第25話
俺が家に戻ってから3ヶ月程過ぎた頃、その便りは唐突に訪れた。
「証人招集か」
どうやらハーディンが会話ができるほど快復したらしい。それに伴い、例の件について裁判が行われることとなった。
「なんだか気まずいな......」
コール殿下とはあれ以来連絡を取っていない。裁判では判事として王家の人間が選任される。もし、皇太子である殿下が選ばれたら、なんて顔をすればいいのか.......。それに判事として選ばれなくとも、傍聴人としてあの場にいる可能性が高い。
「断るわけにもいかないしな」
当事者である俺が不在では物事も進まない。腹を括って出席するか。
宮殿に着くと、控え室に案内された。どうやら、他の者とは違うタイミングで入廷するらしい。
「時間だ。ついてきたまえ」
その声はやけに冷たい。まあ、公爵家の鼻摘み者だとこんなものか、と大して気にはならなかった。
だが
「入れ」
その態度がそのような意味ではないことは
「ふむ。揃ったな」
裁判が始まってすぐに分かった
「では、これよりディード・オルネーソによるハーディン・グルノドン殺害未遂の審判を執り行う」
俺が
驚きを通り越して、乾いた笑いが出た。
向かい側にはハーディン・グルノドンが腕を組んで座っている。そして何やら考え込んでいるようで目を瞑って俯いていた。
「光の大精霊様のお告げにより、判事はこのテルー・ロード・ケーニフが務める」
判事は王弟殿下か。まだコール殿下じゃなかっただけマシだな。なんて考えてる場合ではない。
「ではまず冒頭弁論を。クリスエル枢機卿」
白く長い髭を蓄えた面長な男が証人台に立つ。
「蓮月6日の夜、兵舎にて罪人であるディード・オルネーソが何らかの方法で『無郷篇』を行使し ハーディン・グルノドンを攻撃し、殺害を企てた。これは我が国の頂点に坐す光の大精霊による『天啓』であり、この事実が覆ることはない。以上」
溜息が漏れそうになる。魔力の持たない俺が何らかの方法で『無郷篇』を行使だと? 頭お花畑でもそれが起こりえないことは分かる。しかし、あそこにいる人間はそうであると信じている。バカバカしい。そんなこと、今すぐここで証明してやろうか。
「次に、ハーディン・グルノドン。証言台へ」
ハーディンは呼ばれてから少し間を置いて、証言台へ向かった。
「証人に問う。貴殿はそこに居る罪人に不意をつかれ、外道にもその歯牙に掛かった。間違いないか?」
テルーの言葉にハーディンはすぐに答えた。
「私がその青二才に殺されかけただと? ふん、その小僧は愚かにも私に刃を向けずに地面を這いつくばっていた。私が小僧の攻撃を受けるなど断じてありえないことだ」
法廷が一気に騒がしくなる。困惑と怒声。当の本人は気にも留めずに前を見つめていた。
「静粛に!静粛に!......どうやら証人は護王十騎士の誇りから嘘を吐いているようだ。それは仕方ない。こちらの質問が不躾であった。よって、この発言については不問とする」
「おかしいと思わないのか? この小僧は魔法が使えない。それは貴様らにとっても周知の事実。ならば、どうやって『無郷篇』を唱えたというのだ? 光の大精霊様は《何らかの方法》とやらを教えなかったのか?」
「まだ発言の許可はしていない!それ以上不敬を働くのならば退廷を命じる!」
「おい、ゼロラウス。今ここで小僧の魔力を確かめてみろ。もちろん、ここに居る全員に分かるようにな」
「退廷だ! 誰かこの者を法廷から追い出せ!」
わからない。どうしてこの人はそんなに俺を庇うんだ。彼にとって、俺は憎たらしいガキのはずだ。どうして己の立場を危うくしてまで、この場に反発するような言葉を発するんだ。
「そこまでして庇う価値はないと思うんだけどなー」
傍聴席からカルマローネが躍り出て、ハーディンの肩に手を置く。また、『王の懐刃』と呼ばれる護王十騎士の1人、デルアギルが腕を抑える。
「貴様らにはわからんだろうさ。無き者の苦しみはな」
「ロマンチストも大概にだね。後先考えて行動しようよ」
「痴れ者」
2人に抑えられ、ハーディンはこの法廷を後にする。
「這い上がれディード・オルネーソ!私の期待を裏切るな!」
その言葉を最後に法廷の扉は閉められた。
「さて、罪人よ。何か弁明はあるか? 天啓である以上、覆ることはないが形式上聞いておかねばなるまい」
「使えるものなら使ってみたい、ですかね」
その言葉にテルーの眼が大きく広がる。
「何らかの方法という論理が罷り通るのであれば、俺に魔力がなくとも魔道具を使用したとか屁理屈を何でも立てられるのですから、もう好きにしてください」
ただ、死刑だけは受け入れるつもりは無い。投獄は......無期なら御免だ。とにかく、極刑が告げられたら即控訴。恥を捨てて家と殿下に泣きつこう。少しぐらいは減刑されるはずだ。
「追放!国外追放! 罪人には無期の国外追放を言い渡す! 国王の命が降りぬ限り、この国の敷居を跨ぐことを許さぬ!」
顔を真っ赤にしてテルーは叫ぶ。
なんだ、それくらいか。よかった、極刑じゃなくて。
─バン!!!
傍聴席から叩きつけるような音が響いた。
「何か意見でもあるのか? ゼロラウス教授」
そこには壁に手を叩きつけたゼロラウスの姿があった。
「───いいえ」
悔しそうに唇を噛み締める彼女の顔を見ると、急激に申し訳なさが込み上げてくる。
「ごめんなさい、ディード君......」
蚊の鳴くような声でそう呟きながら、彼女は下を向き、手で顔を覆った。
「これにて閉廷である! 刑については閉廷後、速やかに執行する」
さよならを告げる間もなく、この国とお別れか
まあ、運については最初から最底辺だ
今さらこんな事で動じることはない
俺はただ進み続けるだけだ
どんな事があろうとも、な
とりあえず、明日からは何処で過ごそうかな?
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