第29話
「これからどうするんだ?」
カビたパンを齧りながら、今後の動向について尋ねてみる。
「ウチは組織作りやけど、
「俺はどうにかして魔法が使えるようになりたいんだが、昨日のヴァーナの反応を見る限り、それも難しそうだ」
「ほな、ウチの手伝いっちゅうことで決定!」
ハイタはパチパチと拍手をするが、俺は"待った"をかける。
「難しそうなだけで無理だとまでは決まっていない。今日、もう一度彼女に会って方法がないか確かめに行く」
「.....そっか、ほな今日は兄ちゃんに付き合うわ。でも、明日からはウチ優先やからな」
「なんだ、やけに飲み込みがいいな。もう少し捏ねると思ったんだが......」
彼女は白湯をズズッと啜ってから人差し指を立てた。
「いらんことで争うのは無駄や。それに、個人的に兄ちゃんの事は気になっとるし」
「盗み聞きする気満々かよ」
「当たり前や! 兄ちゃんだけウチのこと知っとるのはズルやからな!」
そうして、朝食を終えた俺たちは息付く暇もなく、ヴァーナの正殿へと訪れた。
「ぇ、え? 昨日の今日でまた来たのぉッ!?」
「悪いか?」
「昨日、あんなにかっこよく決めたのにこれじゃ台無しだよぉ。なんで連れてきちゃったのさぁ、ハイタ〜」
「うっさいわ。とっとと、兄ちゃんに魔法が使えるようになる方法を教えんかい!」
ハイタはグニグニとヴァーナの頬を捏ねる。
「ひょ、
じたばたと悶えるヴァーナをハイタは嬉しそうにこね回し、ひとしきり堪能してからパッと離した。
「ひぃ、ひぃ。ま、まったく、ハイタはやんちゃさんで困るなぁ......」
「それで?方法は?」
「か、間髪入れずとは。き、君も容赦ないんだねぇ〜」
「いいから教えろ」
彼女の頬に手を添えると、あたふたと喚き出す。
「わかったよぅ!分かったから離れてぇ〜!」
ディードが手を離すと、大きな息切れをしながらヴァーナは椅子に腰を掛けた。
「これってさぁ、私じゃなくてぇ、本人から直接聞いた方がいいやつじゃあない?」
人差し指を突き合わせながら、しどろもどろに話すヴァーナにハイタは再び手を構える。
「ひぇあ〜!」
「待て待て、落ち着けハイタ。いちいち脅してたらキリがない。それで、本人ってディードのことか?」
「あ、え、彼は知らないんじゃないかなぁ。って、そういえば彼には会ったのぉ? 私、昨日会った方がいぃって言ったよねぇ?」
「う゛っ」
「もしかして、怖いのぉ?彼と会うのがぁ?」
ヴァーナが目の前にふよふよと浮かんできて煽るようにププーと笑う。
図星だし、ムカつくので目潰しした。
「ぎゃー!」
「あ、兄ちゃん、えげつないなぁ」
「大精霊の扱いはこのくらいでいいんだよ。特に、捻くれ者の闇の大精霊様はな」
「ったく、....のやつ、余計なこと教えてるんだからぁ」
ヴァーナが小声でブツブツ文句を言っているので、慰めるとしよう。
「なんか文句あるか?」
「それ、頭を撫でながら言う言葉なのかなぁ?」
「もう茶番はええから。はよ、兄ちゃんに教えたりーな、ヴァーナ」
ハイタは石壁に肘を着いて、面倒臭そうにため息を吐いた。
「だからさぁ、それは私じゃなくてぇ、『ハーバラ』から聞いた方がいいって、思うんだぁ」
「は?」
ハーバラ? なぜ、そこで炎の大精霊が出てくるんだ?確かにオルネーソ家と彼女の関係は深いが、彼女は
「えぇ!?何その顔!?なんでそんな意外そうな顔してるのぉ!?」
「いや、驚きたいのはこっちなんだが。お前、俺がオルネーソ家の人間だったからって安直な提案をしてるんじゃないか?」
「『ハーバラ』っちゅうことは炎の大精霊か。そいつが、ウチにとってのヴァーナみたいな奴ちゅーことやな?」
「まあ、その理解でいい。実際は該当なしなんだがな」
「いやいやいや、君ィ、ハーバラと会ってるというか、私とハイタぐらい親密な関係というかぁ、そのぉ」
いつまで言ってるんだこいつは。シナリオ上、俺と炎の大精霊が会うのは最後だけだ。それも死の間際、彼女の哀れんだ表情を一目見るだけというなんとも悲しい場面。もちろん、ディードにとってな。主人公たちにとってはようやくしつこい宿敵が消えた痛快な場面だ。
その場面を思い出すと、なんだかすごく気分が悪い。あれほど慣れ親しんだ光景が、今では想像したくもないほどになってしまった。
「自覚ないのぉ?」
「なんの自覚だ?」
ヴァーナは「あちゃあ」と額を押さえて、指の隙間からこちらを一瞥した。
「聞いてるんでしょぉ、いい加減出てきたらぁ?」
「......」
「..........」
.........。
「そっかぁ、あくまでそういう
「何がやねん!」
「あぎゃ!」
ハイタがヴァーナの頭を思い切り叩いた。
「とりあえず、お前の口からは言いたくないということは分かった」
「まぁ、私から言えることはそんな方法はないってことぐらいだねぇ」
「言うんかい!」
ハイタが再びヴァーナの頭を叩く。
「ひぎぃ!.....逆に言えばそれしか言えないんだよぉ」
「つまり詳しいことは話せない、と」
「うんうん、そういうこと」
結局、収穫無しか。来た意味無かったな。
「帰るか」
「せやな」
「え!?もう帰るの!?来た理由それだけ!?」
「逆に聞くが、それ以外の理由があるとでも?」
「ええと、ハイタの恥ずかしい話とか聞きたくない?」
無言の鉄拳がヴァーナの顔面を撃ち抜く。
「さ、兄ちゃん。このアホなんか放ってさっさと行こか。ここからはウチの番やからな」
「あぁ」
「.....ねぇ」
ディード達が去った後、ヴァーナはおもむろに立ち上がり、虚空へと語りかける。すると、熱で空間が歪み、そこから炎の玉が現れた。
「いつまでそうやって隠れてるつもりなの?」
─うるさい
「孰れバレるんだからさぁ、早めに正体明かしした方が彼にとってもいいと思うけどなぁ」
─あんたには関係ない
「そっちの方で何があったのか知らないけどさぁ......。や、私も君の事をとやかく言える立場じゃないし、これ以上は黙っておくねぇ」
その言葉を最後に、炎の玉は音もなく消えた。
「結局、みんなエコヒイキ〜ってことかなぁ」
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