第7話
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夏の暑さも少し和らいだ頃、俺の元にひとつの手紙が届いた。
「へぇー、皇子の誕生日パーティーね」
俺の手元を珍しそうに覗き込むハルネ。
「ついにディードも外に出るのかぁ」
「遅いぐらいだがな」
10歳で社交界デビュー。貴族としては平均的だが公爵家としては遅めだ。その意味は俺が無能であったことを世に示す。
「あのお嬢様と出るの?」
「あの子からしたら罰ゲームに他ならないな。気の毒なことだけど」
「他人事みたいに言って、冷たい男。代わりにあたしが出てあげようかしら」
「それこそ面目丸潰れだろ」
「ディードの代わりによ。あたしは魔法なんておちゃのこさいさいだから」
「俺はお前が魔法を使ったところなんてみたことないが?」
実際に俺は彼女が魔法を使ったところをみたことない。サマーナに聞くと一応彼女の前では使ったことがあるらしい。
「能ある鷹はなんとやら、よ」
「サマーナ、今日の予定は?」
自慢気に胸を張るハルネを無視して、俺はサマーナに話しかける。
「12:00に昼食、14:00~16:00に勉強、18:00に夕食です」
「ありがとう。じゃあ、とりあえず昼食まで外で鍛えてくる」
「かしこまりました。お時間になりましたら、お呼びいたします」
「よろしく」
駆け足で部屋を出るディードを追うようにハルネも後をついていく。サマーナは一礼して、部屋に残っていた。
「楽しそうですね」
なぜ?どうして?お前なんかが─
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「ねぇ、なんで王族の交配が事前に公表されるか知ってる?」
パーティーに向かう途中、ハルネが唐突に頬杖を付きながら聞いてくる。そう、この世界は王族の密月の時間が事前に公にされるのだ。
「交配って...。もっと言い方あるだろ。理由はあれだろ。王族の子供と他の子供の誕生日が被ったら駄目だからだ」
「なんで、駄目なの?」
「そりゃ、王族を誕生を祝う日に他の人を祝ったら無礼千万だからに決まってるからだろ。己の誕生日を祝われない可哀想な子供を作らないために代々の王様が恥を捨てて公表してるんだ」
「へぇー」
「へぇーって。これ常識だぞ?」
「知ってた」
「なら、聞くな」
あーだこーだ話している内に、馬車は王宮へと入っていった。
「目が痛くなるわねー」
王宮の装飾の煌めきが眩しいのか、ハルネは目を覆っている。
「おい、公衆の面前なんだからせめて従者らしくしてくれ!お前が来たいって言ったんだからな!」
俺は小声で叱りつける。最初はサマーナだけ連れていこうと思った。理由は単純、ハルネはもう従者とはいえない生活をしているからだ。そのように告げるとハルネは「行きたい行きたい行きたい!」と駄々をこねた。なら、ちゃんと従者らしく振る舞うことを条件に連れていくと言ったら快く了承した。
だが、幸先でこれなら不安が募るばかりだ。
「あれが噂のディード・オルネーソか」「魔法が使えない"失敗作"」「忌み子め」「でかいな」「でかすぎだろ...」「あいつ、年齢誤魔化してるだろ」「実は13歳くらいじゃない?」「巨人がきたな」「でけぇ」
俺が馬車から降りると、周りにいた貴族たちが口々に囁きだす。
「ディード様」
「フォールテ嬢、お久しぶりです。お元気でしたか?」
「ええ。ディード様もまた一回り大きくなられましたね」
フォールテ嬢とは婚約会合以来、顔を合わせていない。その必要がないと互いに思ってたからだ。
「その身体なら見栄えだけは取り繕えそうです」
ゲーム本編では聞いたことのない毒吐き。彼女からこんなセリフが出るんだなと思いつつ、会場までエスコートした。
「今日は僕のために集まってくれてありがとう」
コール・ロード・ケーニフ。この国の第一皇子で今年10歳だ。この場では6~10歳の子息令嬢が集められている。皇子が一通り、挨拶を終えると、次は貴族たちが挨拶に回る。もちろん、共に公爵家である俺たちが最初だ。
「「殿下、お祝い申し上げます。此度の生誕祭、出席させていただきましたこと誠に光栄でございます」」
「やあ、フォールテ。今年も来てくれてありがとう。それに、そちらはディード・オルネーソ君かな。初めまして、だね」
「は、お初めにかかります。此度、ようやく殿下のご生誕をお祝いすることが叶いまして感激の極みでございます」
「君は色々と大変みたいだけど、挫けず頑張ってね」
「は、精進いたします」
うーん、この聖人っぷり。ゲーム本編でも平民出身とされていた主人公に忌憚なく接していたし、もはや根っからこの性格なんだろうな。性能は、うん。主人公がね...
「それにしても大きいね。君、本当に10歳?」
「日々、鍛えておりますので」
「いやいや、鍛えただけでこんなになるの?」
「はい」
「凄いね。今度、護王十騎士と一緒に訓練でもしてみる?」
護王十騎士。王を護る最強の騎士たち。彼らは魔法を使わない。王を護るのは魔法では不安定だからだ。魔法を使えなくすることは案外容易い。精霊を寄せ付けなくすればいいだけ。例えば、暗殺者が精霊が嫌いな蛇麻樹の実を磨り潰して身体に塗りたくれば周囲500mは魔法が使えない状態にできる。そうすれば王を暗殺することは簡単だ。
しかし、それを許さぬのが護王十騎士。たとえ、魔法が使えなくとも己の肉体のみで王を守り抜く。彼らが創設されてから、一度もその守りが崩されたことはない。護王十騎士筆頭は国の最高魔導師である宰相と同等の実力であると言われる。らしい。ゲームでは戦ってるところみたことないからな。
「ぜひ」
「また、招待するよ」
「では、私たちはこれにて」
フォールテが袖をくいくいっと引っ張る。どうやら、俺と殿下が喋り過ぎて後ろがつっかえてるらしい。
「失礼します」
「じゃあ、また今度ね」
コール殿下が手を振ってくる。俺も振り返したいがそんなことしたら彼女に何を言われるのか分からないので我慢した。
「本当はすぐにでも離れたいのですが、それもまた情けない話ですので少しだけ会場を回りましょう」
フォールテは投げ棄てるように俺に話した。
「わかったよ」
それよりも俺は壁際で待機してる従者たちの中で一人ソワソワしてるハルネの存在が気になってしょうがなかった。
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