第26話
かつてこの世界には多くの人間の国があった。
それは他の種族から見れば異常なことであり、同じ種族の間ですら分かり合うこともせず争う人間は下等な生物であると笑いものにされていた。
それが彼女は気に入らなかった。彼女は人間が大好きでたまらなかったから。
だから、ある人間にあらゆる力を授け、人間を纏めあげさせた。
それが、この王国の成り立ちである。
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「気候は悪くないな」
国境からずっと南に下ると1つの街がある。
通称 "終着点"
そこにはあらゆる種族の国を追われた犯罪者や被差別者、浮浪人、そして孤児が住居を構えている。
「だが、空気は最悪だ」
賭博場や娼館はもちろん、麻薬の販売や違法な武具、魔法具の取引等も茶飯事で行われている。まさに、終わっていると言っても過言ではない場所だ。
国外追放が決まった後は早かった。判決と同時に身柄は抑えられ、そのまま門の外へ ポイ だ。家にすら立ち寄らせてくれる暇も与えてくれなかった。まあ、その方がありがたいと言えばありがたい。おかげですんなりと行動範囲が広げることができた。
ただ、ハルネに何も言えず別れてしまったことだけが心残りだ。せめて、一言だけでも伝えたかった。
「生きていればそのうちと言えども、辛いものは辛い」
この街の雰囲気が余計に気持ちを落ち込ませる。日中だというのにどうしてこんなにも暗いんだ全く。
「おうおうおう! 小便臭ぇガキがこんな場所に何の御用でちゅかぁ?ふふ、いやいや、そりゃもうたった一つだけだよなぁ!?」
場所が場所なのでこのような輩に絡まれるというのも必然だろう。むしろ、今まで絡まれなかったことがおかしい。変なところで運が良いのがまた悲しいかな。
「やれやれ」
「とっととアレを寄越せやぁ!!!」
「オラァ!」
絡んできたチンピラをボコして身ぐるみを剥ぐ。
「やはり王国の貨幣か」
得たものは銀貨数枚と銅貨が数十枚。ここでは無用の長物。この場所で通貨として役割を果たすものは闇の大精霊の刻印が入った石のみだ。それさえあれば、立派な"終着点の一員"として認められる。
「だが、どうして俺みたいなガキが持ってると思ったんだか」
驚くべきはその構成員が全て孤児だという点。ハイタは終着点に居着いた身寄りのない子どもたちを家族として迎え入れ、影鬣犬の仕事に従事させている。それも適材適所、無理のない範囲で。彼女は身内に対しては優しいお姉さんなのだ。それ以外には冷酷無情な裏社会のドンではあるが。
「ごめーん。多分、それウチのせいやな」
「ッ!」
気配がなかったッ!
警戒はしていた!それなのにこれ程接近を許すとは!
「そう身構えんといてな。ウチは
「俺が話すことなんて何もないと思うんだが」
右目の傷と訛りの混じった言葉。
間違いない、影鬣犬の頭領、ハイタだ。こんなに早く会えるとは。
「ほぉん、たかが8歳の小娘に対して向ける殺意とちゃうなぁ。その感じ、ウチが誰か分かっとるんか?」
「はは、その貫禄で俺より歳下かよ」
あくまで無機質を装っているはずなのに。僅かに漏れ出た感情の機微を読み取るとは、常人にはできぬ芸当だ。
そして、彼女が纏う威圧感。それはまさに闇社会に生きるドンそのもの。
「ま、冗談やがな、冗談。ウチはハイタ。ここに住んどる幼気な少女や」
だが、それは未来の話。今はここに住み着くただの孤児。なんて、それこそ冗談だろう?もう既にトップとしての貫禄が滲み出てるじゃないか。
「兄ちゃん強いねんなぁ。ウチ、兄ちゃんの戦い方見て、感動してん。そんでな、そんなカッコイイ兄ちゃんにお願いがあるんやけど、ウチと一緒に此処の天下取らへんか?ウチと兄ちゃんやったら、そりゃもうちょちょいのちょいやと思うんやけど。ええの? ほんまに?さすがやわぁ」
有無を言わさず畳み掛けてくる。最初から断るという選択肢など与えてはくれなさそうだ。
「そんで、これからの計画なんやけどな」
ほら、俺が喋る隙を与えない。彼女にとって、俺の意思は関係ないのだ。俺を有用だと思ったから、絶対に引き込むつもりなのだろう。
「なあ、無視せんといてな」
俺がここへ来た目的はたった一つ。
闇の大精霊に会うためだ。
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