する。
「苔の無い石柱が四本立った場所に......」
その目的は───
───────────
「ありがとう、ディード」
ヴァーナは噛み締めるように目を閉じた。
「でも、今の君たちじゃ、あの子の下に行った所で犬死にするだけだよ」
それはそうだな、と首を傾げる。
でも、だからといって俺に出来ることは彼女たちと向き合うことぐらいしかないぞ。
「これは一か八かなんだけどね───」
───────────
「加護を手に入れろ、かぁ」
大精霊の加護。
彼の者に認められし勇士は、その身に大いなる加護が施される。
ゲーム的に言えば、耐性上昇と属性の強化。そして、特定人物が得れば属性魔法の極意が習得できる。
前者の効果だけなら扱う属性に制限はなく、重ねがけも可能なため、スタメンは全ての加護を取得するのがデフォとされていた。
「だからといって、0に何かけても0なんだけどなぁ」
困ったことに、上昇率は加算ではなく乗算で計算される。
そもそも、加算で上昇するのは装備くらいで、魔法やイベントでの強化は全て乗算なのだ。
だからこそ、育成が容易だったとも言えるのだが、果たして
とりあえず、ヴァーナの助言を経て各地に居座る大精霊たちの下へ赴き、加護を貰えるように頼む。
それが、最速の手段だ。リターンは見込みにくいが、手をこまねいている暇は無い。
ハイタがシャトンに全てを委ねてしまう前に、彼女たちと向き合える力を身につけなければならないのだ。
「俺、騎士じゃなくて庭師の方が向いてるかもな!」
薮を切り進みながら、そんな冗談を漏らす。
反応が返ってこないので、どうやらスベッたみたいだ。少し恥ずかしい。
「はむ」
羞恥を飲み込むように木の実を頬張る。
ヴァーナから貰った食糧は底を尽きてしまったが、幸いにもここには多くの食物が自生している。そのため、食糧難になることはまず無い。
水に関しても、大きな河が陸地を分断するように流れているので、それも困ることは無い。
「たった数十年でここまで生い茂るものなのか......」
陸の孤島『ジュニャ』。
それはかつてこの世界で最も賢いと言われていた種族が居を構えていたらしい。
しかし、数十年前に彼らはこの世界から姿を消してしまった。
ある一説によれば、彼らは世界を総べる『王』の怒りを買ってしまい消されてしまったのだと云う。
「ここか」
その一帯だけ、開かれている。
太陽の光が当たるように。
それを祀り上げるように。
「やぁ、随分と掛かったじゃあないか」
爽やかな春風が、季節外れの温かさを運んでくる。
彼は柱に腰を掛けながら、こちらを見下ろしていた。
「話は彼女から聞いてるよ。それで、名乗った方がいいのかな? まぁ、いいや。メティスとでも呼んでくれ」
風の大精霊『メティス』。
その中性的な面立ちと感情の乏しい性格は男女問わず多くの者を魅了した。
グッズに関しても、大精霊の中では一、二を争うほどの人気だった。
「ディード・オルネーソだ。よろしく頼む」
「頼まれちゃったかぁ。まあ、面白そうだから門前払いはしないよ。それに」
─驕った王にはそろそろお灸を添えないとね
彼の表情は変わらない。
だが、荒ぶく風が彼の怒りを存分に表している。
「全く勝手な話だよ。こっちは人間なんて然程も興味が無いのにさ、やれ力を与えろだの、懇意にしろだの、自分たちだけで好きにしていればいいだろうになんで僕まで巻き込むのかな......」
「難儀だな、お前も」
そう言うと彼は、眉を上げて鼻を鳴らした。
「君ほどじゃないさ。それに、意趣返しも出来たしね。生憎、馬鹿にとって風魔法は禄に扱えない代物だよ」
あの伯爵子息にも当てはまるか。
「どうしてそれが意趣返しなるんだ?」
「王は全てを持ち、騎士には各属性が与えられている。けど、残念ながら僕が選んだのは到底騎士にはなり得ない愚者だったということさ」
「ッ!」
いや、これはまさしく奴のことだ!
それに王は全てを持つだと?
なら、ここで言う王は─
「ふむ、心当たりがあるのか。ヴァーナの言う通り、全てを知っているような雰囲気だね。あの根暗の割りには中々鋭いじゃないか」
メティスは柱から舞い降りて、ディードの正面に立つ。
その顔にはいかにも風の精霊らしく、悪戯げな微笑みを浮かべていた。
「俄然楽しみになってきた。どうか期待を裏切らないでくれよ」
肌を撫でるような涼風と共に彼は忽然と姿を消してしまった。
木々はざわめき始め、葉の擦れる音が森に響く。
つまり、試練はもう始まっている。
大丈夫だ。
何も命まで盗られるわけじゃない。
気楽に行こう。
─汝、その賢なる東風を吹かせよ
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