第14話

「多分、これでいいはずだ」

『ギョギョ』

『キュン』


 ゴブリンソルジャー二匹を換金して、サーディンとアクアマンドレイクの二匹を新しい友達にした。

 アクアアクアマンドレイク二匹でも良かったけど、MP切れになったら使いものにならない。

 それにサーディンは水耐性があるので、アクアの水魔法を喰らっても、HPダメージは半分で済む。

 前衛をサーディンに任せて、後衛からアクアが魔法攻撃をする。

 これがベストな戦略だ。


「サーディンは影の中に入っていろ」

『ギョギョ』


 一鳴きすると、腹が銀色、背中が青色の魚人は影の中に入っていった。

 僕にはアクアと二人っきりになってやる事がある。


「アクア、初級水魔法を教えてくれないか?」

『キュン?』


 人間から魔法を教えてもらえないなら、魔物に教えてもらうしかない。

 アクアは僕が言っている事の意味が分からないようで、一鳴きするだけで何もしない。

 やはり諦めるしかないのかもしれない。

 それとも、「見て覚えろ」という昔の親方みたいな厳しい指導方法なのだろうか?

 ならば、やるしかない。


「アクア! あの壁に向かって、水魔法だ!」

『キュン! ♪キュゥキュルルゥ♪ キュン‼︎』


 アクアは歌いながら砂浜で一回転すると、頭部の上の巨大な青い花びらの中心から、丸太サイズの回転する水の塊を発射した。

 長さ二メートル程はある、螺旋状に絡まった回転する水弾が、ビューンと指差した岩壁に向かっていく。

 そして——バシャン‼︎ 水の丸太が壁に打つかると、盛大に辺りに飛び散った。

 岩壁を壊す破壊力はないようだ。


「なるほど……よし、分かった。キュン! ♪キュゥキュルルゥ♪ キュン‼︎」


 アクアと同じように砂浜を歌いながら一回転して、両手の手のひらを岩壁に向かって突き出した。

 ……悲しい事に何も起こらなかった。

 おそらく、キュゥキュルルゥの部分が魔法詠唱だと思う。

 人語にやくせれば、行けそうな気もするけど、人語を喋れる賢い魔物とは、まだ出会えていない。


「亜人系の魔物は結構いるのになぁ~」


 見た目が人間に近かったり、種族に人が付く魔物は多い。

 でも、ゴブリンソルジャーもサーディンもアクアも喋れなかった。

 多少の意思疎通が出来る程度だ。

 僕の言葉をアクアが理解しているなら、僕にも魔物の言葉を多少は理解できる可能性がある。

 けれども、時間をかけて魔法や魔物の言葉を習得する時間はない。即戦力が重要だ。


「アクアは影に戻って、サーディンは外に出てくれ」

『キュン』

『ギョギョ』


 アクアを影に入れると、代わりにサーディンを外に出した。

 サーディンは右手に錆びた剣を持っている。

 魔法が使えないなら、武技=『魚人剣術初級』を覚えるしかない。

 こっちの方が手っ取り早い戦力強化だ。

 友達二匹がやられた場合は、僕の身の安全は保証されない。

 レベルが上がらないなら、戦闘技術を上げるしかない。


「サーディン、魚人剣術を教えてくれ。俺様の綺麗な身体を剣で傷つけるんじゃないぞ」

『ギョギョン』

「よし、やるぞ! 1、2、3、4」

『ギョ、ギョ、ギョ、ギョ』


 両手に錆びた剣の柄を握って、素振りを開始した。

 いきなり剣と剣を打つけて激しい実戦訓練をする馬鹿はいない。

 倒したサーディン一匹を換金せずに、僕は錆びた剣を一本手に入れていた。

 神フォンで同じ性能の剣を買うと、1460エルもする。


 レアンドロス海岸に出現する魔物の換金値段はこうだった。

 サーディンが36エル。レッドキャンサーが38エル。カエルンが40エル。アクアマンドレイクが30エルだった。

 36エルを犠牲にすれば手に入る剣を、1460エルで購入する馬鹿はいない。


『ギョ!』

「ぐっ! もっと優しくしろ! ゆっくり優しくだぞ。速いのも激しいのも駄目だからな」

『ギョ!』


 ガァン‼︎ ギィーン‼︎ パシィン‼︎

 素振りを終わらせると、僕とサーディンは錆びた剣を打ち合わせた稽古を始めた。


『ギョギョン!』

「あんっ! だから、激しいって!」


 パシィン‼︎ こっちは初めての打つかり稽古なのに、サーディンは手加減を知らない。

 サーディンの剣を受け止めるだけでも、僕の手は痺れてしまう。

 本気じゃない攻撃はHPダメージにはならないとしても、剣が身体に当たれば、痛みは感じる。

 もう痛いのは嫌なので、今日の稽古は終了にする。

 

「ふぅー、良い汗かいた。二度とやりたくないけど」


 十五分間程度の素振りと剣の打ち合いを終えると、僕はサーディンを影に入れて、今度はアクアを外に出した。

 海で汗を流したいけど、魔物がいる海で落ち着いて汗は流せない。

 それにトレーニングで汗をかいたというよりも、数日も風呂に入っていないので、何だか身体が臭い。

 アクアの初級水魔法で、身体を隅々まで綺麗にしてもらうつもりだ。


「うぅっ! 服も何だか獣臭い。サーディンに着せてから、海の中を泳がせないとな」


 服を脱いで全裸になると神フォンに収納した。

 収納した服の修理、洗濯機能があればいいんだけど、今は魚人洗濯機で我慢するしかない。

 洗濯機は今度、女神様にお願いしてみるしかない。

 

『キューン?』

「花はあるけど、鼻は無いのか」


 まじまじとアクアの真っ黒い顔を見る。

 目と口はポッカリと空いた穴が付いてあるけど、鼻はない。

 身体は白いワンピースを着ているような感じだ。

 足は短いけど、両手は蔓のように長くて、伸ばせば二メートルはある。

 まさに見た目は可愛い幼女だ。


 けれども、ツルツルとおっぱいがペタンコだ。

 モンスターっ娘がいれば、是非お友達になりたいのに、幼女じゃなぁ~。

 とりあえず、今後の成長を期待しつつ、アクアに優しめの水を放水してくれるように頼んだ。


『キュキュ、キュキュン。キュキュ、キュキュン』

「おおうっ! おおうっ! これはなかなか♪」


 頭上から降ってくるアクアの放水を浴びながら、ピッタリとくっ付いてもらったアクアに、頭の青色の花と蔓を使って、俺様の綺麗な身体を擦らせる。

 石鹸があれば最高だけど、良い匂いがする青色の花と、適度に柔らかい蔓の手は悪くはない。

 誰かに身体を洗われた事はないけど、意外と気持ちがいい。

 そして、最後に柔らかな蔓がデリケートゾーンに巻き付くと、そこも綺麗にされ始めた。


『キュキュ、キュン。キュキュ、キュン』

「やだぁ、この! 凄いテクニシャン⁉︎ ハァ、ハァ、ハァ……もう、らめめめめめええええええっ♡」


 身体を綺麗するつもりだったのに、なんだか凄く汚れてしまった気がする。

 まあ、友達同士ならばこのぐらいは普通にする事だ。

 アクアにはMPが切れた後も頑張ってもらうと、僕はアクアを影の中に休ませた。

 MPを早く回復してもらわないと、魔物に襲われたら大変だ。


「くしゅん! ううっ、寒い!」


 神フォンから脱いだ服を取り出すと、急いで着た。海風が少し肌寒い。

 決して、水遊びのし過ぎではないはずだ。


「アクアは友達から親友に昇格しておこう。あの娘は手放したら絶対に駄目だ」


 水は生きるのに必要不可欠な物だ。

 飲み水、お風呂、洗濯と使える用途は多い。

 しかも、可愛い人型の魔物なら最高だ。

 真っ黒な顔に眼球のない真っ黒な穴が空いているだけだとしても、些細な問題だ。

 身も心もスッキリと成長した僕は、レアンドロス海岸を後にした。

 魔物が生息する森の中の街道を進めば、目指すポモナ村まではあと少しだ。

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