第10話

「はぁ~い♪ 『第四回ひでぶぅどうする会議』を始めまぁ~す。意見のある神様は挙手してくださぁ~い」


 司会の女神ルミエルが巨大なカジノルームに集まった下級神様達を集めています。

 カジノルームと言っても、あるのは『デッドオアアライブゲーム』だけです。


 カジノルームには、巨大な青と赤の二色に分かれたカジノテーブルが一つだけ置かれています。

 与えられた目標を転生者が達成する前に、『死んでいるか』『生きているか』——それを当てるだけの単純なゲームです。


「くそぉー、ひでぶぅの癖になかなか死なねんだよなぁ。絶対に街でバラバラにされると思ったのに」

「俺は小豹に食い殺されると思った。しかも、全員殺さずに一匹仲間にするなんて予想外だぜ」

「それを言うなら、あの森から逃げずにレベル10になったことよ。元キモデブの自殺者の癖に根性あるじゃない」

「……」


 挙手する神様は誰もいません。勝手に喋り始めています。ルミエルは無視されています。

 巨大なテレビ画面にはレベル10になったひでぶぅこと、田中透の姿がデカデカと映されています。

 もしもダークエルフの姿でなく、元のキモキモおデブ高校生の姿ならば、とっくにテレビは破壊されていた事でしょう。

 男神や女神の言う通り、ここまでひでぶぅが生き延びるとは誰も思っていませんでした。


「はいはい、私語はいいですから、何かありませんか? ひでぶぅが待っていますよぉ~」


 女神ルミエルが少しイライラしながら、カジノルームに集まっている二十人程の下級神様達を注意します。

 誰かが次の目標を出さないとゲームが始まりません。

 第一回の街から逃げられるか。第二回の小豹三匹から逃げられるか。第三回のレベル10になれるか。

 ……もう第四回目です。神様達もそろそろ、ひでぶぅの惨殺ショーが見たいところです。


「じゃあ、レベル42のファイアドラゴンから生き延びられるか、これでどうだ?」


 絶対に勝てません。

 炎を吐かれる前に、プチッと足で潰されます。

 ひでぶぅの生存率はゼロパーセントです。


「駄目だ駄目だ! 確実に死ぬって分かっているのは、つまらない。レベル8の魔物を倒せるんだから、友達二人と力を合わせて、レベル20の魔物を倒させるのが一番だ。友情だ友情! これっきゃない!」

「はぁっ~? 友情? そっちこそつまんねぇよ。今のひでぶぅなら、レベル20の魔物の一匹や二匹簡単に倒せるじゃねぇか!」


 友達をしっかりと選んで作戦を立てれば、もしかしたら、レベル20の魔物も倒せるかもしれません。

 それでも、ひでぶぅの生存率は三十パーセントぐらいです。


「ねぇ、どうやって、ひでぶぅを殺すかで決めましょうよ。私は魔物よりも人の手で殺させた方がいいと思うの」

「だ、か、ら、殺すのを確定にするんじゃねぇよ!」


 神様達が次のゲーム内容を何にするかで、激しく口論しています。

 絶対に死ぬようなゲーム内容も駄目ですが、絶対に助かるようなゲーム内容も駄目です。

 生きるか、死ぬか。それが分からないようなゲーム内容でないと、賭け事として成立しません。


「よし、伝説の剣を入手させよう!」

「くだらねぇ! 伝説の魔物を友達にさせるんだよ!」

「伝説、伝説って……男の頭は伝説級にお馬鹿ね。ここは禁断のダークエルフと人間の女のラブよ♡」


 セクシーな女神様の提案はひでぶぅならば、大喜びで受け入れるかもしれませんが、周りの神様達は大反対のようです。


「うっげえええええっ! そんなの見たくねぇよ! ひでぶぅのキスシーンなんて想像するだけで気持ち悪くなる」

「何ですって⁉︎ だったら男同士にすればいいじゃない!」

「そっちの方が気持ち悪いに決まっているだろうがぁー!」


 相手が男だろうと女だろうと、ひでぶぅが誰かとイチャラブしている姿は地獄絵図です。


「では、ここは間を取って、魔物のオスでどうでしょうか?」

「いい加減にしてよ! 真面目に話し合いしようよ! 誰でもいいからアイデアないの!」


 流石のルミエルも、こんなくだらない議論をいつまでも聞いていられません。

 大きな声で注意はしますが、誰も挙手はしません。

 そんな中、スッーと一人の老神が右手を上げました。


「はい、ヤーヌス君!」

「儂の所にいる、『放浪者』を使わせてもらおう。どこぞの小さな村を襲わせて、その村をひでぶぅに助けてもらう。ダークエルフの地位向上クエストじゃあ」


 ルミエルに指差された長い白髪の老神が淡々と話します。

 神様達の視線が白髪の老神に集中します。

 放浪者とは、チート能力を与えずに放置している転生者達の事です。

 デッドオアアライブゲームで少し遊んだ後に、飽きられて捨てられた人達の事です。

 数年単位で連絡を取っていない人達が沢山います。


「放浪者か……俺の所にも五、六人は生き残っているから、在庫処分として貸してもいいぜ」

「それは結構。転生者と放浪者の同士の一騎討ちじゃないと、勝負にもならんじゃろう」


 別の神様の申し出をヤーヌスはキッパリと断りました。

 ひでぶぅの実力だと、一騎討ちでも負けが濃厚だからです。

 むしろ、ひでぶぅに助っ人放浪者を貸してあげたいぐらいです。


「それもそうか……じゃあ、別のゲームで使おうぜ! この際だから全員で在庫処分しようぜ!」

「おっ! 第一回放浪者王決定戦でもやるか! 優勝者にはスキルとレベル30まで上限解放でいいんじゃないのか!」

「いいねぇ~。やろうぜ!」


 神様なら自分が管轄している異世界に、放置している放浪者の一人や二人はいます。

 十人程の神様が集まって、早速変な大会を開催しようと盛り上がっています。

 そして、早くもひでぶぅの事は忘れらています。

 

「くだらないトーナメントには興味はないけど、放浪者を使うのは賛成よ。でも、レベルは同じぐらいよ。使うのはレベル10~20まで頼むわよ」

「ホッホホホ。分かっておる。使うのはレベル10じゃあ。けれども、使う放浪者は百戦錬磨の猛者にする。其奴はスキルは持ってないが、勝てれば、ひでぶぅのスキルを与えると約束するつもりじゃあ」


 ヤーヌスは笑いながら、勝ち気な縮れた赤髪の女神に答えます。

 でも、百戦錬磨の猛者を使うならば、もう百パーセント、ひでぶぅの敗北は濃厚です。


「転生者と放浪者の対人戦か! ヒッヒヒヒヒッ。勝者には褒美を敗者には死をか。俺は面白いと思うぜ」

「私も面白いと思うわ。でも、ひでぶぅがヒーローになるのは反対ね。そこのところは注意してもらわないと」

「はいはい、その辺は分かっているから、あとは私とヤーヌス君で決めておくから、皆んなはさっさと賭けてね」


 どうやら、第四ひでぶぅどうする会議が終了したようです。

 ルミエルがあとは自分達がやるから、カジノテーブルの上にチップを賭けろと言っています。


「四回目だから、縁起を担いで死ぬに賭けようぜ」

「そんな適当に決めるなよ。まあ、俺も死ぬに賭けるけど」


 下級神様達は帰り際に、巨大なカジノテーブルの上に、自分の姿にそっくりな人形を置いていきます。

 テーブルは二色に分かれていて、青色は『生きている』、赤色は『死んでいる』を意味しています。


「フムフム、今回は死んでいるに賭けている人が八割もいるよ。ひでぶぅ、終わったかな」


 誰もいなくなったカジノルームには女神ルミエルが一人だけいます。

 テーブルの上の神様達の人形を見て考え込んでいます。


「別の転生者に勝っても、レベルの上限を20にするだけじゃ物足りないよね。放浪者の在庫処分か……よし、ひでぶぅのやる気を出させてみようかな」


 どうやら良い作戦というか、良い褒美を思いついたようです。

 早速ルミエルはさっきの男神ヤーヌスに神フォンⅩⅣで連絡を取りました。

 ヤーヌスに放浪者を配置する村を聞き出さないといけません。

 そうしないと、ひでぶぅに目的地を教える事も出来ません。

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