第5話
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「はっ!はっ!」
俺がディードになってから2年ほど経った。人間関係の進展は驚くほどないが、俺の肉体はどんどん強くなっていった。
「『隼脚』からの『連激』、『隼脚』からの『連激』」
この2年で覚えた特技は瞬発的に移動を行う『隼脚』、顔や腹などに目にも留まらぬ早さでパンチを繰り出す『連激』、そして
「大きな隙が出来たら『双乱斬』」
手に一刀、繰り出すは二刃の様。狂ったように剣を振るう『双乱斬』。本編でも使われた技だ。魔法縛りをすると、この技にかなり苦しめられる。ただ、通常プレイだと味方にバフ掛けながらディードにデバフ掛けて遠くから攻撃すればいいのでただの的だ。
「デバフを掛けられてもいいように、もっと速くならないと」
ディードはボス敵なのにも関わらず、デバフが効く。それもそのはず、彼の魔法能力は皆無なのでもちろん耐性なんてない。魔法が基本ウェポンとなる『グレイロード』で肉弾戦を主としている敵は魔族を除いてディードだけだ。
「もっと速く、もっと強く!」
今日もトレーニングで一日を費やす。この位の歳になると家庭教師がついて、勉強が始まるのだが大抵は魔法学についてなので週一回の歴史学のときだけ勉強している。算術はまあなんとかなるだろ。多分。
「ディード様」
サマーナは2年でさらに大人びた。まだ10代であるのにもはや20後半の艶かしさが出ている。未だに彼女の本音を俺は問いつめてはいない。時期ではないからだ。もう少し、俺が大きくなってからでないとまともに取り合ってはくれないだろう。
「お昼にしませんか?」
「いや、もう少しだけ運動させてくれ」
「かしこまりました」
サマーナはニコニコと笑いながら屋敷へと帰っていく。その張り付けたような笑みに俺はいつも胸が重くなる。とにかく早く学園に行ける年齢になれー。
「今日も頑張ってるわね。いい加減、飽きてこないの?」
ハルネが近くの木陰で欠伸をしながら寝転がっていた。
「俺にはこれしかないから」
「そう」
ハルネはゴロンと寝返りを打つ。
「思ったんだが、最近、お前の態度が悪いような気がする」
「どういうこと?」
「俺のことを主人扱いしてないだろ。今の態度とか従者が取っていいものじゃないぞ」
「ま、いいじゃないの。今さらじゃない」
ハルネの姿はまったく変わらない。驚くほど出会ったときのままだ。ただ、俺に対する態度は一番変化した。タメ口になったし、俺への奉仕をすることは極端に減ったし、タメ口になった。大事なことなので2回言った。もはや、従者というより友人と言った方が近い。
「いいけどさ」
友人がいない俺にとって、それが嬉しかった。従者として距離を置かれるよりもこうして互いに気の置けない空間を作り出してくれる方が心地よい。
「で、剣を振ってたら精霊さまと会話できるの?」
「精霊とこれとはまた別だよ。精霊の方も色々と調べているけどいまいち情報がないからどうにも、ね」
「ふーん」
精霊に関する書籍は王宮にある地下の書庫にしかない。また、その書籍は王親第二位官以上しか閲覧できない。俺がその書籍を読むには宰相になるか、聖光教の枢機卿になるか、護王十騎士筆頭になるしかない。ちなみに第一位官は王弟や皇太子の二名だ。つまり、精霊に関することは王を含めて6人にしか詳しく知ることができない。
俺はゲームの知識でしか精霊のことを知らないので、その精霊たちがどんな性格であり、姿であるのかしか分からない。なぜ、ディードが魔法が使えないのかは開発者のみぞ知る。
「ディードはさ、どの精霊と話してみたいの?」
「まずは炎の大精霊かな」
大精霊。いくつにも散らばる
「会って何を話すの?」
「まずは挨拶。そして、お茶会でも開こうか」
「お茶会?」
「炎の大精霊であるハーバラ・オネルは甘い菓子が好きらしいからな。ご機嫌取りだ」
「あっはは!いいじゃない!それなら魔法も使わせてくれるんじゃないの?」
「そうだな、そうかもしれない。でも、それよりももっと重要なことがある」
「え?」
「なぜ俺が魔法を使えないのか。これを知らない限り、俺は魔法が使えるようになったとしても俺は使う気にならない」
お前だってそうだろ?ディード。
「どんな理不尽な理由だとしてもいい。下らない、笑えるような話だとしても俺は聞いて納得したい」
「本気なのね」
「もちろんだ」
「じゃあ、頑張ってね。あたしは応援してるから」
「ああ、ありがとう」
「ディード様、お昼にしませんか?」
サマーナが再び声をかけてきた。
「そうだな。昼食にしよう」
「かしこまりました。ご用意致します」
「あたしも一緒に食べる」
「ハルネさんは自分で用意してください」
「ぶー」
一歩ずつだ。焦る必要はない。一歩ずつ、確実に為すべきをことを為せばいいんだ。
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