第13話
目を覚ますと、そこは白い天蓋だった。
「あれ? ここは?」
「お目覚めかい? ディード君」
この声は!
「殿下!コール殿下!何故、此処に!?」
「何でって、それはここが僕の部屋だろうからねぇ」
「え?」
分からない。どうして俺は殿下の部屋に居るんだ? それに殿下はどうして俺の隣で一緒に寝てるんだ!
「友人が床を同するのは当然だろう? それよりも昨日のこと、何にも覚えていないのかい?」
「昨日のこと?....あ」
そうだ。俺は昨日、教官に呼び出されたと思ったら、ハーディンが居て、教官を助けようとしたら、あいつにボコられたんだ。
「事情はマーモン教官から大体聞いたよ。事の責任はハーディンにある。だが、君も君だ。いくら気に障ったからといって、何も殺すことないだろうに」
殿下がいきなり爆弾発言を投下する。冗談にしても笑えない。
「え?いやいやいや? 私にそんな事できる訳ありませんよ。現に打ちのめされて気を失ってしまったのですから」
「ふぅん。あくまで君はシラを切るつもりか? ハーディンは焼き殺されていた。現場には君と教官のみ。もはや、語る余地もないと思うけどねぇ」
「そ、そんな!?」
知らない!! 俺は何も知らないぞ!! 殿下だって知っているじゃないか! 俺は魔法が使えない!
「殿下、お忘れですか? 私は魔法が使えぬ無能ですよ?」
「もし、それが嘘だとしたら?」
殿下は悪戯気に笑う。
あぁ、分かった。この人、俺をおちょくって楽しんでるな?
「おほん。殿下、お戯れはその辺りでお開きにしましょう」
「んん? 降参かい? 今自白すれば僕の特権で赦してあげるよ。もちろん、僕の騎士になるという条件付きでね」
「ディード公爵の言う通りですよ、殿下」
凛とした冷たい声が俺たちの会話に割り込む。
「ゼロラウス、入室の許可はしていないが」
「殿下がいつまで経っても返事をしないので勝手に入室させていただきました」
ゼロラウス・クルナード。齢26という若さで『賢者』の称号を賜った天才。彼女は決して高貴な家系の者ではなかった。だが、世界に散らばる大精霊たちと交友を築いたことによってその大いなる力を手に入れた。
ゲーム本編では学園の教諭を務め、主人公の保護者かつ師匠的ポジションとなる。現在はその前身として殿下の教育係を担っているのだろう。
「安心してください、ディード公爵。先程、殿下が仰られたことは全て嘘です。ハーディンは生きていますし、マーモンは何も存じていません」
ホッ と安心したいが、こちらも状況が飲み込めていないんだが。
「しかし、ハーディンの状態は未だ重篤です。全身の火傷に留まらず、内臓にまで火が通っていましたからね。彼が並の人間でないからこそ、今も生きているといっても過言ではないでしょう」
「先程も言いましたが、私は何も知りませんよ」
「えぇ、そうでしょうね。彼が身に付けていた耐魔法紋章は反応していませんでした。つまり、彼を包み込んでいた炎は人間の魔法によるものでは無い。おそらく外部の者による犯行です。騎士庁、魔導庁が今も総出で捜査していますが一向に痕跡が見つかりません」
俺が気絶した後にとんでもない事が起こってたみたいだな。とりあえず、疑われていないようで良かった。
「それで、なぜ私は殿下の部屋に?」
「炎に悶えるハーディンの近くで君が倒れていると聞いてね。僕はとーっても心配したんだよ。心配し過ぎて自室まで運んで看病していたわけさ」
「そ、そんな恐れ多い......」
「へぇ、殿下は『都合がいいから、このままお泊まり会にしよう』と仰られていましたけれども、ディード公爵のことが心配でたまらなかったのですね」
えぇ......。なんじゃそりゃ。この人が考えてることが全く分からん......。
「はぁ、本当にゼロラウスは余計な一言が多いな。ほら見ろ、ディード君も困惑しているじゃないか!」
「それは、殿下の言動に、だと思いますが」
噛み合わないなこの2人。いや、ある意味噛み合ってるか。
「あの、昨日起きた出来事を最初から全部教えて貰えませんか?」
「あ、そうでした。貴方は起きたばかりで状況が飲み込めていないのでしょうね」
「御託はいい。さっさと、彼に説明したまえ」
険悪!
「昨夜、王宮にまで響く叫び声が第一訓練所から発せられました。いち早く現場に到達した騎士たちはその惨状を見て、消火活動に勤しみましたが手に負えず、魔導庁に応援を呼びかけました。私たちが現場に到着した時には既に鎮火していましたが、その消え方が不自然だったと聞いています。まるで、炎が自ずから消えたと」
「『
「ほぅ! よくご存知で」
ゼロラウスは目を丸くして驚嘆した。
「なんだい?
殿下は自分だけ会話に置いていかれていると思っているようで少し不機嫌だ。
「魔法が精霊との協力によって行使されることは以前お教えしましたね。純魔法とはその力関係を限りなく0:10に近くするものです。人の介入を最小限に抑えることによって、純粋な精霊の力を引き出す高等技術のなのですよ」
「それと、ハーディンの事件と何の関係があるんだ?」
「純魔法は魔法の大部分を精霊に委ねます。それ故に安定せず、途中で勝手に魔法が中断されることが多々あります。ですから、純魔法を使うにはある特定の精霊との信頼関係を築く必要があるのです。それ以前に、精霊を
目視しないと行けないという前提があります。そして、この国でその純魔法を行使できる者は全て私の顔見知りです。その中に炎の精霊を扱う者はいません」
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