第15話

「人がまったくいない。この先にあるポモナ村の所為だろうか?」


 神フォンのマップ機能で、現在地の『ラッシュ街道』をチェックした。

 魔物は赤色、人間は桃色で表示される。

 マップには赤色しか点滅していない。

 ポモナ村の先には港があるので、人の行き来は頻繁なはずだ。

 それがないという事は、ポモナ村を占拠している、悪い転生者が影響している可能性が高い。


 ラッシュ街道にも新しい魔物が出現していた。

 全部で四種類を確認した。

 このラッシュ街道に出現する魔物は、とにかく雑魚中の雑魚だ。

 でも、移動速度だけは速い。

 腕試しと思って、三対一でボコボコにしたら、一分もかからずに倒してしまった。

 

【名前=アフラッシュ。種族=鳥獣族。レベル=10。

 HP=2002/2002。MP=311/311。

 腕力=196。体力=151。知性=107。精神=104。

 重さ=普通。移動速度=速い。換金エル=33。

 固有能力=『飛行』】


 アヒルを数倍大きくしただけの、黄色と緑色の羽根と、鋭く硬いクチバシを持つ鳥だ。

 飛行能力を持っているものの、ほとんど地上しか走らない。

 俺様の胸の高さまでしかないドチビ身長で、卵のように丸々とした胴体だったので、錆びた剣で叩き割った。


【名前=モーニングフラワー。種族=トレント族。レベル=10。

 HP=2868/2868。MP=299/299。

 腕力=197。体力=151。知性=125。精神=89。

 重さ=重い。移動速度=普通。換金エル=35。

 特技=『タネマシンガン』】


 トレントの植物版だ。

 胴体と頭部がアサガオに似た大きな赤色のつぼみで出来ている。

 胴体下から生えている四本の大きな根っこの足で走り、胴体横から生えている二本の赤色の蕾の手で攻撃する。

 両手の蕾から発射されるタネマシンガンは驚異だけど、懐に入り込めば、あとはボコボコに出来る。


【名前=アーストータス。種族=亀獣族。レベル=10。

 HP=2644/2644。MP=299/299。

 腕力=196。体力=149。知性=72。精神=75。

 重さ=重い。移動速度=遅い。換金エル=35。

 特技=『甲羅に篭る』】


 ただの大きな亀だ。

 軽自動車よりも一回り小さいだけで、危険度は低い。

 特技の甲羅に篭る事で、受けるHPダメージが半減するようだけど、関係なかった。

 見つけたら、友達と一緒に袋叩きにすれば楽に倒せる。

 浦島太郎は助けに来ない。


【名前=ディア。種族=鹿獣族。レベル=10。

 HP=2333/2333。MP=168/168。

 腕力=162。体力=184。知性=104。精神=92。

 重さ=普通。移動速度=速い。換金エル=35】


 角の生えてない牝鹿にしか見えない。

 大きさも奈良の観光地にいるのと変わらない。

 魔物なのか、鹿なのか、正直分からないけど、背中に乗って、馬のように走れない事は分かる。


「海岸の魔物は優秀だったのに、この辺の魔物はハズレだな」


 この辺にいる魔物は動物に近いので苦戦する事はなかった。

 悪い転生者と戦う前の、最後の戦闘準備をするなら、ここでしか出来ない。


 友達は今のままでいいとしても、武器と防具は必要かもしれない。

 アクアには魔法攻撃力が上がるように杖を持たせるとして、僕とサーディンには防具一式は欲しい。

 でも、現在の所持エルはたったの650エルだ。

 杖の一本も買えないので、このまま行くしかない。


「いつものように三対一で転生者を襲えば、問題ないとは思うけど……」


 レベル10の魔物でも、三対一なら容易に倒せている。

 僕達は強いはずだ。

 心配と警戒のし過ぎで、実際に戦ってみたら意外と楽勝だった、という事もある。

 もちろんゲームの中の話ではある。


 それにポモナ村にいる転生者は、ラスボスでもなければ、中ボス以下のはずだ。

 いきなり、『ラスボスを倒せ』と女神様もお願いするはずがない。

 まずは偵察して、強そうか弱そうかチェックしよう。

 ターゲットの転生者は神フォンのマップを使って、ポモナ村にいる動く黄色の点滅を探せばいいだけだ。


 それに弱そうだったら、一気に奇襲してボコボコに倒せばいい。

 悲しいけど、これは命懸けの戦いだ。

 卑怯という言葉は存在しない。

 生き残った方が正義になる。


「出入り口に見張りもいないのか……しかも、村の周りは、よじ登れる柵しかない。入ってくれと言っているようなものだ」


 神フォンのマップで住民達の動きを警戒しつつ、ポモナ村に接近する。

 キノコのような形の可愛い建物が見えてきた。

 赤色に白の水玉、黄色と青色の横縞と、屋根の色が毒キノコのようにカラフルなのは、個性を出したいからだろう。


 それに村という事で人間の数も多い。

 子供からお年寄りまで、幅広い年齢層の人達もいる。

 人口はマップの桃色の点滅をザッと数えて、二百~三百人ぐらいはいると思う。

 そして、黄色に点滅する転生者もマップ上に見つけた。

 転生者の周りには桃色の点滅が五つあるから、常に転生者の周りには五人の人間がいる事になる。


「仲間と見るか、人質と見るか、そこが問題だな」


 あとは村人に転生者が拘束されたという線もある。

 まあ、それは流石にないだろう。

 でも、あの女神様はドジっ子だ。

 必要な情報を伝え忘れていると思った方がいい。

 だけど、流石にそれはない。


 だとしたら、転生者に仲間がいる可能性があると思った方がいい。

 村の中まで入って、少し情報収集しないとマズイだろう。

 神フォンを使えば、村人の動きは把握できる。

 街から逃げ出した経験から、人間の走る速さが遅い事も分かっている。

 見つかっても問題なく逃げられるはずだ。


「貢ぎ物かな? それにしては量が多いような気がするけど……」


 建物の陰に隠れて、転生者がいる建物を見張っていると、果物山盛りの籠を持った十四歳ぐらいの少女が一人で、転生者と五人の人間がいる建物に入って行った。


 悪い転生者だというなら、村人三百人で袋叩きにすればいいのに……。

 もしかして、やっぱり物凄く強いんじゃないのか?


 考えてみれば、人口三百人以下の村を一人の転生者が支配する状況は異常だ。

 それに村人は自由に村の中を移動しているし、村人を監視しているような武装した人間もいない。

 あの建物の中に子供を人質に立て篭もっているとしても、村人の表情には不安は一切見えない。


 もしかすると良い転生者なんじゃないだろうか?

 本当に寝込みを襲って、倒していいのだろうか?

 倒すという選択がそもそも間違いで、実は仲間にするという選択が正しいのではないだろうか?

 そもそも、この転生者は男か女なのかも分からない。

 もしも美少女転生者だったら、殺せるはずがない。


 やっぱり転生者の顔と性別を確認しないと駄目だ。

 転生者が男なら、正々堂々と話し合いで解決すればいいし、転生者が女なら、正々堂々と寝込みを襲えばいいんだ。


「よし、黄色が動くまで隠れていよう」


 転生者が建物の中に一日中篭っているはずはない。

 一日に一度か二度は必ず外に出るはずだ。その時を待つしかない。

 人が居ない建物を神フォンを使って見つけると、とりあえず、その家の中に隠れる事にした。

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