第22話
「皆、逝ったか......」
戦いの最中、サルトオグは亜人の戦士たちが全滅したことを察した。
「同志らよ、マルネイトの栄光有る限り、その勇姿は語り継がれるであろう!」
サルトオグは轟々と叫び、また胸を打ち鳴らす。
「《
それと同時にバッシュが土の壁を展開し、衝撃波を防ぐ。
「やることが単調なんだよ!ゴリラ野郎!」
「ぬぅ!」
自身の得意技が防がれた事が気に障ったのか、サルトオグはその壁を力任せに破壊する。
「《
リーズゲートはその隙を許さない。無数の斬撃が真空刃となり、サルトオグの身を削る。
「ぐぅわ!」
呻き声を挙げて膝を着くサルトオグ。その傷は決して浅くない。
「やるじゃねーか!リーズゲート!」
「おぉ、バッシュ君にそう言われると俄然やる気が出てくるねぇ......」
クツクツと笑うリーズゲート。先程とは打って変わって、その動きはそよ風より軽く、突風のように速い。
「ぐぬぬうぉお! 萎びた蝋燭ごときが!その風前の灯火、我の手で消し飛ばしてやる!」
「その前に君は細切れの丸焦げになるだろうねぇ」
拳と剣がぶつかり合い、火花を散らす。時折、他の兵から魔法の支援が入るがサルトオグは全て弾き飛ばしている。
「ウボォ!」
サルトオグが雷を纏った回し蹴りを放つ。それに伴い、辺りに少数の電撃が迸る。
「《
刃筋と攻撃を合わせ、上空へと受け流す。
「何なのだ!その面妖な剣技は!!!」
思い通りに攻撃が通らぬことにサルトオグは苛立ちを隠せない。そのため、元々大振りであった攻撃がさらに大きくなる。
「我が家に伝わってたちょいとした秘剣でねぇ。使ってる俺が言うのもなんだが中々癖のある剣だと思うよぉ」
対するリーズゲートの攻撃はさらに細かく刻まれていき、徐々に戦況は明らかとなっていった。そして、決着の時は刻々と迫る。
「ふっ、命を削りながらなお我に立ち向かうとは敵ながらにして賞賛せざるを得ないな。妖精憑の剣士よ」
「いや、別に命を賭してまではいないけどねぇ。ただ、魔力の消耗が尋常じゃないだけのこと。あぁ、君たち亜人には過ぎた技術か」
「敬意を表して、我はこの必殺の右手で貴様を葬るとしよう!」
サルトオグの右腕が一際強く光り、無数の稲光が周囲を走る。
「これで終わりだ!!」
突進するサルトオグにリーズゲートも対抗して、地を蹴る。
「リーズゲート!後ろ!」
バッシュが叫ぶ。リーズゲートの背後で頭部の無い死体がまさにその武器を振り下ろさんとしていた。
「分かってるよ。バッシュ君」
《
迫り来る死体を吹き飛ばし、踊るようにサルトオグに太刀筋を向ける。
「こちとら
「ほぉ、では彼処のことも想定内と?」
サルトオグが目配せする先には、今にもバッシュの首を撥ねようとする死体があった。
「な!」
声、否、間に合わない。
リーズゲートは剣を投げる。そして、その剣はバッシュの背後にいた死体を吹き飛ばした。
「え?」
驚愕するバッシュ。苦笑するリーズゲート。満足気なサルトオグ。
「我の勝ちだな」
無慈悲に振り下ろされる拳。それはいとも容易く、標的の腹部を貫いた。
「ゲボッ......」
一瞬の間を置いて、リーズゲートは口から血の塊を吐き出した。
「リーズゲートォォォォ!!!!」
「ブ、グワハハハハ!!!!くだらぬ情に揺らぎおるからこのように情けない死に方をするのだ!!! 」
心の底から高らかに笑うサルトオグ。
「呪うがいい!このように惨めな生涯を終える自らの人生を!」
「ハァッ、い、いや、俺ぁ、幸せ、だ」
「ふん!強がりか?今にも死にそうな顔でよく言いおるわ!!」
サルトオグはトドメだと云わんばかりに左手を振りかざす。
「止めろゴリラ野郎ッッ!!!『
バッシュは泣き叫びながら魔法を唱える。それは不意打ちに気付かぬ自身の情けなさとそれ故に負けるリーズゲートへの申し訳なさと、それと───
「フッ、所詮、童のままごと遊びよ」
サルトオグは左手で軽くそれを砕く。
「お前の次はあの童だ。我も残虐ではない。奴は苦しめずに一撃で葬ってやろう」
サルトオグが右手を引き抜こうとするが、リーズゲートにその手を抑えられる。
「俺ぁ、あの子のために、死ねるんだ。それで、ようやく、赦せる」
『
「き、き、貴様ァァァ!!!まだッッ─」
2人の影が竜巻の中に消える。
「グワァァァァァァ!!!!」
サルトオグの絶叫だけが鮮明に響く。しかし、それはあの嵐の内側がどれほど壮絶なものかを明確にしている。
風の檻は数十秒で晴れた。中からは2つのボロ切れのようなものが転がり出した。
「うおおおおお!!!!」
言葉にならないほどの感情。だが、本能はバッシュの身体を動かした。
「俺が!俺の!俺のせいで! お前が!」
バッシュは血みどろのリーズゲートを抱き抱える。その顔は涙でぐしゃぐしゃに崩れている。
「......いいんだ......これで......君が......ために......」
リーズゲートはうわ言のようにそう呟くと、静かに瞳を閉じた。
「ゥグゥオオオオ!!!我が!!!マルネイトの重器であるこの我が!!低俗な人間ごときに!!ありえぬ!!!ありえ───」
鋭い土の刃がサルトオグの首を刎ねる。
「もう黙れよ......汚らしい獣が」
今まで軽く遇っていた土魔法が、彼を致命へと至らしたのだった。
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