妖精インタビュアー
相内充希
妖精インタビュアー
さあ、これからインタビューを始めるよ。
えっ、僕が誰かって?
なんのことはない、ただの妖精さ。
あまり人には見えないようだけど、世界の楽しいや嬉しい、そんなキラキラしたものが大好物の、どこにでもいるただの妖精。それが僕。
僕は今、インターネットという世界によく入り込んでいる。ここ二十年くらいで一気に広がった世界だ。その中にある楽しいや嬉しいをつまみ食いするのが、最近のお気に入り。
仲間にもそんな奴が増えてきてね、ちょっと人間ぽい遊びをしてみようってことになったんだよ。
ふふ、それがね、人間にインタビュー!
人に見えないのに、どうやってインタビューするのかって?
ぼくたち一つ一つの力は小さいけれど、力を合わせれば人のふりだってできるのさ。ある時はミニスカートが似合う女子高生、ある時は上品な白いひげの老紳士。
そうやって
ああ、昨日君の家の近所も通ったかもね?
そんな感じで今日の見た目はスーツの似合うインタビュアーさ。
前置きはもういいだろう。さっそく、インタビューに行ってくるよ。ただし、今日はインターネットを通して夢の世界へ出張だ。
なぜって? 君、質問が多いね。そういう人間好きだよ、うん。
理由は、相手が「Web小説の書き手」だからだよ。しかもくじ引きで選んだから、カクヨムというサイトの隅っこにいるということ以外どんな人かもわからない。
でもそれってなんだかワクワクするだろう?
両掌をポンと合わせて開くと、僕の手の上に相手の簡単なプロフィールが現れる。
えっと、名前は相内充希さんね。
ネットの海の片隅で、こじんまりと物語を綴っている書き手さんか。
じゃあ行ってくるよ。
-・~☆~・-
――こんばんは。今日はよろしくお願いします。
(相内氏、突然現れた男に目をぱちくりさせている。寝ぼけているようだ。まだ寝入りばなだったかな? かなり深夜なのに夜更かしだねぇ)
――今日インタビューさせていただく、こういうものです。
(スマートに「インタビュアー・多田野洋正」と書かれた名刺を差し出す僕。相内氏、戸惑いながらも受けとる)
「ただの、ひろまさ、さん?」
(ちがうけど、今日はそれでいいのだ)
――はい。多田野です。相内充希さん、今日はよろしくお願いします。
(相内氏、不思議そうにしながらも、促されるまま椅子に腰かける。夢の世界だから、けっこう豪華なソファーセットにしてみたよ。僕ってば気が利くから、美味しい紅茶も用意したんだぜ)
――さて早速ですが、始めさせていただきます。まずはこの質問から。相内さんが、小説を書きはじめたきっかけはなんでしたか?
「きっかけ……は、中学一年生のとき部活の先輩がルーズリーフに小説を書いていて、それが面白いファンタジーだったんです。それに影響されて大学ノートに書き始めました」
――どんなお話だったか覚えてますか?
「はい。ファンタジーです。主人公は中学一年生の女の子・
――ほうほう、なるほど。それは最後まで書けたんですか?
「はい。ちゃんと最後まで書いてます」
(にっこり笑う相内氏)
――素晴らしい。ちなみに主人公は最後帰ってこられたのでしょうか。それとも異世界に行ったまま?
「おうちに帰るまでが
――(今ある相内氏の作品をさっと確認しつつ)なるほど。それは今でも変わらないようですね。今だと珍しい部類では。
「あー。そうかもしれません。でも私の根底にあるのが多分、子どもの頃見たドラえもんの映画なんですよ。他の世界や時代、宇宙なんかに行って不思議な体験をしても、最後は日常に戻るのが基本かなぁ、と。自分の作品では例外もありますけどね」
――ふむふむ。あ、一つ聞き忘れてました。ノートに書いていたその作品は誰かに読んでもらったりしましたか?
「学校の休み時間にも書いてたので、けっこうまわりの友達が読んでくれました。続きは? って聞いてれるのが嬉しくて、最後まで書けたんだと思います」
――読んでもらうことで、書くモチベーションをあげるタイプということでしょうか?
「そう思います。誰かが読んで楽しいと思ってくれるのは嬉しいですし、力になります。カクヨムですとコメントもレビューも嬉しいですけど、応援のハートもすっごく嬉しいですね。長編の一気読みをしてくれた形跡とか、楽しんでもらえたんだ、嬉しいって小躍りしてしまいます」
――なるほど。楽しいはいいですよね(僕らのご飯になるし♪)。応援してくれる見知らぬ誰かの存在は大きい、と。
「もちろんです。基本私の頭の中で生まれた物語は、私が書かなきゃ後で私が読めないから書いてる――って部分はあります。というか、多分それがメイン。でも私の楽しんでる物語を、私じゃない誰かが楽しんでくれたらより楽しい、みたいなところは大きいです。じゃなかったら、今もノートに書くか自分のパソコンのフォルダに入れるだけにしてます」
――ほお。ああでも、相内さん、書いてない期間も長いんですね。昔ホームページで書いて出してたのに、10年以上のブランクがある。この間はどうしてたんですか?
「小説ですか? 本を読むだけでしたよ。忙しいのもありましたけど、自分の中に生まれる物語がゼロだったので」
――ゼロ(少しブルッとする)。では、創作に戻ったきっかけなどあったのでしょうか。
「投稿サイトで小説を読むようになったからです」
(少し考え込む相内氏)
「えっと変な話、少し前まで、大人になったら趣味で小説は書かないものだと思ってたんです」
――おやまあ。どうしてですか?
「プロを目指す以外は、子どもの趣味かなと漠然と考えていたみたいで。私が小説を書くきっかけになった先輩が、高校で書くのをやめたのも頭の隅にあったのかな」
――それが変わったのはなぜ?
「たまたま当時読んでた作品の作家さんが子持ちの方で、目から鱗だったんです。他にもいろいろな作品を見たら圧倒的に大人がいる。それに気づいたら、堰を切ったように色々な物語で頭の中がうるさくなって。これは一通り吐き出したい!と、思い切って投稿サイトに登録しました」
――すぐに物語は書けましたか?
「本音を言えば物語を吐き出したいけど、書くのはめんどくさいと思いました」
(おいっ!と突っ込んでいいのか?)
「いやだって、新しい物語を1から書くんですよ? 文字にすると何万文字にもなるのは書く前から分かりますし。私は多分、頭の中の映像を具現化するツールがあったら読む専門になります」
(相内氏、うんうんと頷いていたが、ジト目になった僕に気づいたのか、コホンとわざとらしく咳払いをする)
「えっと、でも、個人の企画に合わせて書いてみたりするうちに、やっと感覚が戻ってきたと言いますか。書いたらちゃんと完結させてますし……」
(相内氏、そこで何か考え込む)
「やっぱり、それも、同じように書いている書き手さん達のおかげですよね。企画で読んでくれたり、感想を書いたり。困った時相談に乗ってもらったり、逆に相談に乗ったり。
仲間というにはおこがましいかもしれませんけど、同じ趣味の人と話せる環境って貴重だなって思います。刺激になるし、勉強になるし、すごく楽しい。
昔は、「あなたの作品を読んだんだから自分のも読め」って圧力もあって、それが苦しくて離れたってところもあるんです。だから投稿サイトが出来てもスルーしてた。でも今、少なくとも私の周りではそんなこともないから、その時その時の読みたいものを好きに選べるのも楽しいですね。
調べものが多くて本棚がカオスになってると、私は何を目指してるんだって笑っちゃうこともありますけど、好奇心旺盛でいられるのは楽しいですよ。
何事も、始めるのに遅いってことはないなって」
――そうですね。今より若い日はこの先来ないですからね。
「ですよね。思い立ったが吉日。興味を持ったらとりあえず挑戦でもいいんじゃないでしょうか。もちろん創作から離れてもよし。経験は財産になるから、色々なことを体験していいと思うんです」
――経験は財産ですか。
「創作する人って、多かれ少なかれそういうところあると思いますよ。大変なことや辛い状況の時、泣いたり嘆いたりするのに、どこか冷静な部分でその感情とかを忘れないようにメモを取っちゃうの。それを活かせるかどうかは別として……」
(起きる時間が近いのか、目がとろんとしてきた相内氏。そろそろ時間切れのようだ)
――では質問は以上です。今後も(僕たちのご飯のためにもぜひ!)楽しく書いたり読んだりしてくださいね。
-・~☆~・-
相内氏と別れ、僕も寝床に帰る。
待っていた仲間たちと魔法の箱を開けると、おいしそうなキラキラが増えていた。
負の感情は、僕ら妖精には毒だから気を付けなきゃいけないけれど、今日のは大丈夫そうだ。
さっそくそれをもとに妖精専用ホームページに入れて仲間たちに公開する。このホームページは見るだけで「おいしい」を妖精に与えてくれるんだよ。
ちょっと変わってるから、遠くにいる仲間にも仲間からも好評なメッセージが送られてくる。
ふふっ、僕って天才!
さて、次は誰の所にインタビューに行こうかな。
あ、そこの君、どう?
妖精インタビュアー 相内充希 @mituki_aiuchi
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