第6話 ちょっとsexually chargedのメイド
「ご主人様、今日は特別の趣向があります」
「スカートをめくってみてください」
「えっ?」
確かに、私服で酔ったまま寝込んでしまった佐渡渡さんのスカートの端をつまみあげたことはあったけれども。あれは研究の一環で、決して劣情がさせたのではないのだからね。
「早く! めくってみてください!」
少し頬を上気させた彼女に促されるまま、スカートの内側から出ている白いフリルをつまんでみることにした。佐渡渡さんの両目をじっと見守り、唐突にプロレス技をかけられたりしないか確かめる為にも、少し間をもたせてみる。そうしたら、ぷいっと視線を外された。
「早く、めくりあげてください!」
「ホントにいいのかい?」
「はいっ」
佐渡渡さんが身につけているのは、お店でも着用しているメイド服である。どこかの民族服に似たデザインで、胸の上の方が大きく開いている。
脚は黒いストッキングに包まれていて、きっと丈は太ももの半分くらい。
スカート丈は膝上10㎝ほどで、腰から大きく広がって、かなり深いひだが何本か入っていた。
「もう、じれったいですね!」
彼女は自分からスカートの前をぴろっとめくりあげた。純白の下着を見せつける気なのかとドキドキしていたら、紺色のダブダブしたパンツを着けている。ストッキングはガーターベルトで止められていて、そのダブダブしたパンツの下をくぐっている。こうしておかないとトイレで用を足す時に咄嗟に脱げないからである。腰には、スカートを膨らませる為の装具がついていた。
「これ、ブルマーか」
友よ、佐渡渡さんの名誉のために言っておくが、彼女がこんなにマニアックな趣味を見せたのは初めてだ。
俺たちの小学生から中学生、運のいい人で高校生くらいまでは、ブルーマー女史が改革したという動きやすい運動用の短ズボンを、たしかに女子はみな履かされていた。全校でそういう指定だったのだ。高校生ともなると、ジャージのズボンを上に履くようになるから、男子の心をイタズラにときめかせるような下半身を目にする機会は俄然減っていく。今ではボディラインが露わになることが全女子生徒の不評を買い、採用されなくなったことは周知の通りだ。
何が彼女をここまでさせたのか。ブルマーが見たい、なんて俺は一言も漏らした覚えはない。決して、見たくないわけではないものの。
「どうしたの? 佐渡渡さん」心配をにじませて聞いた。「ネットで間違った情報でも仕入れちゃった?」
「ご、ご主人様が、す、好き、なんじゃないか、と思って、注文して、みたのですが」
彼女は顔を完熟トマトみたいに染めて、耳からヤカンのような湯気が、ピーという音と共に出そうに見えた。アマゾネから届いた荷物ってこれだったんだね。
「違うみたいだった、ですね、着替えてきます(スタスタ)」
そう言って、さも残念そうに洗面所と風呂場の境にある、カーテンで仕切りができる脱衣所に引き下がろうとしている。
「待ちなさい! せっかくだから、もっとよく……その、見せてもらおうか」
「そ、そうですか」
友よ。なんだか、とてもおかしなことになってきた。
俺は今、最大級の恥辱に我慢しながらスカートをめくり上げている、住み込みメイドのブルマーをしげしげと眺めている!
「お、お尻を、見てください」
佐渡渡さんはくるっと背を向けた。
新品の生地であるからして、毛玉もなく、艶々と紺色の燐光をブルマーは発している。ゴムが強く締め付け、脚の付け根に食い込んでいる。しかし、小柄な佐渡渡さんにはサイズが大きかったようだ。本体はブカブカと浮き上がってしまっていた。
張りのあるお尻と、食い込みからハミ出た弾力の優れた臀部。下着のレース飾りが、チラチラと覗く。
あの夜、未遂に終わった、お尻タッチ事件が思い出された。せっかくなので、生地の具合を確かめてみるために、軽く撫でてみよう。
ナデナデ
「ひゃっ」
佐渡渡さんの口から可愛い声が漏れ出した。
友よ、これはちょっと楽しいぞ。
ナデナデ、ナデナデ
「ひゃっ、あぁっ」
こんな分厚い生地だから、上辺をちょっと撫でたくらいで、触覚が敏感に伝わるものでもなかろうに。佐渡渡さんの感度が雰囲気に負けて、とっても高ぶってしまったんだろうねぇ。
ナデナデ
「おさわりは禁止ですぅ」
とても小さい声で訴えられた。
「そんなこと言ったって、佐渡渡さん、もう出来上がってるでしょ?」
「ええっ?」
「して欲しいのかい? クンニ?」
彼女は脱兎のごとく、一目散にトイレに駆け込んだ。
どうしたことだろう!
思いっきり勇気を振り絞っている女の子に対して、ちょっとデリカシーの欠けた言葉だったみたいだ。反省している。
カチャリとトイレのノブが回ると、右手に握りしめられた脱ぎたての黒い塊がゆらゆらと震えながら現れた。
「もう二度とこんなもの履きません!」
ベシンッ
脱いだブルマーを思いっきり床にたたきつけて、佐渡渡さんは飛び出していった。玄関の扉がガチャンと静かに閉まる。
(濡れちゃったんだね)
友よ、俺は床上で無残を晒しているブルマーの股を確かめるような無粋な真似は決してしない。
佐渡渡さんは、きっと屈辱を感じてしまったんだろう。誰でもそういうことは起きるものである。だから、もっと素直になっていいんだよ。
メイドごっこもなかなか難しいね。なにせ、当人はおさわり風俗嬢のつもりなど微塵もなく、ただただ生真面目に黙々と理想のメイド像を演じ続けているのであるからして。
一体、どんな情報が、ブルマと佐渡渡さんとを結びつけてしまったのか。ひょっとして、彼女はそっち方面は疎いのやもしれない。
友よ、なにか初心者向けのハウツー本を知らないか?
「佐渡渡さん、そこにいるんでしょ。戻ってきなよ」
廊下を走り抜ける音がしないことから、想像で声をかけてみたところ――
「はい……」
肩を落とした住み込みメイドが、すごすごと引き上げてきた。
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