第14話
目的の美少女二人組、有菜と夏樹さんは今、半開きの扉の目の前にいる。
どうやら彼女達の居場所は、この屋上だったようだ。何故ここにいるのか、それは全く検討もついていない。
「あれ、自分で書いたの?」
「うん…………そうだよ」
おいおいおい。「書いた」ってなんだ。
物騒すぎるワードが飛んできた。
有菜の問いに夏樹さんも肯定してるし。
嫌な予想をしてしまう。まさかな。
どうしよう。こんなのここから出れる訳がない。
そういえば、俺が漢文の授業中に窓の外を見ていたら、ノートは上から落ちてきたんだ。あれは誰かが、この屋上から落としたってことだよな……。
「そっか。りっちゃん凄いね……」
「全然凄くなんてないよ。私じゃ、ああするぐらいしか思い付けなかったし。山田先輩に見つかっちゃったし」
「普通は思い付きもしないよ!
きっとそういうのに適性があるんじゃないかな」
────適性、だと。
つまり、勝手に推理するとこれは。
夏樹さんは自分自身の名前をノートに書いた。
何故なら────『セルフ寝取られ願望』があるから。
ということじゃないだろうか。
嘘だろ、かなり強者じゃないか。
俺の勝手な推理では残り3人を書いた理由が分からないが……。
そして二人の会話、その単語一つ一つに破壊力があって忘れていたが、山田先輩、いやそれ以外の他の男の存在も確認しなければ美少女二人が危ない。
もうちょっと屋上を確認しよう。
俺は焦って半開きの扉の角度をまた広げた。
────キィィ。
金属が擦れる音。
まずい。
俺の存在が目の前の二人にバレてしまった。
ばっちり二人から見つめられている。
しかし、その反応は俺が想像していたものとは違った。
有菜はさぞ楽しそうなニヤニヤ顔で。
夏樹さんは少し驚いた表情で。
「りっちゃん、ほらね。わたした……こほん、勇緒の方がえっちで恥ずかしいこといっぱいあるし、もう気にすることないって!」
「…………すっごい」
ちょっと待て、何暴露してくれてるんだ。
それに今、絶対「私たち」って言いかけただろ。
一体、どんなフォローに繋がるんだよ。
パニクりすぎて頭が追いつかない、言葉が出ない。
「…………」
夏樹さん、俺が「えっち」だとしてもすごいなんて驚かれるほどではないと思う。
だってセルフ寝取られ願望を持ってらっしゃるんでしょう。
ちゃっかり山田先輩とホテルに行ってたし……それでなぜ「勇緒の方が」となるのか。
待てよ……有菜はよく意味深発言をする。
あれは本当だったのか。
昔、俺が寝ている時に────キッス以上のことを…………。
とにかく、今はそれよりも目の前の楽しそうな二人に、そろそろ水をささないといけない。
まずは先に、事の真相を確認しなければ。
聞き耳を立ててしまったことにも謝らないといけないし。
「ごめん…………ちょっと話を聞いてしまってたんだけど」
そういうと、夏樹さんは顔を真っ赤にさせて、有菜は目を大きくして固まった。
やはり聞かれてまずいこと、ではあったようだ。
「え、嘘ッ──────」
「げ、聞いちゃってた?」
「…………う、うん」
「どうしよっか……りっちゃん」
といいながら、ちらちら夏樹さんの方を確認する有菜。
「い、いいよあっちゃん! 吉野くんの話、よ〜く部活の時に聞い────」
「ちょっっっと! そうそう! りっちゃんってね! 凄く恥ずかしがり屋さんだから、すぐ顔が赤くなっちゃうんだ!」
いや、それは知ってるが。
そして今一番顔が赤いのは有菜なんだが。
「一旦、落ち着こう。俺も聞く心構えができてないし」
「そ、そうだね!」
「…………うん」
俺はずっと入り口でドアノブを持っていた姿勢から、やっと屋上に入った。
そして暫くしてから、セルフ寝取られ願望の疑惑がある黒髪ショートボブ美少女こと、夏樹さんが口を開いた。
予想外のワード。某民泊マッチングアプリのエアピー&ピー(通称:エアピー)と共に。
「えっとね……ことの発端はエアピーなんだ……。それで山田先輩に昨日から脅されて、その……皆んなに、バラされたく、なかったら……え、えっちな、ことって…………」
「……………………うん?」
エアピー&ピーって民泊マッチングアプリ、だよな。
それで何を脅されてるんだ。というよりNTRノートの話じゃないのか。
今は名前のピー音2つで余計に分からない、頭がボーッとする。
「勇緒、安心して! 昨日はまだギリギリセーフ! 私的に!」
絶対セーフじゃないだろ。何言ってんだ。
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