第9話

 計画通りに作業を開始した。


『ゴブゥ‼︎』


 太い棍棒バットをブンブン振り回して、ゴブリンソルジャーが野太いオヤジのような雄叫びを上げて襲って来た。

 ゴブリンソルジャーは移動速度が少し遅い。遠距離攻撃が使えるミニトレントよりは倒しやすい相手だ。

 毒蝶々は俺様の影から完全に出さないようにして、影から片方のはねだけを飛び出させて待機させている。


 作戦はこうだ。

 毒蝶々の移動速度は遅い。そして、俺様の移動速度は少し速い。

 影を犬のリード代わりに、毒蝶々を僕が引き摺って、地中散歩させる。

 まさに地上を泳ぐサメの背鰭のように、毒蝶々の毒翅が、ゴブリンソルジャーに襲いかかるという訳だ。


『ゴブゥ⁇』


 バシィ! 狙い通りにゴブリンソルジャーの左足に毒翅が軽く打つかった。

 ゴブリンソルジャーは足元を見るが、毒蝶々はもう影の中に姿を消した後だ。


『ゴブゴブ⁉︎ ゴブゴブッッッーー⁉︎』


 しばらくすると、ゴブリンソルジャーが左足を押さえて苦しみ出した。

 毒状態になると、身体が紫色に変わったりすれば分かりやすいけど、それはないようだ。


「ふっ、続きは一時間後だ」

『ゴブゴブッッッーーー‼︎』


 ゴブリンソルジャーが毒状態になったのをステータスを見て確認したので、神フォンを使って、次の獲物に向かって移動を開始した。


「今のところは順調だな。毒耐性がある魔物がいたら終わっていたよ」


 毒蝶々に毒蝶々を打つけても、おそらくは毒状態にはならない。毒蝶々は見つけても放置する。

 狙うのはゴブリンソルジャーとミニトレントと飛蝗鳥の三匹だけだ。

 次々にクワイエットの森の魔物達を毒状態にして行く。まずは十匹ぐらいで様子見だ。


 ——一時間後。


「ストレートストーン!」

『ゴブゥ⁉︎』


 ドォカッ! 地面に倒れて苦しんでいるゴブリンソルジャーに、容赦なく小石を打つけた。

 ゴブリンソルジャーは抵抗する力も残っていなかったようだ。呆気なく倒された。


「どれどれ……獲得経験値は12か。まあまあ多いかな」


 ゴブリンソルジャーを倒したのは初めてなので、自分のステータスを確認して、増えた経験値を確認した。

 経験値と換金エルはスキルでは、見えないので自分で調べるしかない。

 ゴブリンソルジャーを倒す前の獲得経験値の合計は15だった。

 現在獲得している経験値は27だ。

 レベル2になるのに必要な経験値は合計で45だから、残りの経験値は18になる。

 ゴブリンソルジャー二匹倒せば、レベルが2に上がれるという訳だ。


「とりあえず、武器はありがたく貰っておこう」


 ゴブリンソルジャーの死体から棍棒を奪い取った。

 これで武器持ちの戦士になれる。

 ブゥンブゥンと軽く素振りをする。

 感触は悪くはない。これなら使えそうだ。

 あとはゴブリンソルジャーを神フォンで撮って、換金するだけだ。


「えっ? あれ? 取り出ししか表示されない。換金はどこにいったんだ?」


 神フォンでゴブリンソルジャーの写真を見るものの、換金が表示されない。

 魔物なのに換金不可の魔物もいるのだろうか? 

 それとも別の理由でも……あっ、もしかすると……。


 一つの疑いが頭に浮かんだ。

 神フォンからゴブリンソルジャーを一度外に出すと、棍棒バットを近くに置いて、一緒に撮影した。

 そして、棍棒バットと一緒に写ったゴブリンソルジャーの写真には、換金の文字が表示されていた。

 試しに棍棒バットだけを写真にして見たけど、こっちも単体では換金できないようだ。

 死体と武器のセットじゃないと換金不可らしい。


「棍棒は身体の一部じゃないでしょう」


 だったら、首無し死体や手足が無い場合も換金不可なのだろうか? 

 それは困る。綺麗に倒さないといけないなら、途端に難易度が高くなる。


「売れば、23エルが手に入るけど、端た金を手に入れるよりは、武器を選んだ方がマシだな」


 気になる事は色々とあるけど、とりあえず、23エルを諦めて武器を選んだ。


 それに本当にお金に困った時は、換金すればいいので問題ない。

 ゴブリンソルジャーだけを神フォンに収納すると、死にかけている次の魔物の所に向かった。


 ♦︎


 ——三日後。


 ゴブリンソルジャーの経験値は12。換金エルは23。飛蝗鳥の経験値は7。換金エルは17。ミニトレントの経験値は26。換金エルは35だった。


 基本的に身体がデカイ魔物の経験値が多いのは、ゲームでも、異世界でもお約束のようだ。

 順調に魔物を倒して、順調にレベルが上がっていく。

 必要な経験値は45→60→80→100→120→140→160→180→200と増えていく。


「育成ゲームもこれ以上は上がらないのか」


 三日で僕のレベル10になった。まだ女神様からの連絡は来ない。

 暇つぶしに神フォンに搭載されている育成ゲームで遊んでいたけど、こっちもレベル10で止まってしまった。


 育成RPGゲームといっても内容は簡単なアクションゲームと同じだ。

 小さな町の住人となって、町の住人からクエストを受けて、モンスターを倒して素材を入手する。

 そして、クエスト報酬として100~200ギルを住民から受け取る事になる訳だ。


 ちなみに、このギルはエルに換金する事は出来ないという納得できない設定だった。


 ゲーム世界には、『武器屋』『防具屋』『装飾品屋』『道具屋』『料理屋』の五つの店がある。

 その五つの店に投資という形でギルを貢いで、町と店を発展させていくというゲームだ。

 神フォンは電池切れもないし、通信状態は最高だ。画面が途中で止まったりもしない。

 サクサクと進んでいくけど、当然難しいクエストもある。

 貢いでばかりいないで、強力な武器や防具を、素材を入手して作らなくてはいけない。

 

「神フォンのお店で買える武器よりも、ゴブリン棍棒の方が攻撃力高いんだよなぁ~」

 

 ハッキリ言えば、神フォンには食事と回復アイテムの機能だけあればいい。

 そう思えるほどに酷い。

 とくに装飾品屋で買える『毒回避の指輪』は、毒を回避する確率は五十パーセントだ。

 二回攻撃されたら、一回は毒になる確率だ。

 それなのに値段は1400エル。焼きそば十六食分だ。

 

 必要なのは防具屋だけだ。

『風鳥のコート』。値段は790エルで、防御力140+魔法防御力50を購入した。

 薄緑色の膝まで隠す長袖のロングコートで、生地は薄く軽いのに防水、防刃、防魔法防機能がついている。

 倒した魔物の数は七十匹以上。防具を購入しても、残りの換金エルは585エルもある。

 

【名前=トオル。種族=ダークエルフ。レベル=10(最大レベル10)。

 HP=1015/1015。MP=156/156。

 腕力=181。体力=149。知性=181。精神=160。

 重さ=軽い。移動速度=少し速い。

 スキル=『魔物友達化(最大友達二人)』】

 

 レベルアップした事で、ゴブリン棍棒一撃のHPダメージは753と驚異的にアップした。

 素手での一撃のHPダメージは543、ゴブリン棍棒の攻撃力は210なので、武器の攻撃力はダメージにプラスされる仕組みらしい。

 HPダメージ753と言えば、毒状態の十二分間とほぼ同じHPダメージだ。


「この森から離れてみるか」


 レベル10になった今、毒蝶々は戦力として物足りなくなっている状態だ。

 一時間後にわざわざ倒しに戻るのは面倒くさい。

 友達の余裕があるから新しい友達が欲しいけど、ゴブリンソルジャーやミニトレントは、友達にするには微妙な能力だ。

 女神様からの連絡が来ないなら、やる事ないし、新しい友達探しでも始めようかな。

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