第13話

 クワイエットの森を出る前にやる事がある。

 この森にしか出現しない魔物もいる。

 ポモナ村に到着してから、「やっぱりあの魔物を連れてくれば良かった」と思わないようにしたい。


「前衛か、後衛か……」


 俺様は完全な後衛タイプを希望している。

 この美しい身体に傷は似合わない。

 前衛に立って戦うなんて、まっぴらゴメンだ。

 友達の代わりはいくらでもいるけど、美しい俺様の代わりは誰もいない。


 ゴブリンソルジャーを二匹友達にして、防具でも着せれば行けるんじゃないのか?

 ゴブリンソルジャーは攻撃力もあり、武器と防具を装備させる事が出来る。

 前衛役としては最適だ。

 不満があるとしたら、移動速度が少し遅い事ぐらいだ。


 遠距離攻撃が出来るミニトレントは強いとは思う。

 けれども、特技の葉っぱ手裏剣は、葉っぱを一枚ずつ投げるだけの能力だ。

 しかも、一枚投げるのにMPを10消費する。

 レベル8のミニトレントなら、二十三枚の葉っぱ手裏剣しか投げられない。

 葉っぱ手裏剣が使えなくなったミニトレントは、ただの歩くデカイ木になってしまう。


 毒蝶々の毒状態は長期戦には有利だけど、大抵のゲームは毒状態は二種類ある。

 効果が永久の場合と一時的な場合だ。

 効果が永久の場合は、どんな高いHPの魔物も倒す事が出来るようになる。

 けれども、その可能性は低い。

 そんな都合が良い能力が、序盤で簡単に手に入るはずがない。

 毒の効果は一時的なものだと考えた方がいい。


 一応は一時間は毒状態になるから、HP3600ぐらいの魔物までは通用する。

 でも、一匹倒すのに戦闘時間一時間は辛い。

 周辺の魔物を巻き込んで、あとで一気に倒すのも良いとは思うけど、出来れば見つけたらすぐに倒したい。

 毒にした魔物を一時間後に探すのは、二度手間で意外と面倒だった。


「寄り道して、レベル30ぐらいの魔物を見つけて、友達にした方がいいんじゃないのか?」


 でも、そんな裏技も絶対にないと思う。

 俺様のレベルが1だとして、レベル100の魔物を友達に出来るだろうか?

 その可能性はかなり低い。しかも、失敗すれば即死亡だ。

 ここはやっぱり無難に、ゴブリンソルジャー二匹で決まりだ。


「——という訳で、お前ともここでお別れだな」

『モス?』


 毒蝶々を影から出すと最後のお別れをした。

 当然、クワイエットの森に帰すつもりはない。

 死んでもらって、僕の食事代に変わってもらうつもりだ。

 

「殺れ、ゴブリンソルジャー」

『ゴブゴブ!』


 新しく友達になったゴブリンソルジャーに毒蝶々の殺害を命じた。

 僕の手では友達を傷つける事は出来なかった。

 決して、万が一にも反撃されて、毒状態になるのが怖いからじゃない。


『ゴブゥ! ゴブゥ!』

『モスッ⁉︎ モスッッッ⁉︎』


 ガァツン‼︎ 

 ゴブリンソルジャーの棍棒バットが、フヨフヨと浮かんでいた毒蝶々の、小さな頭に叩きつけられた。

 地面に墜落した毒蝶々に、棍棒バットがガァツンと、もう一度振り下ろされる。

 抵抗しないように毒蝶々には命令しているので、訳も分からず毒蝶々は殴られて混乱している。


「身体に触れるんじゃないぞ。棍棒には毒は移らないからな」

『ゴブゥ』


 ゴブリンソルジャーは僕の方に振り向くと、コクンと頷いた後に攻撃を再開した。

 毒蝶々の身体に触れなければ、毒状態にならない事は分かっている。

 そして、毒蝶々を殴った棍棒バットで、魔物を殴っても、毒状態にならない事も分かっている。

 つまり毒蝶々に当てた小石は、毒の小石にはならないという訳だ。

 その結果、毒小石を当てた魔物を毒状態にするという、強力な攻撃アイテムの完成は幻に終わってしまった。


『モスッッッ⁉︎』


 ガァツン‼︎ 毒蝶々は棍棒バットの四回目の攻撃でやっと息を引き取った。

 毒蝶々の死体を神フォンで写真にして、18エルに換金した。


「さてと、もう一匹ゴブリンソルジャーを友達にしないとな」


 ゴブリンソルジャーを影に入れると、神フォンのマップを見ながら、ゴブリンソルジャーを探して回る。

 魔物を倒しても、もうレベルは上がらないけど、換金してエルを手に入れないといけない。

 お金が無いと、防具も食糧も買えない。

 とりあえず、見つけた魔物は片っ端から倒して回ろう。


 ♦︎


 クワイエットの森から街道沿いに、コソコソ隠れながら北上する。

 すぐに『ニンバス』の町が見えてきた。

 ニンバスの町は丸い形をしていて、町の周囲を高さ五メートルほどの積み上げられた、灰色の岩がグルっと囲んでいる。

 そして、灰色の外壁の向こうに、灰色の三角屋根と白壁の建物がチョコンと沢山見えている。


「まるで外国の童話の世界だ……」


 僕が必死に逃げて来た街ではないから、そこまで警戒されていないかもしれない。

 頭を隠して、神フォンで住民の動きを警戒すれば、町の中を見て回る事ぐらいは可能かもしれない。

 でも、お金も無いのに町に入っても意味がない。

 それに町の中を見て回るだけで、命を懸けないといけないのは、ちょっとリスクが高すぎる。

 僕は誰かに見つかる前にニンバスの町から離れた。

 余計な事を考えずに、さっさとレアンドロス海岸に向かおう。


「数は七、八ぐらいか。重なっていると分かりづらいな」


 神フォンのマップには桃色と赤色の集団が近づいて来るのが見える。

 警備兵と魔物の混合部隊のようだ。

 戦うつもりはまったくないので、見つからないように、警備兵達の進行ルートから大きく距離を取る。

 相手の進行ルートが手に取るように分かるので、まず警備兵達と接触する事はないはずだ。

 戦闘を回避しつつ、順調に道を進んで行くと、海の匂いと波の音が聞こえてきた。

 

『レアンドロス海岸』——砂浜と岩礁の二つが合わさったような場所だ。

 サクサクの砂浜と、ゴツゴツの岩礁と、チャプチャプの水中という、三つの足場に合わせた戦い方が要求される。

 出現する魔物は四種類だけのようで、そのうち三種類が水棲系の魔物だった。


【名前=サーディン。種族=魚人族。レベル=10。

 HP=2617/2617。MP=299/299。

 腕力=215。体力=180。知性=107。精神=77。

 重さ=普通。移動速度=普通。

 装備=片手剣『攻撃力188+魔法攻撃力154』。

 武技=『魚人剣術初段』。

 固有能力=『水中呼吸』】


 剣を持った身長百五十センチ程の手足の生えた魚人間だ。

 見た目は鶏のようで、背びれや尾びれが鶏の鶏冠や尾羽のように付いている。

 おっぱいのある魚人を探してみたものの、やっぱりいなかった。

 ゴブリンソルジャーよりは移動速度は速く、レベル10と即戦力になる。

 とりあえず、ゴブリンソルジャーと交換するならサーディンだ。


【名前=レッドキャンサー。種族=蟹獣族。レベル=10。

 HP=2750/2750。MP=301/301。

 腕力=237。体力=139。知性=108。精神=90。

 重さ=普通。移動速度=少し遅い。

 固有能力=『水中呼吸』】


 縦横一メートルサイズのデカいだけの赤蟹。

 特技と武技を持っていないので、使えない魔物だ。

 使えないのは分かっているので、倒すだけの魔物になる。

 

【名前=カエルン。種族=カエル人族。レベル=10。

 HP=2614/2614。MP=327/327。

 腕力=172。体力=155。知性=149。精神=171。

 重さ=普通。移動速度=少し速い。

 特技=『泡鉄砲』。

 固有能力=『水中呼吸』】


 身長百三十センチ前後、青色のバランスボールに、長い手足が生えた見た目をしているカエルだ。

 見た目の気持ち悪さを我慢できるなら、水陸両用の万能タイプだ。

 特技の泡鉄砲は、野球ボールサイズの泡を口から飛ばす技で、避けるのは意外と簡単だった。

 真っ直ぐに飛んで行くだけの攻撃が、実戦で通用するかは、正直微妙なところではある。


【名前=アクアマンドレイク。種族=草人族。レベル=10。

 HP=2207/2207。MP=726/726。

 腕力=165。体力=129。知性=154。精神=121。

 重さ=軽い。移動速度=普通。

 魔法=『初級水魔法』】


 身長百二十センチ前後の可愛らしい幼児体型の魔物だ。

 その見た目はペンギンに似ていて、小さな黒い頭の上に、頭よりも大きな青色の花を咲かせている。

 そして、その頭上の青色の花から、強力な水魔法を瞬時に発射して攻撃してくる。

 MPも多く、魔法の攻撃回数も七十二発と非常に厄介な魔物だ。

 後衛として十分に活躍が期待できると思う。

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