第19話
喫茶店に着いた。
俺たちが座ったのは昨日と全く同じ4人掛けのテーブル席。
二人分のアイスティーを頼んだ。
彼女は薄い白パーカーを羽織り、下はホットパンツにスニーカー。
どうやら胸は結構大きい方のようだ。
小さな化粧ポーチも持ってきているみたいで、俺はNTRノートを入れた手提げカバンを持ってきている。あの化粧ポーチには何が入っているんだろう。
また、ここに来るまでに有菜からの返事はなかった。
この時間は風呂に入っていることが多かった気がする。
店内には俺たち二人の他に、誰もお客さんはいないようで閑散としていた。
早速、本題のNTRノートについて話を聞こう。
「よしじゃあ早速、ねとら────」
「あ〜あ! このお店、やってましたね。チッ」
どうやら話すタイミングが被ってしまった。
先にアオの話に乗ることにする。
「もし、閉店してても前の歩道で待ってたぞ」
「いえ。きっと雨が降って、私たち二人は場所に困っていたはずです」
「何だよその設定」
「そして目の前の『性欲持て余しホテル』へ」
「おいおい、勝手に名前付けんなよ。あのホテルは『子作りホテル』って名前になるんだから」
「な、ナンダッテー!? というかなぜ知ってるんですか……」
「色々あったんだよ」
俺のネット嫁は現実世界でもチャットと同じノリで話しかけてくる。
下ネタ多めだが、俺たち以外に誰もいないし別に良いか。
「教えてください、私はイサの嫁ですよ。っていうか誰かと行ったんですか? こんな短い間で? やっぱり学校のあの噂は……本当だった、とか!?」
「何だよ噂って、誰とも行ってねぇよ」
「てへっ。あー、口が滑っちゃいました。噂というかBLというかネカマ希望というかBLというか」
「…………おい、今なぜBLを2回言ったんだ。男同士でラブホなんて行かないぞ。てか一回も行ったことない。ネカマ希望は確かにプロフィールには書いてたけど。現実でそういう趣味はないんだ」
「つまり男の人が──好きではない、と?」
なんだか誘導尋問されている気がする。
「そ、そうだ! 俺はノーマルだ、ノンケだ! 女の子が好きなんだよ!」
「へぇ〜! 良いんですか? こんなに夜遅くのラブホ前に。私たちは両方ノーマルで、男と女なんですよ?」
男だの女だのという言葉が胸に突き刺さる。知り合って半年間、ずっとアオのことをネカマだと思って接してきたがその実、本当に女の子、というか美少女で。
さらにコルネット内では確か3ヶ月ほど前からアオが妙に恋人っぽく接してきてたことを思い出してしまい、照れと恥ずかしさが込み上げてきた。
「……………………っ」
「固まってますよ? どうしましたか イサ?」
「いや、だって……ずっと男だって思ってたし。ネカマ希望だったし」
ここは現実で、俺たちはあくまでもコルネット内の関係なんだ。
仮に俺がこっちで変な気を起こしてしまったら、アオにも悪いと思う。
だけど彼女は口角を少しだけ上げ、満足そうに微笑んで。
「そーですか。でもあくまでネカマ希望は希望なんですよねー。必須じゃないし! それで、実際の私はどうですか? 可愛いですか?」
質問しながら、こちらをじぃっと見つめるアオの大きい2つの瞳。
まるで何かを探っているようなその瞳に、胸を締め付けられる。
「……め、めちゃくちゃ可愛いと、思う…………け、ど」
「うんっ、外見を褒められるのも案外嬉しいものなんですね。ではそろそろ『
「……………………い、いやぁ」
理解したくないんだ、それは。
彼女がキャラの顔、髪型と似ていないのが唯一の救いだ。
『aoringo』は髪こそ青いがストレートだし、目の色も赤だった。
一方、目の前のアオは可愛らしいたれ目で青い、背が小さいから自ずと上目遣い。
人差し指で机越しに俺の下半身辺りを指さして。
「まだ嫁が誰だかわかりませんか? それでは体からですね。ちょうどそのニクボーメロメロを使いますか?」
「いや駄目だろ」
「どんなパッケージに入ってるんですか? やっぱ黄色?」
「おい、男にパンツの色聞いてどうするんだ」
「さて、ここでクイズです。嫁のパンツは何色でしょうか?」
チャット上だといつもしているような冗談だが、もしかしたらNTRノートのせいで変な方向に行ってしまうかもしれない。
それは、彼女にとって不幸なことで。
そうなる前に確認しないといけないだろう。
「──────アオ……野さん、そのさ」
「せ〜か〜ッ…………?」
だから言うんだ。
勘違いのナルシスト野郎だと、罵倒されてもいい。
NTRノートの力、その可能性をなくそう。
「────コルネット内だけだよね? 俺たちの関係って」
「そうですよ」
うん、だよな……。何だか振られたような気もして複雑だけど。でもこれでもう一つの疑問もスムーズに聞ける。
「良かった、あと何で俺を特定することがで…………」
「だから良いんじゃないですか」
また途中で、アオに遮られてしまった。
「……ん?」
「顔も知らない。名前も解らない。立場も年齢も何もかも。勿論、面倒臭い家族関係もなければ、生まれ育った環境が作るまやかしの気持ちも全て。
────そう思いませんか?」
「……………………」
アオの捲し立てるような言い方に、思わずたじろいでしまった。
続いて。
「ね、イサ。だからと〜っても尊いでしょう。そんな世界で結ばれた私たちのかんけ…………」
────その瞬間。
スマホが鳴った。
俺の名前をNTRノートに書いた幼馴染、有菜から電話のようだ。
「どうぞ、出ていいですよ」
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