第8話

『ニャンニャン‼︎』

『⁉︎』


 小豹が毒蝶々の前に飛び出して、吠え続ける。

 多少は毒蝶々はビクッと反応したけど、声は上げなかった。

 まあ、昆虫だから、声は上げられないのかもしれない。

 でも、コオロギとか、セミとかは鳴ける。

 声は出なくても、音を出す事は出来るかもしれない。


 まずは余計な事を考えていないで、今のうちに小石を投げてみよう。

 ダメージが与えられないなら、小豹に犠牲になってもらうしかない。


ストレートストーン真っ直ぐ飛ぶ小石!」


 ちなみに投げられるのは真っ直ぐだけだ。

 カーブやフォークなどの変化球は投げれない。

 毒蝶々との距離は約七メートル。真っ直ぐ飛んでいった小石は、毒蝶々の右前翅ぜんしに直撃した。


『モス⁉︎』

「鳴いたっ⁉︎」


 ドガァ‼︎ 小石が直撃した瞬間に毒蝶々は、『やりやがったなぁーーー!』といった感じでフラついた。

 与えたHPダメージは50だった。

 俺様の腕力が50だから、おそらく、そういう事だろう。

 手から離れた攻撃は腕力の一倍。手からの直接攻撃は腕力の三倍なんだろう。

 でも、よく考えたら知性も50だった。でもでも、投石が魔法攻撃になるとは思えない。


 だとしたら、ミニトレントの特技である『葉っぱ手裏剣』もある程度の予想が出来る。

 ミニトレントの腕力は120、知性は66だ。

 神フォンのメモ帳に、ステータスは記録しているから間違いない。

 葉っぱ手裏剣が腕力による攻撃ならば、脅威になるけど、知性による攻撃ならば、数発喰らっても問題なくなる。


「ストレートストーン! ストレートストーン! こっちに来るなぁー!」

『モス⁉︎ モス⁉︎ モスッッッ‼︎』


 ドガァ! ドガァ! ドガァ!

 何故だか毒蝶々が、僕の方に一直線に向かって来る。

 吠えるだけの小豹よりも、遠距離攻撃が可能な僕を敵だと認定したようだ。

 必死に小石を投げて当て続ける。的は大きいけど、ダメージは小さい。


「くっ、三十個じゃ足りないよぉ~!」


 もうズボンのポケットと、左手に握っていた十個の小石を使い切ってしまった。

 神フォンを左手に装備すると、小石を一個右手に取り出して、投げては取り出しながら後退を続ける。


 毒蝶々のHPは1880なので、残りHPを188以下にすれば、友達に出来る。

 でも、その前にやる事がある。新しい友達を得るには、古い友達を排除しないといけない。

 小豹の腕力は35だ。与えるHPダメージの予想は105になる。


「小豹、攻撃しろ! 毒蝶々の攻撃は喰らうなよ!」

『ニャンニャン! シャアッ‼︎』


 毒蝶々の残りHPは880。もうそろそろいいでしょう。

 俺様は小豹に攻撃をお願いした。

 タァッ、タターンと小豹は地を蹴って飛び上がると、前脚で毒蝶々の翅を切り裂いた。


『モスッッッ⁉︎』


 バリッ! バリッ! バリッ!

 一撃、二撃、三撃と小豹は飛び跳ねて、毒蝶々を鋭い爪で攻撃し続ける。

 ドガァ! ドガァ! ドガァ!

 俺様も小石を援護投石して、毒蝶々に反撃する隙を与えない。


 とっくに小豹は毒状態だ。

 ストップウォッチの数字のように、小豹のHPが一秒間に1ずつ減少していく。

 気になるのは、HP減少が残りHP1でストップするのか、HP0まで続くのかだ。


「小豹、もういいぞ。離れて休んでいろ」

「ニャン……」


 毒蝶々の残りHPは465、やられる前に小豹を下がらせた。

 フラフラと歩く小豹の足取りは、まるでトイレを我慢する人間のようだ。


 残りの小石は八個、六発当てれば友達に出来る。

 地面に落ちている小石は毒蝶々に当たった事で、毒の小石になっている可能性がある。

 死にたくないので絶対に使わない。


 ドガァ! ドガァ! ドガァ! と力を込めて、小石を一、二、三……六発当てる。

 毒蝶々の残りHPが165になった。

 とりあえず、試してみたい事がある。


「スキル『魔物友達化』‼︎」


 まずは毒蝶々の身体に触れずに、友達になれるか確認だ。

 両手の手のひらを毒蝶々に向けて、三メートルの距離でスキルを発動させた。


『モス⁉︎ モスツツッッッ~~~‼︎』


 毒蝶々の身体が光に包まれる。

 触れなくても友達に出来るようだ。

 けれども、確認したい事はもう一つある。

 友達に出来る魔物の上限は一人だ。

 既に小豹と友達ならば、どうなるのか知りたい。


【友達の上限を超えています。『小豹』を捨てて、『毒蝶々』と友達になりますか? 『はい』or『いいえ』】


「なるほど、こうなるのか」


 目の前にステータス画面のような選択肢が表示された。

 はいか、いいえを選ぶようだ。

 落ち着いて、ゆっくりと選びたいけど、選ぶまではこの場から動けないようだ。

 身体が手足を含めて、ピクリとも動かない。

 別の魔物がやって来る前に早く選ぼう。

 どっちを選ぶかは決まっている。

「はい」と力強く言うと、毒蝶々を包んでいた光が消えた。


『モスゥゥ♪』

「よし、友達に出来た。次は後始末だ」


 毒蝶々はヒラヒラと舞って嬉しそうにしている。

 キチンとステータスを見ると、強制友達状態になっている。

 逆に離れている所に休んでいた小豹は唸り声を上げ始めている。

 ステータスを確認すると、状態異常から友達の文字は消えていた。

 やっぱり僕達は敵同士に戻ってしまったようだ。


「ストレートストーン!」

『ニャン⁉︎』


 ドォカッ! 敵には容赦しない。

 小石を一個投げつけて、残りHP1でストップしている小豹にトドメを刺した。

 経験値5を獲得して、ついでに写真で撮って、換金して12エル獲得した。

 小豹は俺様の為にその命を捧げたようだ。さすがは戦友だ。


「フッフフ、あとは単純作業だ。毒蝶々、影の中で休んでいろ」

『モスモス』

「……遅いな」


 毒蝶々のステータスの移動速度は普通だ。

 フヨフヨ、フヨフヨとゆっくり飛んで来る。

 少し速いの小豹の移動速度と比べると、やっぱり遅い。

 移動速度が少し遅いのゴブリンソルジャーには、通用する可能性は高いけど、移動速度が普通のミニトレントと飛蝗鳥は難しいかもしれない。


 けれども、毒蝶々の身体に触れさせれば問題ない。

 影の中で休憩させて常にHPを回復させていれば、数回の攻撃には耐えられる。

 そして、攻撃した相手は毒状態になる。


「ふっふふ、あっははははははっ! 俺様の時代が来たぞ!」


 小石を拾いながら、神フォンのマップで近くの獲物を探した。

 俺様の計画はこうだ。

 毒状態にすれば、一秒間にHPが1減少する。

 HP3600のミニトレントでも、一時間後にはHP1になってしまう。


 魔物を見つけたら、とりあえず毒状態にして逃げる。

 周辺の魔物をある程度、毒状態にしたら休憩だ。

 時間が経って、残りHP1になった所に、ストレートストーンで安全に倒して回ろうという計画だ。

 倒したゴブリンソルジャーの武器もついでに手に入れれば、残りHP1になるまで待つ必要もない。

 あっという間に、レベル10になる目標は達成できる。

 まさに完璧な計画だ。

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