第2話 

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「うーん」


 自分の唸り声で目を覚ます。


「あ、やっと目が覚めましたか?」


 横に目をやると、そこには俺の奇行を止めていた少女がいた。


「君は?」


「私のこと、覚えて下さっていないんですか。ま、貴方様のことですから驚きませんけどね。改めて、ハルネ・オラノと申します。一応、貴方様の専属従者です」


 少女ことハルネは面倒くさそうに自己紹介をした。


「俺の専属従者?」


 ディードの専属従者はそんな名前の女性ではなかったはずだ。ディードの専属従者は確か、


「サマーナ、サマーナ・ウラネは?」


 サマーナ・ウラネ。ディード・オルネーソに付いていた従者。ディードの後ろでいつも押し黙って命令を聞いていたメイド。その強さは主であるディードを凌ぎ、数々のプレイヤーたちに"サマーナが本体"とまで言わしめた。中盤でディードから寝返り、主人公たちの仲間になる。


「あの子の方は覚えているんですね」


 ハルネは不満そうに頬を膨らましながら、部屋の入口を指差した。


「ディード様、お身体は大丈夫ですか?」


 どうやらサマーナは俺が一番最初に出会ったあの端麗な女性だったらしい。ゲームと現実ではやはり顔が少し違っていて気づかなかった。


 彼女は淡々として俺の身体を気遣った。多分、本心ではないだろう。


「いいですか、ディード様。貴方が傷つけば従者である私達が責任を負うんです。こんないたいけな少女二人を路頭に彷徨わすつもりですか?」


「申し訳ないです」


「分かりましたか?もう二度とあんなことしないでくださいね!それと、今回の件は貴方のお父上たちには報告しません!私達だけの秘密です!いいですか!?」


「はい」


「サマーナもそれでいい?」


「ハルネさんが言うなら」


 その勢いに気圧されてしまった。このハルネって子、従者であるはずなのになんて迫力なんだ!


「それにしても、今日のディード様はなんだか聞き分けがいいですね」


サマーナがポツリとこぼす。


「あれだけ派手なことやらかしたんだから、これくらい大人しくしてもらわないと」


ハルネはフン、と鼻息を荒げる。


「普段もこれくらい大人しいと、可愛げがあるというものですのにね」


 サマーナは微笑んで俺の頭を撫でてくる。


「うわわ!」


 俺は恥ずかしさのあまりに手を振り払った。止めてくれ、これでも俺は30代だぞ!


「ほら、いつも通りのディード様じゃない」


それみたことかと、ハルネは鼻を鳴らす。


「あらら、やっぱり変ね。いつもならもっと甘えてくるのに」


「え"っ!?」


 驚愕の声は俺のではなく、ハルネ。もちろん、俺も驚いたが。


「あ、そうか。ハルネさんがいるから恥ずかしいのね。いつもは二人のときだから」


「あ、あたしの時は「止めろ」って振り払ってくるのに...」


「さぁ?なんででしょうね?ディード様?」


 サマーナは意地悪げに俺を見つめる。


「えっーと、ハルネ、さんは、その、まだ小さいから、かな?」


「あのねぇ!こう見えても!あたしは、サマーナよりも2歳、ディード様より10歳上なの!」


「え"っ!?」


 今度は間違いなく俺の声。てっきり、9歳ぐらいかと思った。てか、今の俺って幾つだ?


「あの、今って何年ですか?」


 ゲーム本編開始時は典歴1777年でディードは主人公と同じ15歳。そこから逆算して年齢を割り出す。


「今は典歴1766年ですが?どうされました?」


 本編開始時より11年前。ということは俺は4歳?あれ~?思ったよりもすげえガキだったぞ~?


「ディード様?」


 えぇ~?これで12歳?大人び過ぎだろ...!てっきり、10代後半から20代かと思ったわ!


「寝る」


 もう訳が分からん。こういうときはひとまず眠るに限る。うん、とりあえず後は未来の俺がなんとかしてくれるはずだ。


「かしこまりました。お休みなさい、ディード様」


 俺が布団を被ると二人は談笑しながら部屋から出ていった。



 ゲームの知識を使って過ごそうという思案はハルネの存在によって懐疑的になった。目覚めて早々のイレギュラーが、これは現実であると、より訴えかけてくる。これが『グレイロード』の世界だとして、本当にゲーム通りの設定で、そのシナリオ通りに進んでいくのか?ただ、『グレイロード』を基盤としているだけで全く違う物語が展開されていくのか?それは本編が開始されるまで分からない。


 それまでに解ることははっきりとさせなければならない。ディードが覚える魔法、適性、能力。潜れるダンジョンとその宝物。魔族の覚醒とラスボスの存在。そして、主人公たちの動向。


 あとは、


 とりあえず、俺はこの世界を知らなければならない。もし、この世界がゲームの本編通りならディードはとんでもなく不幸な死を遂げる。


 死因は、ラスボスに利用されたあげく魔力が暴走して怪物と化して主人公たちに殺られるという悪役のテンプレのような死に様だ。


 嫌だ。そんな死に方はしたくない。ディードと言えども腐っても公爵家の人間だ。選択肢さえ間違えなければもっと幸せに生きられるはずだ!


 悪いが俺は本編通りに生きていくつもりはない。パラドックスやらなんやらが起きようとも俺は幸せになってみせるぞ!






 

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