第14話

「なるほど。それでが起こしたと」


「はい。それにしてもディード公爵が純魔法についてご存知だったとは驚きです」


「まぁ、こんな身ですから」


 本当はゲームの知識なんですけどね


「あ......すみません」


「ゼロラウス、そこで謝ると余計に気まずくなるだろう。そういう時は笑い飛ばすんだ。こういう風にな。あっはっは!」


 あぁ、殿下。全く貴方は愉快な人だ。きっとこれからも貴方の心情は掴めそうにない。


「それにしても、ディード君。なぜ君はハーディンの近くで倒れていたんだい? 打ちのめされたと言っていたが、稽古でもつけてもらっていたのか?」


「それは私も気になります。ディード公爵、なぜあの場に倒れ込んでいたのですか?」


「あれ?」


 その事すら知らずに、俺は殿下の部屋まで運び込まれてるのかよ!


 俺は殿下とゼロラウスさんにハーディンと何があったのかを説明した。


「ふぅん。やっぱり君が殺ったんじゃないのか?」


「ですから!私は、魔法が、使えません!」


「おほん。その件についてはハーディンが快復次第、会議を開いて詰問します。場合によっては弾劾裁判を行います。その際は、ディード公爵も証人として招集しますので承知しておいてください」


「は、はい」


 な、何だか大層なことに......


「護王十騎士という名誉を濫用して、騎士たちに命令するなど言語道断。ましてや、幼い公爵にまで暴力を振るうとは許し難い行為です」


「ま、何より彼が生きてたらの話だが」


「はぁ、全く殿下はすぐに人を殺したがられる......」


「君が治癒魔法を使わないからね」


「以前もお教えした通り、あれはです。あれを使うことは結局、対象の命を縮めていることに相違ないのですから」


 治癒魔法は未だ至らず、か。......そうだ。あれはによってノーリスクになるんだった。現時点では、に過ぎない。それに細胞の暴走という危険もある。ならば、人道的に考えて行使するべきではない。


「......殿下、失礼ながら



 


 そんな記述を見た記憶がおぼろげに浮かぶ。そうだ、。だから、呼吸をするように魔法を使う。だって、精霊にそれなりに愛されていたからこそ、あの齢でそこそこの魔法が使えた。


 そう、精霊と魔法の関係は切っても切れない。


 切ってはいけない


 だが、欲深い人間は自然の摂理を捻じ曲げてでも、それらを造り上げた。


 精霊を一切介さぬ人工魔法


『無郷篇』


 その禁忌はやがての手によって表世界に平然と現れる。まるで初めから


「........か?」


。そして、たる所以です」


 あぁ


 そうか


 これは俺が進んで行かずとも



 お前が歩めたはずの道だ。


 憎悪と悲哀に染まった闇ではなく


 希望と愛に満ちた光の世界


「──それは、何とも頼もしいな」


 この微笑みはお前のものだ


 お前に向けられていたんだよ


 なのに


 何故


 お前は苦しんだ?


 何がお前を歪めてしまったんだ?


「ぅぁ」


 明滅する夢の記憶


 回帰する決意


 約束


 微睡みの涎とするな



「どうした? ディード君?」


 これはお前の人生だ


 何となしに憑依した俺の娯楽の為に消化していいはずがない


 お前の苦痛を知らずして


 鬣犬の如く、その恩恵を貪ってはならない


 未だにお前の魂がに在るならば


 よく聞け、ディード・オルネーソ


 お前が求めて手を伸ばすのなら


 俺は決して離しはしない


 魔法も


 強さも


 愛情も


 この世界さえも


 何もかもがお前の為に在るのだと


「オルネーソの紅炎に誓って」


 必ず証明して見せる


「......その言葉、嘘でないことを切に願うよ」


 殿下が何かを呟いていたように思えたが、よく聞こえなかった。


「殿下、そろそろお時間かと」


 ゼロラウスさんが殿下に何かを促す。


「そうか。もうそんな時間か。名残惜しいが向かうとしよう」


 殿下は立ち上がり、踵を返す。


「僕は公務へ向かうけれど、君は好きなだけここで休むといい」


「それでは失礼します。ディード公爵」


 2人は出ていってしまった。


 俺も身体は動くので、2人が居なくなったであろう時間まで部屋で待機し、時機を見計らって兵舎へと向かう。


「デッドォー、無事だったかあ!」


「バッシュ、心配してくれてたのか」


 俺の姿を見るやいなや、バッシュが飛びついてきた。


「当たり前だろぉ!俺たち仲間なんだからよ!」


 その純粋な好意から来る言葉に思わず頬が緩む。


「災難だったなぁ。ハーディン様を狙う賊との抗争に巻き込まれるなんてよ 」


 なるほど。騎士庁ではそのように解釈されているのか。


「あぁ、そうみたいだな。でも、その時の記憶は何故かないんだ」


 とりあえずそれっぽく誤魔化してみる。


「仕方ねぇよ。相手は何たって手練の魔導師だろ? 生きてただけでも超幸運だぜ」


 よしよし。この話は何とかなりそうだ。


「それよりも今日の訓練はどうなったんだ?」


「通常通りだぜ。今は休憩中だ。後15分位でまた始まるぞ 」


「そっか。俺はとりあえず教官のところへ行ってくるよ」


「気をつけろよ!今日の教官は厳しいぜ!」


 バッシュは手を振って見送ってくれる。


 俺も手を振り返して、教官の元へ向かう。


 そう、当時の俺はこの問題を軽々しく扱い過ぎてた。


 まさか、この問題が俺の人生を大きく左右する事態へと発展するとは微塵も思わなかったんだ。

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