第16話
マップ上の転生者が一向に動かないので、隠れている建物の近くに住民が来ないか、それだけを注意した。
時間もあるし、この異世界の基本的な暮らしぶりを調べたい。
まあ、村と街では生活様式は違うとは思うけど、多少の違いは問題ない。
まずは箪笥の引き出しから調べる事にした。
ゴソゴソと箪笥の中を調べていると、男物と女物の服を見つけた。子供服はなかった。
服は年寄りっぽい服ばかりなので、おそらく、この家に住んでいる住民の年齢は高い。
そして、神フォンのカメラ機能で金目の物を撮ったものの、収納する事は出来なかった。
犯罪防止機能が付いているようだ。
一応はカメラで撮ったものは、神フォンの写真には記録されるようだけど、取り出しと換金が出来なければ意味がない。
「家、チェンジだな」
神フォンに収納出来ないなら仕方ない。
財布と引き出しにあった金属製の硬貨をズボンのポケットに入れると、次の空き家を調べる事にした。
この村には水道やガスはないようだ。
井戸から水を汲んできて、家の竈門で火を起こして料理をするようだ。
家の中にはトイレはあったけど、お風呂場はなかった。
おそらく、村の何処かに共同浴場でもあるのだろう。
さすがに冷たい川や湖で水浴びをする習慣はないと思いたい。
転生して、最初に送られた街には、街灯のようなものがあった。
多分、街ではガスか電気のどちらかが使われている可能性が高いと思う。
それに村と街の建物は明らかに格差が見られる。
この村の屋根と壁は煉瓦で覆われているけど、街の屋根の材質はプラスチックに似ていた。
カラフルな煉瓦を大量に使った建物は確かに高そうにも見えるけど、貧乏人が無理して着飾っている雰囲気が半端ない。
やっぱり住むなら、村よりは街の方が快適だと思う。
「次は、あの家にするか」
人目とマップ上の住民を警戒しつつ、出来るだけカラフルな屋根の空き家に忍び込んだ。
さっき忍び込んだ家の屋根は、茶色一色のいかにもお年寄りが住んでいる雰囲気の家だった。
今度はピンクとブルーの水玉模様の家だ。間違いなく、若いカップルが住んでいる可能性大だ。
まずは箪笥の引き出しをチェックする。
すぐに木綿の白パンティーを見つけた。
木綿のパンティーは肌触りが良く、吸水性と吸湿性に優れている。
冬は暖かく、夏は涼しいという素晴らしいものだ。
けれども、引き出しのパンティーを調べ続けていると、不可解な謎に打つかってしまった。
「どういう事だ……」
白、白、白、白と全てのパンティーが白だけだった。いや、パンティーだけじゃない。
ブラジャーも白、白、白と白しかなかった。
カラフル煉瓦を作る前に、カラフルパンティーを作る努力をするべきだ。
クンクン、クンクン⁉︎ いや? 微かにパンティーからフルーツの匂いがする。
「……こっちは桃、こっちはオレンジの匂いがする!」
全てのパンティーを嗅いで調べた結果、同じ匂いのパンティーが存在しない事が分かった。
どうやって作ったのか、さっぱり分からない。
フルーツの香りが染み付く芳香剤は引き出しの中にはなかった。
そもそも、芳香剤があったとしても、その場合は一つのフルーツの匂いしかしないはずだ。
それにブラジャーとパンティー以外の服からはフルーツの匂いは一切しない。
まさか、フルーツ石鹸というものがあって、洗濯する時に普通の服と下着で使い分けているのだろうか?
分からない。
けれども、フルーツの香りがするパンティーがある。その事実だけは変わらない。
この村はフルーツとフルーツパンティーが特産品なのだろう。
恐ろしいほどの変態村だ。
「もしかすると、パンティーを染めると匂いが落ちるのかもしれない。それとも、色で匂いを嗅ぐ前に、パンティーの匂いが分かるのを防いでいるのか?」
確かに匂いを嗅ぐ前に履いているパンティーの色で、匂いが分かるのは非常につまらない。
だからこその白一色。
とりあえず、白パンティーの謎は解けたという事にして、ズボンのポケットに報酬の桃とメロンのパンティーを入れた。
「やっと動き出したか」
床に置いた神フォンのマップを確認すると、転生者と一緒に、五人の人間が建物の外に出ていた。
建物の中にトイレがある事は分かっている。
だとしたら、村の見回りの時間かもしれない。
これでやっと転生者の性別が分かる。ついでに謎の五人の正体も分かるはずだ。
このポモナ村も街と同じで完全な敵地だ。
悪い転生者と人類の敵ダークエルフ……村人がどちらを優先的に倒そうとするか、考える必要もない。
僕は見つかった瞬間に、「今は人間同士で争っている場合じゃない! まずはダークエルフを一緒に殺そう!」と共闘を始めるはずだ。
村人三百人対僕と友達二人では勝負にならない。
勝つには、転生者一人対僕と友達二人の短期決戦で勝負を決めるしかない。
「んっ? この黄色、こっちに向かって来てないか?」
神フォンを注意深く観察していると、転生者がこっちに向かって来ている。
桃色五人の誰かの家がこの家なのかもしれない。
でも、奇襲するには最高の展開だ。
窓から転生者が男か女か確認した後に、男だったら、家の扉を開けた瞬間にアクアの水魔法で先制攻撃だ。
アクアには、そのまま水魔法で残りの五人を威嚇してもらいつつ、サーディンを使って、倒れている転生者にトドメを刺す。
サーディンが転生者を倒したら、混乱する村人達の中を全力で逃走する。
まさに完璧な作戦だ。
「間違いない。あの全身武装しているのが転生者だ」
神フォンを持って、しばらく待っていると、目的の人物が窓の外に見えた。
転生者は剣、兜、鎧、ブーツ、マントと神フォンで購入できる装備で完全武装している。
兜はヘルメット型のアイアンヘルムなので、チラッと顔が見えた。
角張った顎にガサガサの唇……あれは間違いなく男だ。
周りの五人も剣と防具を装備しているから、おそらく、仲間で間違いないと思う。
けれども、おかしな点に気づいた。
「こんちには、サリオスさん。見回り頑張ってくださいね」
「任せてください。ダークエルフを見かけたら大声で叫んでくださいね。すぐに駆けつけますから」
「はい、白馬に乗ってやって来てくださいね♪」
「あっはははは。それは難しそうですね」
若い村娘から転生者に話しかけた。
しかも、明らかに親しげに会話している。
こっちは街を歩いただけで悲鳴を上げられるのに、どういう事だ?
「サリオスさん、本当にこの村にダークエルフはやって来るのでしょうか?」
「分かりません。ですが、『このポモナ村がダークエルフに襲われる』と、神様からのお告げがありました。私がこの村に居れば、その危機を防ぐ事が出来るらしいです。今は信じてもらうしかありません」
あの転生者の名前はサリオスというらしい。
村の老人の質問に神様のお告げとか言っているけど、どういう事だ?
女神様が僕よりも前に、この異世界に送った転生者が暴走しているんじゃなかったのか?
まあ、あのポンコツ女神だから仕方ないかもしれないけど……。
「サリオスさん、俺達も自分の村を守る為に命懸けでお供します! 一緒に残虐非道なダークエルフを倒しましょう!」
「頼もしいが無理はするなよ。私がやられたら村を捨てて、港に逃げるんだ。命さえあれば、何度でもやり直せる。自殺して生まれ変わった私が言っても、説得力はないかもしれないがな」
ハァ、ハァ、ハァ……どういう事ですか⁉︎
村人の転生者に対する反応。
転生者と一緒に行動する武装した村人五人の反応。
どう考えても敵役は僕にしか聞こえない。
そもそも悪い転生者がいるなら、それを取り締まるのは僕の仕事じゃないはずだ。
女神様が念話かテレパシーで『悪い事はダメですよ』とか説得するなり、改心させればいいんだ。
僕は絶対に戦わない。
死ぬと分かっているのに戦わない。
こんな危険な村からはさっさと出て行くぞ。
神フォンなんて要らない。
サーディンに海に潜ってもらえば、魚でも貝でも取り放題、食べ放題だ。
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