第20話

 話の途中だったのにアオは通話を許してくれた。

 マナー違反だとは思うが、あのまま話を進めていたら告白、もしくは告白に近いことを受けていた気がする。


 NTRノートのせいでもそうでなくても、俺みたいなやつに告白するなんて、アオの人生において完全な黒歴史になるだろう。だから有菜は良いタイミングで電話を掛けてくれたと思う。


 俺はそのまま外に出て一旦深呼吸すると、ガラス張りでよく見える喫茶店を背に有菜と電話を始めた。




『もしもし』


『もしもし、そちら子作りホテル前ですか?』


『やめろよ事実だから』


『わざわざそんな場所で待ち合わせなんて、な〜に考えてるんだか。や〜らし!』


『あっちから指定があったんだって! ってか子作りホテルになるんだからやらしいとか言うなって』


『指定場所変えたらいいじゃん! それとも、ホテル名が変わる前にディープキス以上のことを凛ちゃんとしたいの? それぐらいあるのに?』


『ちげーよ、ノートの件とか色々……って、ん? おい有菜……今何度も経験って言ったよな? もう無理だぞ、はっきり聞いたぞ』


 たまに有菜は黒歴史のことで意味深な発言をするが、いつもは匂わせるだけだ。

 しかし、今回は完全に言い切っていた。


『あっ…………こほんっ! 話脱線してるよ勇緒? あ〜でもご褒美として…………う〜ん』


『ん? なんだよご褒美って』


『ほら、りっちゃんも説得してくれたし、放課後にくれたメッセージとか……その、なんていうか……う、う〜ん。だから、そのね。今日だったら教えてあげなくもないかなぁって? 気分が変わらないうち、今すぐなら!』


 マジかよ。

 滅茶苦茶知りたい。

 有菜をそういう目で見たくはないけれど、長年の疑問の一つなんだ。


 だけど。


『えっ 今!? くっそぉ…………う〜ん、でもなぁ……う〜ん』


『……? ちょっと待って。 悩むってどういうこと? おかしくない?!』


『はは、そういう時も、ある、んじゃ……ないかな』


『ねぇ、今ナニしてるの』


 なぜか後ろめたい気持ちになって隠したくなったけど、駄目だよな。

 白状しよう。するべきだ。


『えっとですね。多分今からねと……じゃないこくられ……をそのですね……ええ』


『はーっ!! だから凛ちゃん好きだと思うって言ったのに!! ていうかなんでタジタジなの?!』


『た、多分だよ多分。あんなめちゃくちゃ可愛い子に……どうしよ』


『うん? 今もしかして、どうしようとか言った? しかもめちゃくちゃ可愛いって言った? 今告られてる人が? 違うよね? まさかね?』


『いやだって初めてだもん。どうしていいか分かんない。ってか告白って迫力あり過ぎて怖いんだなって思って……』


『なにそのって女の子みたいな言い方! 初めて聞いたんだけど!』


『だって初めてなんだもん。あの子怖いんだもん』


『怖い? 勇緒も凛ちゃんが犯人だって思ってたりする? あーでもちょっと待って、っていうのにまた腹立ってきたッ!! わたしはまいに────』


 一瞬、有菜の声が頭に入らなくなった。

 有菜にアオと犯人を結びつけられ、思い出すことがあったから。


 そういえば机に広げられたNTRねとられノート、それ自体のページは白くて、ただの普通のノートしか見えないことを。

 そして、その一見普通のノートを見てなぜそれがNTRねとられノートだとアオが分かったのか、ということ。

 

 あの時気づけたことなのにと軽いショックを受け、それから電話越しにも伝わってくる有菜の剣幕で無意識に耳元からスマホを離してしまう。


 すると。


 ──────はむっ。


「っ……ぅ」


 電話していた方の耳たぶに一瞬、後ろから柔らかいものに包まれた。


 思考停止し数秒後、それがだと気づいた。


 声にならない声が出て、首だけで振り向く。


 その瞬間。

 心臓がドクンと音を立てた。


「えっ…………」


 それは青髪ストレートヘアで赤い瞳の美少女。


 一緒に色んな敵を倒し、空飛ぶ島や砂漠、荒野を駆け回ったフレンド、今ではネット嫁の────『aoringoあおりんご』がそこに居た。


「イサ、私が怖いですか?」


「…………あ……アオ?」


「ん〜っ! やっと呼んでくれましたねっ それじゃあ大丈夫ですっ!」


 ──────ギュッゥ


 後ろからハグされた。

 それじゃあってどういうことだ。


 色々当たってるし薄着過ぎないかそれ。

 チラ見したら白パーカーにホットパンツ……。

 トイレで軽いコスプレでもしたようだ。


「ちょっ…………えっ……ちょ……」


「私、犯人じゃありませんよ? だって────先輩達4人の名前は書かれてるんですから」


「え…………そうなの?」


「そうですよ、イサ。 先咲先輩も聞こえてますよね? 今、夫婦でハグしてるんですよ? へへっ」

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