第11話

『プルルルル♪ プルルルル♪ 女神様からの電話だよ♪』

「んっ? 神フォンが震えている……」


 神フォンでゲームをやっていたら、女神様から電話がかかって来た。

 ゲーム中に電話がかかって来るのは正直ムカつくけど、美少女からなら、いつでも大歓迎だ。

 画面に映る非通知の文字が少し気になるけど、とりあえず通話ボタンをタッチした。


「はい、もしもし? トオルですけど」

『あっ、すみません! 間違えました! ガチャン。ツゥツゥツゥ』

「えっ……女神様⁉︎ どういう事ですか⁉︎ 女神様⁉︎」


 何故だか、電話が切られた。

 神フォン越しの声は、確かに女神ルミエル様の声だった。

 別の人の所に電話しようとして、僕にかけ間違えたのかもしれない。

 まあ、ドジっ子天然女神だから仕方ない。


『プルルルル♪ プルルルル♪ 女神様からの電話だよ♪』

「んっ? また女神様から非通知電話だ。やっぱり僕で合っているみたいだ。はい、もしもし。トオルです」

『あっ、すみません! 間違えました! ガチャン。ツゥツゥツゥ』

「……」


 ふぅー、よし。一旦落ち着こう。何が正解だ?

 次に電話がかかって来たら、もう間違い電話ではない。

 おかしな言葉を使うようだけど、つまりは僕が間違い電話にしている事になる。


「なんだろう? トオルです、がマズいのか? もしもし、ひでぶぅですけど、と言えばいいのか?」

『プルルルル♪ プルルルル♪ 女神様からの電話だよ♪』

「あっ、やっぱり来た」


 予想通り、女神様からの三回目の電話がかかって来た。

 これで、「ひでぶぅですけど」で切られたら間違いなく悪戯電話だ。

 とりあえず、何が正解かはすぐに分かる。神フォンの通話ボタンをタッチした。


「もしもし、ひでぶぅですけど。ルミエル様ですよね? 俺です。ひでぶぅです」

『もぉー、やっとひでぶぅに繋がったよぉ。三日経ったけど、そろそろレベル5ぐらいにはなったよね?』


 やっぱりひでぶぅ扱い。

 しかも、三日でレベル5とは僕の評価はかなり低いようだ。

 まあ、高すぎるよりはいいけど。


「ええ、レベル5にはなりましたよ。というか、僕の活躍は見てなかったんですか?」

『えっ⁉︎ 見なきゃ駄目だったの!』

「いえ、見なくてもいいですけど……この森で三日も野宿ですよ。さすがに宿屋に泊まりたいですよ」


 まあ、考えてみたら、僕しか映らない二十七時間テレビを、三回連続で見たいと思う人はいないか。

 まあ、同級生女子の日常生活の隠し撮り映像なら、僕なら二十四時間、三夜連続はイケるけどね。


『宿屋かぁ~、それなら手に入るかもしれないよ。でも、ちょっと頑張ってもらわないといけないかも』

「頑張るって、レベル10になればいいんですよね? だったら、もうレベル10になっていますよ」


 頑張ったら宿屋に泊まれるならば、もうレベル10になっている。

 それとなく女神様に言ってみた。


『へぇー、そうなんだ。でも、レベル10じゃないんだよねぇ~。ひでぶぅにはクエストを受けてもらいたんだよ。その成功報酬に、レベルの上限アップと宿屋を約束してあげるよ』


 でも、レベル10になるのは当然であって、頑張らなくても出来る事だったみたいだ。


「クエスト? クエストってあれですよね。指定された魔物を倒したり、素材を手に入れるやつですよね?」


 目的地をマップで表示してくれるなら迷う事はないと思う。

 魔物ならば、ステータスを見れば、勝てるか、どうかは分かる。

 まずはクエストの内容を聞いてみないと、難易度も危険度も分からない。

 クエストを受けるか、断るかは聞いた後にしようかな。


『そうそう、それだよ。ひでぶぅと同じ転生者の一人が村を襲っているから、それを退治して欲しいんだよ』

「つまりは悪い事をする転生者退治ですか」


 対人戦は怖いし、転生者は強いと思う。

 助ければ村の人達には感謝されるとは思うけど、ダークエルフだとバレたら逆にピンチになる。

 これは敵地に潜んでいるテロリストを倒すような、非常に危険度が高いクエストだと思う。


 よし、断ろう。


 でも、そうなると宿屋の話は当然なくなってしまう。

 んんんっ~~~、あっ! そうだ! 覆面をすれば、街でも暮らせるんじゃないのか? 

 ダークエルフだとバレなきゃいいんだよ!


「すみません。そのクエスト、お断りしてもいいですか?」

『えっ? どうして? レベル20まで上限がアップするんだよ!』


 断られるとは思っていなかったんだろう。

 電話越しでも女神様の動揺が伝わってくる。


「そのぉー、人殺しは嫌ですし、正直言って、報酬に魅力を感じないというか。強くなっても、友達の人数が一人増えるだけですよね?」

『違うよ! 神フォンのお店レベルも20まで上限がアップするよ! 品揃えも増えて、美味しい料理も食べられるよ! メニューに牛丼が増えるよ!』

「……」


 女神様はクエストを受けるメリットを力説してくれるけど、牛丼に命を懸ける馬鹿はいない。

 それに現時点の強さでも、食べるだけならば問題ない。

 顔を隠して街で暮らせるならば、魔物を倒して、エルを手に入れて、神フォンのアイテムを購入して、街で売ればいい。

 それでこの異世界の通貨を手に入れる事も出来る。

 自由気ままな行商人生活も悪くないはずだ。

 今の僕は馬鹿じゃない。

 三日もあれば、それなりの異世界人生設計も立てられる。


「すみません、女神様。レベルアップにも牛丼にも興味がないので、お断りさせてください」

『はぁー、分かりました。分かりましたよ。じゃあ、クエストはなかった事にするね。じゃあ、ひでぶぅ、神フォン返して』

「はい?」


 神フォンを返して? ちょっと何を言っているのか意味が分からない。

 神フォンが無ければ、僕は確実に死ぬ。

 女神様がまさか、クエストを受けないなら、死ねとは言わないはずだ。


『はい? じゃないよ。神フォン返してよ。前に特別に貸すだけだって言ったよね? もうひでぶぅは特別じゃなくなったから返してもらうね』

「えっ! えっ、えっ、嘘ですよね! ちょっと待ってくださいよ⁉︎」


 僕が左手に持っていた神フォンⅩⅢが光の球体に包まれると、フヨフヨと空に浮かび始めた。

 神フォンから女神様の声はまだ聞こえているけど、徐々に声が小さくなっていく。

 

『ひでぶぅはきっと友達がいなかったんじゃなくて、一人が好きだったんだね。私、勘違いしちゃった。もう連絡しないから。さよなら、ひでぶぅ』

「待って! 待って! ちょ、ちょっと待てよぉー! やります‼︎ 是非やらせてください‼︎ お願いします‼︎」


 何故だか女神様の台詞が、別れる直前の恋人の台詞に聞こえてしまう。

 そんなムフフな関係だったのか心当たりはないけど、本当に大切なものは失わなくても分かっている。


 神フォンはマズイ。神フォンは非常にマズイ。

 神フォンが没収されたら僕は確実に死ぬ。

 ピョンピョンと飛び跳ねて、ツルツルと滑る光の球体を取り戻そうとしたけど、無理だった。

 クエストを受けるか、死ぬか。

 これは二択に見せかけての、実は一択だ。


『もぉー、やりたいなら最初から言ってよぉー! 面倒くさい男は嫌われるよ!』

「ほっ……ごめんなさい」


 空から再び神フォンが僕の手に戻ってきた。

 急いで耳に当てると女神様に謝罪した。

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